小さな魔女と空飛ぶ狐 [★★]
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レヴェトリア空軍のエースパイロット・クラウゼは、ある日突然、“内戦解決の切り札”とされる重要人物の補佐を命じられる。待っていたのは、わずか16歳の少女で……。ワガママ放題の“小さな魔女”アンナリーサが巻き起こす様々なトラブルを前に、元エースパイロットのクラウゼは、無事に彼女の騎士(ナイト)を務め上げることができるのか? そして本当に戦争は終結するのか? 期待の新世代ファンタジー!
「ピクシー・ワークス」の作者の新作です。今回もちゃんと飛行モノなんだなあー。
と思ったいたのですが、前作とは違いかなり雰囲気が暗いです。中世ヨーロッパ風なファンタジーで戦禍の真っ最中だったり、その中心部のお話だったりして、戦争やテロで人が死ぬところはやたらと心を抉るようなリアルな描写をしてきて不意を突かれました。と同時に、この作家さんはこういうお話も書けるのかーと感心。
無遠慮で高慢でわがままな若き美少女天才科学者・アンナリーサに振り回されるようになる夜戦飛行のエース・クラウゼ。あっと言わせうような設計不可能とされている兵器を考えたアンナリーサは、その開発に忙しい日々を送っていたが、隣国の内戦が発端となって起こったテロは突如その身に牙をむく。
人を殺すための兵器をずっと考えてきたアンナリーサは、その脅威と凄惨さを身を以て受けたことにより自分の過ちに押しつぶされそうになってしまいます。まあこれは当然ですよね……。あくまで彼女は科学者であり、現場を知る兵士ではありませんから、殺し殺されの血みどろの舞台には縁がなかったことでしょう。それがテロという形で体感してしまったのだからその恐怖もより強いと思います。
そんな自分の過ちを悔いることと、科学者の家系である威信をかけたプライドとで葛藤に悩まされるアンナリーサの成長の過程はとても良かったと思います。16歳には辛い体験でしたでしょうが。
またアンナリーサと対極であり、同種でもあったアジャンクールのジジイがよかった。
彼もまたテロで愛しの妻を傷つけられたのだが、彼が取った行動は正しく憤怒。やられたらやり返す。それ相応の報復を以てして、敵という敵を徹底的にたたき潰し、自らが手がけた最大兵器が生み出す脅威に笑いをこぼす。それまではいい年してアンナリーサと張り合う意地の張ったかわいいジジイだと思っていたのですが、やはりかれとて科学者であるとともに一人の人間を愛した男であるのです。とても誉められた選択ではあると思うけど、人間らしさは一番あったと思う。
アンナリーサと共に空を飛び、戦いに臨む場面も描写が若干くどく感じられたがスムーズに読み進めることができたし、なにより後々の余韻がよかった。たぶん続編はないと思うけれど、ここで締めても十分キレイなので満足です。
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