

ぷりるん。 ~特殊相対性幸福論序説~ [★★★]
あの十文字青のラブコメと聞いて即手に取ったんですが、とんだ鬱小説だった……。
もう主人公は見てるだけでこっちが精神的にくるわ、ヒロインはヒロインでまともなやつが一握りさえいないやら、こんなクソ暑い時期に読むべき作品じゃなかった……んですが、この鬱さ加減は青春特有なものなんじゃないでしょうか。言っちゃえば、初な男が女性に抱く未知の感情やらをつらつらと冗長に一人称で書きなぐったような作品です。これ第一稿そのままに校正してないんじゃね? って思うほど文も荒っぽいし。
でも確かに鬱いとかエグいとかあったけど、こういうのは実はすげえ好みだったりするんだよなー。
ぷりるん。―特殊相対性幸福論序説 (一迅社文庫)

ラブラブ光線絶賛放射中な妹――うずみ(♀)
元・天才美少女、自由奔放な姉――綾(♀)
みんなのアイドル、気になるクラスメイト――桃川みう(♀)
脚がステキな憧れの先輩――小野塚那智(♀)
彼女たちに振り回される人――ユラキ(♂)
ユラキの悩みは今日もつきることなく、“ぷりるん”はまた現れる。
十文字青流、新感覚系ラブストーリー誕生!
青春という名の不安と、未知の感情――。
きっと作者はものすごい短期間でだーっと書き上げたんじゃないかと思うほど荒っぽい文章ですが、そこに感じるものは確かに存在しました。本当にもう文章が紡がれるたびに痛々しくて、読者の私も精神的に削られるものがあったりしました。なんつーかなぁ、これも青春モノっちゃいえるんだろうけど、それにしてはハードすぎだろうと。ぶっちゃけると、ヒロインの一人の桃川みうなんてただのビッチでヤリマンなんですよ。もうこの時点でライトじゃねーよ。
でもこのヒロインズの中で一番好きだったのはやっぱりみうなのかもしれない。
少なからずビッチ萌えという私のストライクゾーンに嵌っているのもありますが、このヒロインズの中では一番脆弱な存在でもありました。最初はなんだこいつマジふざけてんの? とか読んでてキレそうになりましたけど、読み進めると一概に彼女が悪いとは決められなくなっちゃったなぁ。いや、でもどういしようもないよなぁこれは。たぶんみうはこの先もヤることなしには生きていけないんだろうし、止めたらまたぶっ壊れちゃうんだろうしね。
でも一番酷い目にあってるのはもちろん主人公のユラキなんだろうけどなー。
付き合ってる彼女はビッチな上に否定するとぎゃーぎゃー泣き喚く、親友だと思っていたやつからは酷い陰口を聞いてしまう、部活の先輩には想いは届かない、姉からは精神的トラウマを植えつけられる、妹は誰とも知らない男の家に行ったまま帰ってこない、極めつけはあのぷりるんぷりるんうるせえストーカー女ときたもんだ。こんな心の傷を抉るような、しかも心休まるときがかなり少ない彼の青春は、傷だらけも甚だしいですよホント。もうこっちが見てらんないよ。
だけど、どんなに凄惨悲惨でも、艱難辛苦の人生でも、その底にあるものはとてもスカッとしていて、なんというか「あー、これも一つの青春としてのかたちなんだな」と。いや、私としてはユラキみたいな傷つく要素しかない青春は願い下げですが、でもそこから感じたり学んだりするものはありました。淀んだような感情の発露の1つ1つの断片は、結晶になるととてもキラキラしていたモノに思えました。
こんなまともじゃないヒロインたちから、こんなにたくさんの感情を、色んな形の愛や友情が見れるとはなぁー。十文字青恐るべし。
で、最後は結局ぷりるんぷりるん言っている子にいっちゃうんだけど、そこだけなんか納得いかなかったなぁ。色々熱くなった想いがそこで冷めたまでとは言いませんが、えー、みたいな。
でも読んでよかったなー。トラウマを遠慮なく抉るような作品だったけど、とにかくよかったと思える部分はある。
とても歪んでいて、傷つくことしかないですが、それでも面白かった。最後は色んなしがらみが取れてハートフルだったし。超オススメ。ただし鬱要素あり。
→『ヴァンパイアノイズム』の感想へ
今度見かけたら買ってみようかなぁ‥
なかなかに鬱いので、一応注意しておいてください、とだけ言っておきます。