さよならピアノソナタ [★★★]
これはすごい。久々にこういう話に出会ったと思う。
最初は植田さんのイラストだからって理由でジャケ買いしましたけど、話もすごかった。感動した。
私もこういう話がつくれたらな、と思います。
さよならピアノソナタ (電撃文庫 す 9-6) (2007/11) 杉井 光 商品詳細を見る |
「……六月になったら、わたしは消えるから」
転校生にしてピアノの天才少女・真冬はそう言い放った。
彼女は人を寄せつけず、なぜかピアノも弾かずに、空き教室にこもりエレキギターの超速弾きばかりするようになる。
そんな真冬に憤慨する男子が一人。
その教室を大音量でCDを聴くために無断使用していたナオは、真冬の占拠からの奪還を期しベースで真冬を “ぶっとばす” ことをめざす。
民俗音楽研究部なる部活の立ち上げをもくろむ自称革命家の先輩・神楽坂響子と、ナオの幼なじみ・千晶も絡みつつ、ナオと真冬の関係は接近していくが、真冬には隠された秘密があって……。
クラシックとロックンロール。“心からの願いの百貨店”から始まる、ボーイ・ミーツ・ガール!
ホントに青春してます。音楽で心を通わせるナオと真冬の物語がいい。ちょっと切ないというか、甘酸っぱいって言うんでしょうかね。バンドの話はいつか書きたいと思ってるけど、こういうのはホントに参考になる。
作中で実際にあるクラシックとロックンロールが出てくるんですが、クラシックはほとんど知らなかったけど、ロックは結構知ってたから嬉しかった。知っている分、紹介されるたびに脳内で曲調が再生されるからすごい雰囲気出るんです。レッドツェッペリン、ビートルズ、キングとか有名だよね。もうホント心から楽しめた。
主人公のナオが普段は無気力人間なんだけど、真冬に空き部屋を占領されてもうぞんざいに扱われたり(CD捨てられちゃったりね)、ロックを馬鹿にされたからベースを手に取るところ相手が真冬だったからなのかなと思ったり。ピアニストとして知れ渡っているのに空き部屋でギターの速弾きしてたり、クラスからもう珍獣扱いされてる真冬は意識してなくてもやっぱり気になってしまうんでしょうね。クラスにそう浮世離れした子って一人はいませんでした?
自称革命家の神楽坂先輩も良かった。
「人間は恋と革命のために生まれてきたんだ」
最高じゃないの。すごい心に残ってる。幾多の手段を使ってナオの後押しする存在感はでかい。
幼馴染みでドラムスの千晶も細かいところでナオの後押ししたりね。名もなきクラスメイトたちも最高。
演奏のシーンの表現もうまい。ナオ・神楽坂先輩・千晶の初合わせも、真冬とのセッションのときもすごかった。
で、アリアプロをナオが真冬と町中駆け回って探すところが一番印象に残ってる。名目は真冬の家出ってことになってるけど。星が瞬く深夜の線路を二人で歩くカラーページがすごい好きです。ホントこういうのに弱いなぁ私は。最後には“心からの願いの百貨店”に戻るんだろうなぁというところは読めてしまいましたがそれでも良かった。そして環境センターのロックなおっさんが最高だぜ。
百貨店のピアノで真冬が奏でたフーガが、廃棄の山の中のアリアプロと共振して見つかるってのがベタだけどそれがいい。ホント場面と曲調の掛け合わせがうまい。
「Stand by Me」「Hey Jude」「Blackbird」とか出てきたときもうテンション上がりまくりです。ロックを少しでも齧ったことのある人は絶対知ってます。
実は私もバンドに憧れて家にあった親のエレキギターをちょっとだけやってたんですけど、一週間で飽きました。コードとか難しすぎで……(嗚呼
今思えば、ドラムスかボーカルならできたかもしれません。ギターはちょっと根気が要ります。
ああ、良かった。続編はまだ未読ですけど期待してます。
同じ作者さんの「神様のメモ帳」にも手を出してみようかな……。
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