公権力の行使
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ここでいう「公権力の行使」とは、国又は公共団体(ここでいう公共団体とは公権力の行使をゆだねられた全ての団体を含む)の作用のうち純粋な私経済作用と国家賠償法2条によって救済される営造物の設置又は管理作用を除くすべての作用を意味するとされる(東京高等裁判所昭和56年11月13日判決、広義説)。なお、公権力の行使には不作為、行政指導が含まれ、公権力には立法権、司法権が例外的にも含まれる余地がある。 最高裁判例では「公権力の行使とは、行政行為や強制執行など国民に対し、命令強制する権力的作用に限らず、純粋な私経済的作用と国家賠償法2条によって救済される営造物の設置または管理作用を除くすべの作用を意味する。」としている。(最高裁判例 昭和62年2月6日、通説) 公権力の行使に関わる判例 最高裁昭和56年4月14日判決・民集35巻3号620頁弁護士法23条の2に基づく照会に漫然と応じた政令指定都市の区長がした前科及び犯罪経歴の弁護士会への報告を違法な公権力の行使とした(前科照会事件 )。 最高裁昭和62年2月6日判決・集民第150号75頁国家賠償法1条にいう「公権力の行使」には、公立学校における教師の教育活動も含まれる。 最高裁昭和60年11月21日判決・民集39巻7号1512頁国会議員の立法行為は、立法の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらずあえて当該立法を行うというごとき例外的な場合でない限り、国家賠償法1条1項の適用上、違法の評価を受けるものではない。 最高裁平成9年9月9日判決・民集第51巻8号3850頁国会議員が国会の質疑演説討論等の中でした発言につき、国の損害賠償責任が肯定されるためには、虚偽であることを知りながらあえてその事実を摘示するなど、特別の事情があることを必要とする。 最高裁昭和57年3月12日判決・民集第36巻3号329頁裁判官がした争訟の裁判につき国家賠償法1条1項の規定にいう違法な行為があったものとして国の損害賠償責任が肯定されるためには、右裁判に上訴等の訴訟法上の救済方法によって是正されるべき瑕疵が存在するだけでは足りず、当該裁判官が違法又は不当な目的をもって裁判をしたなど、裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認めうるような特別の事情があることを必要とする。 最高裁平成5年2月18日判決・民集第47巻2号574頁武蔵野市がマンションを建築しようとする事業主に対して、指導要綱に基づき教育施設負担金の寄付を求めた場合において、右指導要綱が、これに従わない事業主には水道の給水を拒否するなどの制裁措置を背景として、義務を課することを内容とするものであつて、右行為が行われた当時、これに従うことのできない事業主は、事実上建築等を断念せざるを得なくなつており、現に指導要綱に従わない事業主が建築したマンションについて、水道の給水等を拒否していたなど判示の事実関係の下においては、右行為は、行政指導の限度を超え、違法な公権力の行使に当たる。 公権力の行使の不作為(権限の不行使)に関する判例 最高裁昭和59年3月23日判決・民集38巻5号475頁大日本帝国陸軍が海中に投棄した砲弾が海岸に打ち上げられ、その爆発の危険を未然に防止するために必要な警察官の措置の懈怠を違法とした(新島砲弾爆発事件)。 最高裁昭和57年1月19日判決・民集36巻1号19頁他人の生命又は身体に危害を及ぼす蓋然性の高い者の所持するナイフについての警察官の一時保管措置の懈怠を違法とした。 最高裁平成1年11月24日判決・民集第43巻10号1169頁宅地建物取引業者に対する知事の免許の付与ないし更新が宅地建物取引業法所定の免許基準に適合しない場合であっても、知事の右行為は、右業者の不正な行為により損害を被った取引関係者に対する関係において直ちに国家賠償法1条1項にいう違法な行為に当たるものではない。 知事が宅地建物取引業者に対し業務停止処分ないし免許取消処分をしなかった場合であっても、知事の右監督処分権限の不行使は、具体的事情の下において、右権限が付与された趣旨・目的に照らして著しく不合理と認められるときでない限り、右業者の不正な行為により損害を被った取引関係者に対する関係において国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けない(宅建業事件)。 最高裁平成7年6月23日判決・民集第49巻6号1600頁厚生大臣(当時)が医薬品の副作用による被害の発生を防止するために薬事法(当時)上の権限を行使しなかったことが、当該医薬品に関するその時点における医学的、薬学的知見の下において、薬事法の目的及び厚生大臣に付与された権限の性質等に照らし、その許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときは、右権限の不行使は、国家賠償法1条1項の適用上違法となる(クロロキン薬害事件、もっとも結論では厚生大臣の責任を否定した)。 最高裁平成16年4月27日判決・ 民集第58巻4号1032頁鉱山保安法に基づく省令の改正を行わず、さく岩機の湿式型化等を一般的な保安規制とはしなかったことなど判示の事実関係の下では、じん肺法が成立した後、通商産業大臣(当時)が鉱山保安法に基づく省令改正権限等の保安規制の権限を直ちに行使しなかったことは、国家賠償法1条1項の適用上違法となる(三井鉱山じん肺訴訟)。 最高裁平成16年10月15日判決・ 民集第58巻7号1802頁(関西水俣病訴訟) 中国残留日本人孤児 国家賠償訴訟 最高裁判所大法廷平成17年9月14日判決・民集 第59巻7号2087頁。国会の立法行為につき「国会議員の立法行為又は立法不作為は,その立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合や,国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり,それが明白であるにもかかわらず,国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合などには,例外的に,国家賠償法1条1項の適用上,違法の評価を受ける。」として「国外に居住していて国内の市町村の区域内に住所を有していない日本国民に国政選挙における選挙権行使の機会を確保するためには,上記国民に上記選挙権の行使を認める制度を設けるなどの立法措置を執ることが必要不可欠であったにもかかわらず,上記国民の国政選挙における投票を可能にするための法律案が廃案となった後,平成8年10月20日の衆議院議員総選挙の施行に至るまで10年以上の長きにわたって国会が上記投票を可能にするための立法措置を執らなかったことは,国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるものというべきであり,国は,上記選挙において投票をすることができなかったことにより精神的苦痛を被った上記国民に対し,慰謝料各5000円の支払義務を負う。」とした。 (在外日本人選挙権訴訟)
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