月光 [★★★]
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退屈な日常から抜け出したいヒネクレ男子・野々宮。
ある日、彼は美人で成績優秀、さらにゴシップが絶えないクラスのアイドル・月森葉子のノートを拾う。そのノートからはみ出す紙切れにアイドルとは程遠い言葉── 『殺しのレシピ』 という見出しを見つけ……その日を境に月森との仲が一気に狭まっていく。
シニカリストとキュートな悪女、そんな二人の不思議で奇妙な関係とは……!?
うわあ、こういうヒロインにとことん弱いなあ。菜々子さんといいなんなの悪女ブームなの。
評判を聞いてから買ったとはいえ、噂に違わぬクオリティを見せつけられました。なんだろう、なんかもう淡々としまくっている一人称の文体の端々から、私の好きな空気がひしひしと伝わってきました。
容姿端麗でなにごとも如才なくこなす完璧少女・月森葉子、主人公の野々宮は彼女とは挨拶を交わすくらいしか交流がなかったが、あるとき彼女が落としたノートを拾う。その中には「殺しのレシピ」という、普段は物腰の柔らかい彼女からは想定しがたいほどに物騒な内容だった。
そんなことから始まったストーリーなのですが、この月森葉子というヒロインがとんだ食わせ者でしてね。なんというか読み終わってみるとかなり魔性の女なのは明らかなんですけど、でもそれでいてこの一途っぷりというか揺るがないといいますか、たしかにとっても乙女乙女している葉子がめっちゃかわいいんですよ。そりゃ最初はちょっと試してみようとか打算的な部分もあったかもしれないけど、彼女は本気になったらすごいなあ。かわいいなあ。もう野々宮共々、私たち読者も彼女の手のひらで転がされていた感が相当強かったですね。
野々宮も一切の恋愛感情もなく、ただ非日常への扉を開けるように葉子に近づいていった感じですけども、いつだって彼の日常を象徴とするオレンジジュース――宇佐美千鶴がいることによってその日常と非日常との狭間に揺れる彼を見ているのも楽しかった。野々宮に告白した中盤から終盤までは出番がフェードアウトするようになくなっちゃった千鶴だけど、そこが「日常」との切れ目だったのかとにおわせていましたね。千鶴もここで退場させるには惜しいほどかわいかったけど。
あとは野々宮が葉子へ向ける猜疑心、疑問、疑惑それらを向けつつ彼女へ歩み寄り、親交を深めていきながら「実はこいつが犯人ではないのではないか?」「いややっぱりこいつが犯人だ」と揺らいでいっているところに刑事である虎南のキャラ配置はうまかったと思います。彼も彼で相当変わり者ではありますが、野々宮に代わってズバズバと物を言っていくところとか、野々宮の猜疑心を一層募らせているようで、しかし葉子を擁護したいという気持ちもせめいできて、なんというか食わせ者多いな。
でも虎南の登場によって、野々宮のモチベーションみたいなのが上がったのはたしかでしたね。気づいたら、野々宮も月森葉子がトクベツになってるじゃあないですか。
というわけで、大変おもしろかったです。なんで賞が与えられなかったと思うほど。
そしてワインとオレンジジュースだったら、いわずもがなワインを選ぶぜ!
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