地震の前兆
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/17 08:28 UTC 版)
「地震前駆現象」も参照 地震の前兆の定義は、資料によってその認定範囲が大きく異なる場合がある。IAPSEIが1989-1990年に行った評価では、約20の前兆とされる事例のうち、大型余震前の余震活動低下、前震(海城地震の研究報告に基づく)、地球化学的前兆(伊豆大島近海の地震の研究報告に基づく)の3つだけが「全幅的に信頼できる前兆」、地殻のひずみ(1923年関東地震の研究報告に基づく)、大地震に数時間先行した土地傾斜(1944年東南海地震の研究報告に基づく)、大地震の前の地震活動や地殻活動(日本海中部地震の研究報告に基づく)の3つは「追加的証拠がなければ判定しがたい事例」、それ以外の15事例は「前兆とは認められない事例」と厳しく評価している。一方、力武(1986)、気象研究所地震火山研究部(1990)、防災科学技術研究所(1995)などは「前兆とされる事例」として数百の事例を紹介している。こうした違いは前兆をふるい分けしているかどうかに起因するもので、扱う際には注意を要する。 ここでは参考として、『地震の事典 第2版』において「地震の前兆(先行現象, precursor)といわれる現象」として紹介されている事例を示す。 地震の前兆(先行現象)といわれる現象の分類種類現象現象の時間規模観測方法地殻変動 土地の水平歪速度の変化 長期・短期 GPS、光波測量、ひずみ計、伸縮計など 土地の傾斜の方向や速度の変化 長期・短期 水準測量、傾斜計 土地の昇降速度の変化 長期・短期 水準測量、傾斜計、GPS、検潮、重力測定 地球潮汐や降雨など外部からの擾乱に対する地殻のレスポンス(応答)の変化 長期 伸縮計、傾斜計、重力計など 地震活動 地震活動の異常(異常な活発化や静穏化―空白域、ドーナツパターン形成、活動の移動など) 長期 地震計 地震活動の特性の変化(地震波形、発震機構、b値など) 長期 地震計 前震 短期 地震計、体感 地震波 地震波の速度、減衰、散乱などの変化 長期 地震計 電磁気 地磁気の異常変化 長期・短期 磁力計、磁気測量、地磁気変化計 地電位差、地電流の異常変化 短期 電位差計 地殻の電気伝導率の変化 長期 電気探査 地磁気の短周期変化に対する地殻のレスポンスの変化 長期 MT法、GDS法 土地の電気抵抗の変化 短期 比抵抗変化計 電磁放射 短期 電波受信機 電波伝搬状態の変化 短期 電波受信機 地下水など 井戸の水位変化 短期 水位計、目視 泉の湧出量の変化 短期 流量計、目視 井戸や泉の水温変化 短期 温度計、体感 井戸や泉の水質(におい、濁り、成分(ラドン含有量など))変化 短期 化学分析、目視、嗅覚 断層ガス(地中ガス)の化学成分 短期 化学分析 その他 動物の異常行動 短期 目視 地鳴り 短期 聴覚 発光現象 短期 目視 前兆検出のための観測の中で異常(anomaly)が発見されても、地震に結び付けられるものは少なく、それ以外のほとんどがノイズである。ノイズの中には原因が明らかなものもあるが、不明なものも多いため、前兆かノイズかの判断は難しくなる。また、前兆の出現範囲は、ふつう地震の大きさに関係があると考えられるが、地震の性質や地下構造によっても異なるだろうと考えられている。これらは、地震予知の困難さの一因にもなっている。 なお、宇津(2001)によれば、日本のように地質構造が複雑な上に気象や海象の変化に富み、かつ社会活動が活発な国は、ノイズが多い傾向があり、大陸に比べると観測環境は厳しいという。
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