この本は、サラリーマンにとっての福音書です。経営者にとっては発禁書にしてほしいものかもしれません。
評論家や経営コンサルタントの本は、経営者側(お金をもらえる側)の立場に立ったものが多いのが実情です。
本当は、
経営者の論理と
労働者の論理のせめぎ合いで、会社の報酬制度が決まっていくものですが、労働組合の怠慢と不勉強で、経営者の論理がまかり通るようになってしまいました。
この本には、そういう成果主義時代のサラリーマンにとって、経営者の論理に巻き込まれないためのアドバイスやノウハウが豊富に掲載されています。
弱体化して、意味のなくなってしまった労働組合に代わって、労働者の論理を知的武装するのに役に立つ本です。
今回、面白く読めた箇所が30ほどありました。「本の一部」ですが、紹介したいと思います。
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サラリーマンの保身の3原則
1.都合の悪いことは言わない(省略)
2.都合の良いことは大袈裟に伝える(誇張)
3.ウソでない程度に内容をアレンジして伝える(変形)
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サラリーマンの出世の3原則
1.部下や下位部門からの提案には「NO」と却下(拒絶)
2.同僚や同等部門には同意しても協力はせず、激励に回る(回避)
3.上司や上位部門からの指示や意見には無条件で賛成して従う(盲従)
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成果主義に対抗するための不滅の3原則
1.優等生になるな
2.みんなの足を引っ張る劣等生になるな
3.密告をするな
・目標を低く設定。上司や管理者には、いかに難しい目標であるかをアピール。ノルマを必死にこなす「一生懸命クン」には、「損するよ。バカを見るのは自分だよ」と諭し、改心しない場合、意地悪、仲間はずれにする。「
出る杭は打つ」それがダメなら「
引っこ抜く」
・成果主義にはウソがある。成長産業のように努力すればするほど成果がどんどん上がる状況でないと、成果主義は成立しない。実際に、個々の社員の努力以外の要素で成果は大きく変化する
・成果主義は「業績不振の原因は経営者ではなく、社員の無能や怠慢にある」との前提に立っている。経営責任を棚に上げ、「やればやっただけ報われる。もっと頑張れ」と社員の尻を叩く、経営者の
身勝手な理屈こそ成果主義
・成果や評価が歪む理由
「評価者の主観」(上司は好き嫌いで評価する)、「相対評価」(成果をあげたのはお前だけではない)、「制度運用のデタラメさ」
・最小のリスクと最小の努力で、まあまあの報酬を安定的に得ることを追求する「
均等報酬原理」に支配された者の行動は、「評価対象となる結果だけを追求」「高い評価を得やすい仕事に時間と労力を配分」「評価対象とならない仕事は重要でも無視」する
・「努力が
成果に反映しない」「成果が
評価に反映しない」「評価が
報酬に反映しない」リスクがあれば、社員はやる気を起こさず、成果主義制度は失敗する
・成果主義を成功させるには、リスクを厭わないギャンブラーのような社員に仕事の権限を大きく与え、彼らのやる気を喚起することである
・成果主義を導入した企業の多くは、
リストラの方便にしたかっただけ。リストラが一段落した途端、成果主義を見直す企業が相次いでいる
・成果主義を本気でやろうとすればするほど、「みんながライバル心むきだしに戦う」「職場ぐるみでさぼる」「人材が育たなくなる」「チャレンジ精神が失われる」「目標未達の言い訳がうまくなる」ような状況が現出する
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人を育てられない会社ほど成果主義を採用したがる。本来、会社の役目である人材育成を放棄して、すべてを社員のやる気と能力に押しつける
・米国では人事スタッフも弁護士に負けないほど嫌われ、軽蔑されている。机上で書類をいじくり回す「
ペーパーシャフラー」と皮肉られる存在である
・純粋無垢な「一生懸命クン」にならないこと。成果主義を本気で導入するような会社で愛社精神に燃え、一生懸命働くほど愚かでみじめな結果を生む行動はない。ほどほどが一番
・ほどほど主義を実践するには、情報を私物化し、簡単に他の人間が仕事を引き継げなくすること。具体的には、聞かれたことのみ答え、悪い情報も良い情報も抱え込んで誰にも
報告しないこと。報告するのは結果だけ。プロセスは秘中の秘とする
・情報を隠さず、どんどん提供すると、仕事が引き継ぎやすくなる。自分の存在価値を高めるには情報は隠すに限る。「情報は力なり」で、情報統制による地位保全、勢力強化、
仕事の私物化が生き残りと力の強化のために重要な条件となる
・
ダメなトップほど制度をいじりたがる。業績が悪いのを制度のせいにする。そこにコンサルタントがつけこむ。そして、人事屋は人事制度が悪いと言い、マーケティング屋はマーケティングが悪いと言う
・「ホウレンソウ」(報告連絡相談)はしない。これが
情報私物化の大鉄則
・動機が善であれば、行動も結果も許されるのが日本の伝統。もし、報告を怠り、上司から叱られても、「悪気はなかった」という立場を堅持し、動機を譲らず、善なる動機へ逃げ込む
・ほどほど主義に徹していても、思わぬ業績を上げてしまったら「たまたまです。運が良かっただけです」と運に逃げる。知られてしまったら期待値が上がってしまう。「能ある鷹は爪を隠す」で、独自の情報はライバルや上司に横取りされないよう私物化する
・太平洋戦争時の中国の抗日組織マニュアル「日本人にはごちそうせよ」の一文、「1.一度ごちそうすれば、好意をくれる」「2.二度ごちそうすれば、情報をくれる」「3.三度ごちそうすれば、命をくれる」。日本人は
酒席に弱い・「失敗をするな。失敗を避けて生きよ」。人事の評価はプラスよりマイナスに厳しい。だから、プラスをあげるより、マイナスを犯さないことの方がはるかに大事
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ゴマすりは保身と出世の大鉄則で、世界でも常識のグローバルスタンダード。保身と出世の一番のリスクは、自分ではなく、周りの人間。業績を上げ、上司への忠勤に励んでも、誰かがドジすれば水の泡。「見ざる聞かざる言わざる」で、嵐が去るのを待つしかない
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上下2階層をマークすることが出世のために大事な方法。2階層下の部下の状況までマークしていれば、多くの問題の早期発見、早期対応ができる。直属の部下の誤った判断や手抜きの巻き添えを食らう危険が大きく減る
・直属の上司だけ見ている「
ヒラメ族」は三流ヒラメ。上下1階層しかマークせず、そのサンドイッチ状態に汲々としているようでは出世はおぼつかない
・社内に敵をつくらないためには、「1.正論を吐かない」「2.正論を吐くときは、相手が聞く耳を持つかどうかで判断」「3.聞く耳を持たないグループには
だんまりを決め込む」
・「
将を射んと欲すれば奥さんを射よ」。上とのパイプをつくるには、まず彼らの奥さんとのパイプをつくればいい。実際、奥さん同士の懇親会の席で、上司やトップの奥さんと妻が仲良くなって、夫を引き立ててもらうケースは多い。これは取引先の開拓にも使える手
・ドジな部下ほど危険な存在はない。そのためには、「自分の足を引っ張らない程度の部下を育てる」「自分の足を引っ張るような部下は矯正または排除する」こと
・
ダメな部下がミスしたときに備えて、あらかじめ予防線を張っておく。そのポイントは「ホウレンソウの重要性を繰り返し説く」「ダメ人間を証拠づける反省メモを書かせる」
・一般に、
できる上司ほど細かい報告を求める。自分の知らないことがあるのを嫌うし、「部下は情報を抱え込んで私物化する」ものだと知っているから
・旧日本陸軍では「
馬鹿な指揮官、敵より恐い」と言われていたが、馬鹿な指揮官の最大の特徴は「決めたことはテコでも変えない」「問題が悪化しても自らの決定を失敗と認めて中止しない」点にある
部下には部下の論理、上司には上司の論理、経営者には経営者の論理があります。それぞれの立場にふさわしい論理を実行できるかが、出世や成功をもたらすように思います。
今の立場の論理をわきまえ、それにふさわしい行動が何かを学ぶのに、この本は役に立ちます。
特に、
成果主義の導入下で働くサラリーマンの人たちにとって、精神的支柱になる本かもしれません。