乳頭癌
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/17 23:30 UTC 版)
甲状腺分化癌である。頻度は全甲状腺癌の85%から90% と、甲状腺癌のなかでは最多である。女性に多く(1:4)、若年から高齢者まで各年齢層にみられる。画像診断としては超音波検査が推奨される。エコーにおいて、不整形状、不均質な内部エコーを示すことが多い。また、しばしば内部に微細な石灰化による散在性の高エコー域を認める。境界不鮮明で、被膜浸像を伴うことがある。肉眼的所見としては、硬い結節を持ち、表面に凹凸がある。病理診断においては微細な石灰化(砂粒小体)が指摘され、また、穿刺吸引細胞診では、集団を形成した腫瘍細胞が多数採取される。細胞集団は乳頭状またはシート状の配列を示し、細胞内にはすりガラス状の核がある。また、細胞質が核内に陥入して切れ込みを作り、封入体のように見えることもあり、これを核内細胞質封入体と呼ぶ。なお、血液検査においてはサイログロブリン値上昇が出現するが、これは特異的なものではないため、診断的価値は高くない。 腫瘍の成長は遅く、特に微小な腫瘍は倍加するのに数年を要する場合もある。主にリンパ行性の転移を示し、初診時に既にリンパ節転移を起こしているケースもあるが、発育が遅いため、予後はそれでも悪くない。特に55歳未満の場合には、遠くの臓器への転移していてもII期に分類され、予後が非常に良い。一方、55歳以上の乳頭癌では領域リンパ節に転移がない4cm以下ものはI期、ありはII期に分類。4cm以上または前頸筋群にのみ浸潤しているものはⅡ期、甲状腺癌が被膜をこえ、皮下軟部組織、喉頭、気管、食道、反回神経のいずれかに浸潤しているものはⅢ期、甲状腺外部の組織(椎前筋膜や縦隔内の血管)に浸潤、あるいは癌が頸動脈の全体を取り囲んでいるものをⅣA期、癌が遠くの臓器に転移しているものをⅣ B期としている。40歳以降に出てくる甲状腺癌とは別の癌ではないかというのが、芽細胞発癌説(fetal cell carcinogenesis)である。福島での県民健康調査で子供の甲状腺癌が多数見つかっているが、放射線の影響ではなく、本来子供から持っている癌をみつけてしまった過剰診断の可能性がUNSCEAR(原子放射線の影響に関する国連科学委員会)の福島原発事故の放射線被ばくの程度と影響に関する報告書で指摘されている。甲状腺芽細胞から発生する癌は成長に限りがあるSelf-limiting Cancerで、これを若年型甲状腺癌と呼び、10-20代で急速に成長し、転移・浸潤もきたす。一部はこの時期に臨床癌となり、首の結節等で見つかることもあるが、滅多に生命に関与しない。多くはそこまで成長せず、超音波検査でしか見つけることができない潜在癌として一生経過ごす。これを発見してしまうことを過剰診断といい、早期診断・早期治療メリットはない。超音波検査の導入前と後で甲状腺癌の術後の頸部の再発率が増加していることから、播種の可能性が考えられ、早期発見早期手術のメリットがないという考え方がある。症状がでてから診断治療すべき性質の癌である。一方甲状腺幹細胞から発生する癌は無限の増殖能を持つLethal Cancer、高齢型甲状腺癌と呼び、臨床癌として現れるのは中年以降。この癌は早期に発見して治療しないと患者の生命に関与するので早期診断・早期治療は有効と考えられている。 治療の第一選択は手術であるが、予後良好であることから、術後のクオリティ・オブ・ライフを勘案すると、どこまで摘出範囲を広げるべきかという点については議論がある。また、時に放射線外照射、放射性ヨード治療、TSH抑制療法なども行われる。なお、近年、1cm以下の小さな乳頭癌は症例を選べば手術をせずに定期的に経過をみるだけで十分であるという研究報告が日本から始まった。甲状腺がんにおけるアクティブサーベイランスは隈病院の宮内昭(現 隈病院院長)が提唱し、2015年には米国甲状腺学会 (American Thyroid Association: ATA) による成人の甲状腺腫瘍取扱いガイドラインにおいても、超低リスク乳頭がんに対する非手術経過観察の方針が容認され、米国、韓国、イタリアでもアクティブサーベイランスが実施されるようになった。アクティブサーベイランスは (active surveillance)、(AS)、非手術経過観察、積極的経過観察とも呼ばれている。声帯マヒや副甲状腺機能低下症等のリスクも回避でき、経過観察で10年後にがんの大きさが変化しないが92%、大きくなったが8%、手術をした場合でも、しなかった場合でも、甲状腺がんが原因で死亡した人は、対象となった2,153人ではゼロという結果であった。しかし、子供で発見された場合半世紀以上にわたる経過観察は現実的ではなく、多くは手術することになる。未成年の甲状腺癌についてのASのエビデンスは皆無であり,今後の重要な検討課題の一つである。
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