神様のメモ帳 [★★]
なんだこのカッコいいニートたちは……。
「さよならピアノソナタ」と同じ作者さんでも作風が全然違う。でもどっちも好きです。
作中、ニートやらドラッグやらが出てくるのですが、ラノベでこんな重い題材を取り上げるのもまた珍しいんじゃないでしょうか。
というわけで感想。
神様のメモ帳 (電撃文庫 す 9-4) (2007/01/06) 杉井 光 商品詳細を見る |
路地裏に吹き溜まるニートたちを統べる美少女・アリスは、ニート探偵。
高校1年生の僕・藤島ナルミと同級生の篠崎彩夏を巻き込んだ怪事件―― 都市を蝕む凶悪ドラッグ “エンジェル・フィックス” の謎を、自室にひきこもったアリスが暴いていき……。
そして事件解決へ向け、普段は不真面目なニートたちが動き出す!
ダメ人間だからこそ、できることがある。ニートとしての彼らの生き様を見よ!
高校中退で暴力沙汰ばっかりの元ボクサー、いかにも軽薄そうなヒモ、部屋から一歩も出ずにドクターペッパーだけで過ごす探偵少女など、基本はいかにもダメ人間。しかしそんな真っ当な道から外れ、社会に属さない彼らの生き様がまた興味深くもありました。
他人とのコミュニケーションが苦手なナルミと、またそんな彼の姿と自分を重ねた彩夏のやり取りから始まり、謎のドラッグ「エンジェル・フィックス」に手を染めた彩夏の兄であるトシを四代目やニート探偵アリスが真相を探るという流れに。
彩夏に出会い、「ラーメンはなまる」のニートたちやアリスに出会い、最初は戸惑い距離を保ちながらも、徐々にその距離を縮めていることに驚いた。
彩夏との関係がギクシャクしてしまったあたりで人間関係に不器用なナルミは何をするべきなのか迷いながらも結論を出し、あの園芸部の腕章を作ったところは心が和んだ。挿絵の彩夏の表情は反則だって。
「ニートというのはね。なにかが『できない』人間や、なにかを『しようとしない』人間のことじゃないんだ」
最初は「はぁ?」と思ったこのアリスのセリフはなんか心に残ってます。その答えは当作品を読んでみてくださいね。
そして事件は彩夏をも巻きこんで進行し、佳境へ。まさか園芸部の温室で育てていた花が「エンジェル・フィックス」の原料だったとは……。しかも兄に渡されて育てたものだったなんてショックだろ……。それで彩夏もあんな風になっちゃうなんてさ、すごくやるせない。141Pの彩夏の挿絵を見るとなおさら。
それでもナルミは自分は何をするべきか、何を思うべきか、何を行動するべきかを悩み、取り返しのつかないことを悔やみ、自問自答を繰り返して、でも残るのは虚しさと無気力だけ。アリスやニートたちに協力を頼み、しかし自分の秀でた部分はどこもなく何もできないまま無為に時を過ごす。ここまで人間の内面を書き出せる作者の杉井さんもすごいです。というか、自分がナルミの立場だったらゾッとします。あんな決心普通はできない。
真相はとても心が痛かった。こんなにも真実は時に残酷なのか。
で、彩夏が屋上に残した花壇のメッセージは感動で言葉もでなかった。涙腺崩壊しかけた。
まさかあんな理由があったなんてさ。もう彩夏ホントすげえ……。
ニートというとどうしてもマイナスイメージに捉えられがちですが、この「神様のメモ帳」では全然そうは思いませんでしたね。こういう人たちもいるんだな、みたいな。
キレイとは言いません。とても切なく心も痛くなりますが、しかしどこか温かみもある素敵な物語でした。
自信を持ってオススメします。一押し。
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