著者は、岐阜県でタンクを製造する、
森松工業株式会社(年商450億円、社員2600名)の70歳の社長です。
Webカメラ270台(国内外の8工場に設置)とメールを駆使して、会社にほとんど出社せずに、社長業を遂行されているユニークな方です。
シンプルで、本質を突く経営法が、社員のやる気を上手に引き出しているように思います。本当の意味で、
頭のいい社長ではないでしょうか。
この本を読み、ためになった箇所が25ほどありました。「本の一部」ですが、紹介したいと思います。
・会社に行くのは、どうしても外せない打合わせや来客など、毎月2、3日程度。喫茶店に車で通い、ひとり
黙々と仕事をする。ノートパソコン1台あれば、工場に設置したWebカメラで一目でわかる。多くの時間をかけて、現地まで視察に出かける必要はない
・日本の労働生産性は、先進7ヵ国中最下位。OECD加盟30ヵ国中20位。その原因は、長時間の残業や会議だけでなく、長時間通勤などの
効率の悪い労働慣習に負うところが大きい。自宅から車で5分の「喫茶店出社」の方が、はるかに合理的
・毎朝11時前に家を出て、夕方4時まで、行きつけの喫茶店で過ごす。仕事の内容は、
Webカメラでの工場チェック、メールの送受信、必要に応じて、関係者に携帯電話で連絡をとること。朝昼晩、この3つの繰り返しが基本
・喫茶店にいたら、仕事をしながら昼食を取ることができ、外に出かける手間も省ける。社員が相談や報告に来たり、電話が入ったりして、仕事を中断させられることがない。やりたいことに集中でき、効率が抜群にいい
・会議で使う資料もパソコンでつくるので、資料棚も秘書も社長室も要らない。運転手も必要ない。
社長交際費も一切使わない。これだけで年間1000万円近いコストダウンを実現している
・Webカメラを使えば、視察を毎日30分で済ませられる。交通費や宿泊費など、これまた、年間1000万円のコスト削減になる
・メールを効果的に使い、普段会えない社員たちの士気を鼓舞する。寝る前に、Webカメラをチェックして、社員の残業状況を見て、簡単なメールを送る。そのメールを社員が見るのは翌朝だが、送信時間が記録されている。この
メールの送信時間こそが重要
・メールは3パターン。「1.業務報告、日報、社長承諾メールの返事」(了解、ご苦労さんなど簡単な返信)「2.残業中の社員へのねぎらいと業績を上げた社員をほめる」(ほめるのは
直接メール)「3.注意したり叱ったりする」(叱るのは上司経由の
間接メール)
・
パソコン日記には、「いつ」「誰と」「どこで」会ったのかに加え、時には「どんな話をしたか」まで記録している。予定も書き込み、スケジュール表も兼ねている
・会社に出社しないと、ずいぶん楽そうに見えるが、実際には1日19時間労働で、365日無休。大手企業のサラリーマン社長より、はるかに働いている
・Webカメラは水平方向なら360度、上下なら90度の範囲で動かせる。カメラから
300m離れた場所でも、倍率10倍のズーム機能を使うと、肉眼では見ることができない点が、きれいに見ることができる
・Webカメラによって、「社員への安全技術指導」「トラブル時の緊急対応」「盗難防止」「手抜き工事の発見」「品質検査」「作業員の表彰」「売上・利益予測」「出張費・管理費削減」などの業務改革ができた
・Webカメラで見て、気になったところは、デジカメで撮影してもらい、添付ファイルでメール送信させる。Webカメラのおかげで、工場内外で発生する製品トラブルなどの
第一発見者の9割が社長の私になった
・より多くの権限を与えて、自由闊達にやらせる。
学歴国籍性別不問で、能力のある人材をどんどん抜擢する。社長が出社しなくても、社員のやる気が向上した
・会社の
利益の源泉は、研究開発であり、営業戦略であり、財務戦略
・上海出張でも、飛行機のエコノミー席しか利用しない。上海子会社の中国人CEOも海外出張はすべてエコノミー席。上海に行くと、工場の敷地内にある日本人社員寮に泊まる。社風とは、社長が率先してつくり出すもの
・優秀な人材に限って、
出戻り自由。誰でも「隣の芝生は青く見える」。転職したものの、実際に働いて、当社のよさを再認識し、戻ってきたいと恥をしのんで言ってきた優秀な人を、温かく迎えてやれば、以前以上に熱心に働いてくれる
・上海に行くと、社員寮などを掃除してくれている、中国人のオバサンたちを招いて食事会をする。掃除のオバサンを大切にすることは、社員を大切にするぞという
アナウンス効果にもなる
・人はどうしても「ないものねだり」をしてしまいがち。それを「
あるもの探し」へ切り替えられたろきに、新たな可能性が開けてくる。欠点が長所になれば成功する
・周到な返済計画がより緻密な経営計画をつくってくれる。借金が経営に緊張感をもたらす。借金の
返済期間が短くなることの喜びは、経営をやった者でないとわからない
・経営の基本は、「
営業」と「
製造」と「
財務」のバランス。しかし、多くの経営者が、その3つの条件のうち、どれかがアンバランスな場合が多い
・お金は儲かったり損したりの繰り返しだが、信用は違う。何十年にわたって積み重ねた信用でも、たった一回の失敗であっさりと失ってしまう。
お金と信用のどちらをとるかと聞かれたら、迷うことなく信用を選ぶ
・常に最悪の状況を想定して、どんなに苦しい状況に直面したとしても、とにかく
生き残ることを優先する
・「大企業の下請けには絶対にならない」。海外進出でも「既存商社には絶対に頼らない」。社員が考えず、創意工夫しなくなることを避けたかった
・発注者と受注者は、どこまでいっても五分五分が原則。
強弱や優劣の差はない。親交を深める誘いや飲食を共にすることも許さない。「お客様は神様です」の日本式では、世界市場で競争を本気で勝ち抜くことはできない
・中国人は、強烈な上昇志向や、個々のハングリー精神があっても、上司が一方的に命令するだけでは動かない。その作業や業務内容に納得して初めて動く。日本人幹部には、「
中国人に尊敬される日本人になりなさい」と繰り返し言っている
・生き残るために、強い国と強い客に接し、強い中国人社員をもつこと
筋金入りの創業オーナーが、既存の常識にとらわれないで、考え出したのが、今の時代にうまく適合させた経営法です。
このような企業が、日本を支え、日本を大きくしているのだと思います。この本を単なる「Webカメラとメールを駆使した経営法」として読むのは間違いです。
日本の製造業の
新しい経営法として、読むといいのではないでしょうか。