オブザデッド・マニアックス [★★★]
オブザデッド・マニアックス (ガガガ文庫) 大樹 連司 saitom 小学館 2011-06-17 売り上げランキング : 1182 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
授業中、いつも妄想していた。もしも今、この学校をゾンビたちが襲ってくれたら──。逃げ惑うクラスメイトたち、何もできずおろおろする先生……。ざまあ見ろ、最高だ! ゾンビ映画ばかり観て現実と向き合えない高校生、丈二。しかし、嫌々参加したクラスメイトとの夏の合宿で、本物のゾンビハザードが丈二とクラスメイトを襲う! ボンクラでオタクな僕が、みんなを救ってヒーローになる!? さらに学校一の美少女も思いのままに!? 怨念じみた妄想が現実になったとき、待ち受けるのは天国か、それとも地獄か!?
完膚なきまでにおもしろかった。この一言に尽きる。
私はゾンビ映画にそれほど造詣も深くなければ、スプラッタも映画では苦手とするジャンルなのですが、そういうのを差し引いても十分に自信を持っておもしろいと言えるほどの作品だったと思う。
ゾンビ映画好きの冴えない主人公・安東丈二は、あふれるゾンビたちに学校を襲われることを望んでいた。ありふれた日常をぶち壊す非日常を。教室という箱庭を一瞬で瓦解させる理不尽なゾンビハザードを。そして、その状況においてはありとあらゆるゾンビ知識を披露し、みんなから頼られることでヒーローになることを望んでいた。なぜならば、それが彼にとって人生の花道だからだ。
そして日本本土を離れたリゾート島で、本当にそれは起きた。周りの人々が次々と餌食となり、やつらの一員となって再び起き上がる。こうしてあれほど望んでいた歩く死体は、丈二の目の前に現れた。
しかしながらゾンビの脅威はほとんど序盤で出尽くしていて、本番はショッピングモールに立てこもってからなんですよねえ。というかむしろゾンビ要素は軽いくらいだし、コミカルと言っていいほどだったし。ゾンビの群れは言ってしまえば「外は危険」という舞台装置程度だったと思う。
ショッピングモールは莉桜の支配する“国”だった。
能ある者、知識ある者が評価され、周りから賛美と信頼と羨望を浴びる。見てくれだけ、上っ面だけでひたむきさを笑うやつはこの国では豚に等しい。そうしてスクールカーストは逆転した。今まで見下されてきた者は、そいつらを見下す立場になる。
特化した知識や技能をバカにしてきた、口だけ或いは顔だけのリア充どもは最底辺まで落ち、それを見下して悦に浸る元最底辺たち。クラスでは浮いていた丈二も最初こそ気分が晴れやかだったものの、結局莉桜がやっていることは人のクラスでの立ち位置を逆転させただけであって、極限状態がもたらした「平等」ではないことに気づき、莉桜の極端なやり方に疑問を覚えます。そこからの彼の立ち回りが主人公らしくて実に熱い。なんという青春だろうか。
自分の築いた“国”と愛するゾンビと共に果てることを選んだ莉桜を、彼女に虐げられていた人もそうでない人も関係なくクラスが一丸となって助けに向かう終盤の盛り上がりがすごかったです。
みんな本音を守って生きている。知られるのが怖いから。知られたら嫌われるから。
けれど、もしもそれをぶつけ合うことのできる友達や仲間がいるのなら、人はきっと少しだけ優しくなれる。思いやれる。
そんな不器用な青臭さがたまりませんでした。本当にれっきとした青春モノに昇華させるとは思わなかった。
やっぱり個人的にこの作者さんが好きなんだなーと思わされる代表作になったと思う。ロケッティアもメイドくんもイサナトリもこの作品でどことなく片鱗が見えたし、いわば集大成っぽいところとかね。
とにかく迷ったら読んでみることをおすすめします。
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