

フォルマント・ブルー リミックス [★]
元は今は亡き富士ミスの「カラっぽの僕に、君はうたう。―フォルマント・ブルー―」という本を加筆修正し、文庫に未収録だった一つのエピソードを足したもの。まあ元のは読んでないんですけど、それでも楽しめましたよ。
でもこれミステリ要素があんまりなかったような。どっちかといえばボーイミーツガール的な。
フォルマント・ブルー―リミックス (一迅社文庫)

「わたしは――お父さんが開発した、最後の歌詞入力型シンセサイザーです」
18歳の誕生日と同時にその命を落とすという奇病“死の六連符”に侵され、余命いくばくもない少年・春希。絶望に彩られた日々を送る春希だったが、自分のことを電子楽器だと言う少女・伽音と出会ったことで、何かが変わっていく……。
鬼才・瑞智士記のデビュー作が、単行本未収録だった短編「皇帝の棲家には、電気仕掛けの歌姫。」も加え、完全版として復活!
暗澹たる日常へ、歌に乗る奇跡――。
その少女は自らをシンセサイザー、人間ではなく機械と名乗った。
彼女に出来ることは入力された歌詞を、最高の調律で歌うことであり、自身もそれが全てだと思っていた。
少年には確固たる死が近づいていた。
その運命からは決して逃れられることはできず、彼は徐々に機能を失い壊死していく身体と災厄を呪った。
――そんな二人は廃棄物処理場で出会い、一つの奇跡を起こした。
というわけで、この本の感想に移りたいと思います。
軽く要約しておけばまあ上のような要素がある主人公・春希が、産業廃棄物処理場でシンセサイザーの少女・伽音を拾い、二人が出会いと別れを繰り返していろんな出来事を乗り越えるというお話。
伽音のお姉さんがなかなかいいキャラだと思ったんですが、私的にはそれ以上にゲネラルパウゼやガルバみたいな、伽音と同じく機械たちの動きがすごく印象的だった。この二人が仕える吾郷ってやつが、最初は絵に描いたようなひがみっぷりでいちいちイラッときてたんですが、それでもこのアホ野郎に仕える理由がなかなか泣かせる。特にガルバの最後は勲章モノだろうこれは。それなのに吾郷ときたら……立ち直れると思ったのにこんなオチかよ!
でもやっぱ一番キたのはラストシーンの歌でしょうね。
底なしの絶望感の中に取り残された春希をそこから救ったのは、彼の歌詞と少女の声で完成させられた一つの歌。世界に一つだけの優しいメロディ。
それがなんと、確定的な死が分かりきっていた春希を延命させてしまうほどの効力を発揮するんですが、正直そこは「えええ」という気持ちでいっぱいでした。なんという煮え切らないご都合主義展開。まあ、彼らにとってそれが一番であることは変わりないのですが、なんかなあ。
最後の短編はオチにびっくりした。まさかおまえが○○だなんて!
物語の運び方はかなり上手かったと思うのだけど、いかんせんラストに納得いってない気がする。
まあこれは人によって受け方が違うと思いますので、よければ読んでみてはいかがでしょう。お話自体はとても面白いので。