生物濃縮
生物濃縮
生物濃縮
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/28 04:35 UTC 版)
生物濃縮(せいぶつのうしゅく)は、ある種の化学物質が生態系での食物連鎖を経て生物体内に濃縮されていく現象をいう。生体濃縮(せいたいのうしゅく)[1]ともいう。
疎水性が高く、代謝を受けにくい化学物質は、尿などとして体外に排出される割合が低いため、生物体内の脂質中などに蓄積されていく傾向がある。特定の化学物質を含んだ生物を多量に摂取する捕食者では、さらに体内での物質濃度が上昇する。食物連鎖の過程を繰り返すうち、上位捕食者ほど体内での対象化学物質濃度が上昇する。
生物濃縮に類似して生物蓄積の用語があり、英語のBioaccumulationの訳語とすることがある。これは生物蓄積が、有害物質が水などの環境媒体から生物体内へ濃縮される過程(生物濃縮・Bioconcentration)と食物連鎖により増強される過程(Biomagnification)とを合わせたものであるためである。
毒化
魚介類中のドコサヘキサエン酸、フグやイモリなどの毒、貝毒、季節的なカキの毒化などは、生息域の細菌や餌となる生物によって合成された化学物質が生物濃縮で取り入れられたものである。
環境問題
生物濃縮による環境被害は、レイチェル・カーソンが著書『沈黙の春』でDDTなどによる生物濃縮問題を論じたことで、よく知られるようになった。すなわち、上記のような生物濃縮されやすい物質の性質を、たとえば一部の農薬や重金属も持っているということである。農薬の場合、水に溶けにくいことや分解しにくいことは、実際に農地に散布した場合にその効果が長く保てることから、優れた性質と考えられていた面がある。その最初の例であるDDTもこの性質を持っていたため、高次消費者に高濃度で蓄積する結果を招いた。つまり、「人為的な廃棄物の中では微量であったものが、重要な影響を与えうる濃度にまで上昇する」というものである。
カーソンの指摘の後にはさまざまな論争が起こったが、「少なくとも農薬に関しては残留しにくいものをできるだけ少量で効果的に用いる」という方向に変換された。
除草剤や殺虫剤などに含まれる人工的な化学物質が生物濃縮され、致命的な毒性を現すことがある。1949年、カリフォルニア州クリア湖で大量発生したユスリカのような昆虫駆除のためにDDD(ジクロロ-ジフェニル-ジクロロエタン)が散布された際に、数年後にクビナガカイツブリが多く死亡した[2]。散布されたDDDの濃度は質量比で0.02ppmという低い濃度で散布されたが、のちの調査により、湖水と比較して8万倍の濃度のDDDが水鳥に蓄積されていることが明らかになった[2]。さらにプランクトンは5.3ppm、小型の魚は10ppm、大型の魚は1500ppm、大型の水鳥は1600ppmであった。
海洋生態系の最高次生物であるクジラ類への生物濃縮はとくに深刻な場合がある[3]。北太平洋西部での調査では、スジイルカに残留するDDTおよびPCBの濃度が海水と比べてそれぞれ3700万倍・1300万倍も濃縮されていることが示された[3]。有明海のスナメリやアメリカ・地中海のハンドウイルカからも、同様の化学物質の蓄積が確認されている[3]。クジラ類はアザラシと比べて出産や授乳によって母から子へ移行する化学物質の割合が高いことが指摘されており、クジラ類の寿命も長いことから、生物濃縮によるクジラ類の汚染は簡単には収束しないとされている[3]。
水銀中毒やカドミウム中毒、放射性降下物の生物濃縮も問題である。
食中毒
応用
1.生物濃縮を利用して環境汚染を調べる手法が、海洋放射生態学研究部や通産省などによって開発されつつある[4][5][6][7]。
バイオレメディエーションで汚染の浄化に用いられる。
2.生物濃縮による有毒化の原理を逆に応用し、餌の管理をすることで無毒のフグを養殖することに成功している。
出典
- ^ 生体濃縮(せいたいのうしゅく)とは - コトバンク大辞林 第三版の解説より(2018年3月2日閲覧)
- ^ a b 日本生態学会『生態学入門』東京化学同人、2004年8月26日。ISBN 978-4-8079-0598-0。
- ^ a b c d 中田晴彦『第9章 海洋汚染と鯨類 村山司(編者)「鯨類学」』東海大学出版会、2008年5月20日。ISBN 978-4-486-01733-2。
- ^ 2.4.11 海洋放射生態学研究部
- ^ D-2 海洋汚染物質の海洋生態系への取り込み、生物濃縮と物質循環に関する研究
- ^ 国立環境研究所ニュース18(5) イカ肝臓を指標としてみる海洋におけるダイオキシン類の分布
- ^ D-2 海洋汚染物質の海洋生態系への取り込み、生物濃縮と物質循環に関する研究(PDF)
関連項目
生物濃縮
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/01 01:31 UTC 版)
これら動物は、他の動物を捕食することで、その捕食された動物が摂取した栄養素を二次的に利用する。この場合、骨や内臓も食べることになるため、それらに蓄積された栄養素も消化・吸収する。しかしその一方で、尿や汗によって体外に排泄されにくいために、これら被捕食動物の体に蓄積された脂溶性の汚染物質も吸収することになる。したがって、有害物質などが被捕食動物よりも高濃度で蓄積し、より大きな被害が出る場合もある(生物濃縮)。近年では一部地域で、これら食物連鎖による高濃度な公害による汚染によって、野生肉食動物の絶滅が危惧されている所もある。 捕食することでその餌動物から特殊能力を受け取る例もある。ウミウシの仲間には餌にする海綿動物などの動物の持つ毒物を体内に取り込んで、自分が魚などに食べられないための防御に用いるものが多いが、なかでもミノウミウシ類は刺胞動物を餌として、その時に餌のもつ刺胞を壊さずに取り込み、自分の背面などに保持して、自己防衛に使う。また嚢舌類と呼ばれるウミウシの仲間は緑藻類に属する海藻の細胞の中身を吸引して餌にしているが、そのとき葉緑体は消化せずに生きたまま背面にある細胞に取り込み、光合成をさせて活動に必要な栄養素を獲得している。餌に含まれる毒素の利用は昆虫でもよく知られおり、マダラチョウ科のチョウの多くは幼虫時代に食草から取り込んだ毒物によって鳥に食べられにくくなっている。
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