

ヴィークルエンド [★★]
![]() | ヴィークルエンド (電撃文庫) うえお 久光 redjuice アスキーメディアワークス 2010-07-10 売り上げランキング : 292 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
生まれてくるすべての子供が先天的な“欠陥”を持ち、『サプリ』と呼ばれる補助剤の助けがなければ感情を制御できなくなった近未来。
仲間とともに《ヴィークルレース》に興じる少年、羽鳥カナミは、ある夜、不思議な少女と出会う。少女の名前は出雲ミクニ──《新世代》と称される歌姫との邂逅は、羽鳥になにをもたらすのか。レースの先に待ち受けるのは、栄光の未来かそれとも──
うえお久光が贈る青春爆走劇(エクストリーム)!
シビれた。まさしくエクストリームだ。この疾走感は何物にも変えがたい。
というか「紫色のクオリア」といい、うえお久光は若者の感情とその変化、そしてそれにちなんで移ろう人間関係の変化を描くのが限りなくうまい。如才がないとも言っていい。「ヴィークルエンド」というこの作品もうえお久光でしかなしえない物語だと思った。
感情に欠陥を持ち、ある種の「共感覚」を持ち合わせる子供たちが生まれるようになり、その子供たちは自分に適合する「サプリ」と呼ばれる薬で感情を調節するようになった世界観で、逆にその「共感覚」を利用してレースをする若者たちの爆走劇である。
高校に通いながら少数精鋭のレースチーム「アンパサンド」の実質マネージャーを担う主人公・カナミを始めとするキャラクターたちは、世界観通りの感情の欠落を持って生まれた子供たちなのですが、とくにそれが恥だとは思ってないんだよねこの人たちは。たしかに普通の人間とは少しだけズレてはいるんだけど、彼には彼らなりの世界があることがとても印象的だった覚えがある。
そして「レース」を通じ、新世代の歌姫と謳われるミクニと出会い、自分にはなにが為せるのか、なにを為し遂げることができるのか、の自己証明の物語だった。カナミの考え方は終始一貫してるのだが、それがこんなにも『熱』を帯びる物語になろうとは。かなり好きなキャラなんだけど、あの全裸がなければ最後までクールだったのになあ……。
カナミと相対するような存在であるミクニの存在も魅力だった。
彼女は欠陥によって人の感情を読んで真偽を暴くという一種の読心術的なチカラを持っているのですが、彼女の考え方はまたうなずける部分もある。ミクニはそのチカラのおかげで世界のなにが正しいのか、正しくないのかを見失っていました。歌うことにもさめていた彼女が、カナミと出会ったのはどこか運命めいたものがあったのかもしれません。
他に例を見ないような作品で、とても興味深く読めました。物語に浸るのは少し遅れたけど、久々に充実した読書を感じた一冊だったなあ。オススメ。
コメントの投稿