紫色のクオリア [★★]
うえお久光の本は実は初めてだったりします。
私がこの本を手に取ったのは、ついったー上で誰もが「これはすごい」とポストしていたからであり、一ラノベ読みである私もこれはスルーするわけにはいかんなあと思って買って読みましたのよ。
うん、確かにあらゆる意味でこれはすごかった。久々に文字で圧倒されました……。
紫色のクオリア (電撃文庫)
自分以外の人間が“ロボット”に見えるという紫色の瞳を持った中学生・毬井ゆかり。
クラスでは天然系(?)少女としてマスコット的扱いを受けるゆかりだが、しかし彼女の周囲では、確かに奇妙な出来事が起こっている……ような?
イラストは『JINKI』シリーズの綱島志朗が担当。「電撃文庫MAGAZINE増刊」で好評を博したコラボレーション小説が、書き下ろしを加え待望の文庫化! 巻末には描き下ろし四コマのほか、設定資料も収録!!
彼女の瞳に映る世界は――。
前述しましたが、うえお久光の本はこれが初めてです。しかし、この人の筆力は一発ですげえと理解できました。ロボットと少女というお題でここまで壮大でひねくれて、かつ純粋な物語を作れる作者は天才かおい。
いやマジでこれはすごかったです。本当に文字で圧倒されたことなんて久々すぎた。SFはあんまり読まないんですが、これはハマりそうだなー。ループモノって言っていいのかしら。
お話としては自分以外がロボットに見える瞳をもつ少女・ゆかりと、そんな彼女を愛しく思う波濤マナブ(女性)の物語。「毬井に関するエトセトラ」「1/1,000,000,000のキス」「If」の全3篇から構成されています。
導入部の序章は普通にマナブとゆかりの平凡でゆるやかな日常及び、ゆかりの特異体質についての説明だったんですが、すごいのは2章目にあたる「1/1,000,000,000のキス」。
ただの日常という、いわゆる一つの枠に収まらずそのスケールは徐々に徐々に大きさを増し、誰もを巻き込み、二人を巻き込んでゆく。ハードなSF展開でした。
どうしても定められた一つの運命。逃れられない一定の未来。
入れ替わっても、成り済まそうとも、騙っても、のっとっても、何をしても――絶えないトライ&エラー。自分を見失おうが、体が壊れようが、精神が蝕まれようが、それでもマナブは諦めるという選択肢を選ばない。トライ&エラー。終着地点は最初から定まっているのに、それでいて理由は超単純なのに、手練手管を尽くしても一人の少女を救えない。そしてまたトライ&エラー。
途中からもう痛々しくて見てられなかったけれど、それでもマナブが一心不乱にゆかりを助ようとする姿勢にはグッときた。無限の可能性を、救えるという希望を、決して諦めないひた向きな想いがすごく好きです。まあ、マナブはかなりエゴイストであることは明白でしょう。一人の少女のために人を殺したら本末転倒だとは思いますが、ただそこは好意からなるものだからなぁ。仕方ないっちゃないのかもしれない。
そしてとうとう自分をも抹消し、確定的だった未来へとたどり着いた終着地は驚きだった。それと同時にゆかりのあれでジーンときたね。
そして終章ではものの見事の大団円――と言っていいんですよね。だって、ちゃんといるし。
これで実は――なんて未来があったら詐欺もいいところだぜ!
不思議でいて圧倒されたガチSFでした。もう一度いいますか。これはすごいです。
興味がもたれたら是非読んでみるといいです。超オススメ!