著者は、医師と大学教授を務めながら、南米の先住民を尋ねる旅を20年続けて、
植村直己冒険賞を受賞した探検家です。
そのユニークな活動をされている著者が、日本の賢者9名と対談したのをまとめたのが本書です。人間とは何かを深く語り合う内容の書です。
その中から、宗教学者の山折哲雄氏、芥川賞作家の池澤直樹氏、霊長類学者の山極寿一氏、作家の島田雅彦氏との対談が、面白かったので、その4氏の主張をまとめてみました。
・「欲望の制限や抑制ということを考えるならば、まず人類が狩猟採集の段階から
農耕の段階へ移行した時期のことを考え、捉え直してみることが非常に重要」(山折哲雄)
・「日本には、黒潮に乗って日本列島にたどり着いた
南方系の平等社会に則った文化と、
中国大陸からの氏族社会、階層社会との対立構造がいつの間にか形成されていた」(山折哲雄)
・「関心が蓄積に向かう土着農耕民に対して、
移動する人たちはできるだけムダを省くから、欲望を制限する方向に向かう」(山折哲雄)
・「移動する、歩く、旅する。それは人間の限界を試すことにつながっていく。当然、移動の途中は、欲望をコントロールする知恵や工夫が働かざるを得ない。欲望を抑制していく生き方については、その知恵や工夫からも多くを学べる」(山折哲雄)
・「インドは、世界最大の民主主義国として生き残っている。その根源エネルギーは、カースト制度。社会学者は、カースト制度を、人間を不幸にするマイナスの制度と語るが、そうではない。
カースト制度こそ、土着の生活から生まれた観念であり、価値観」(山折哲雄)
・「翁が童子を養い、育てる。童子は翁を尊敬して生きていく。こんな関係を大切にした文化は、世界でも日本だけ。これからの高齢社会、老人問題を考えるうえで、大事なのは、日本特有の
「翁」の思想と「童子」の思想」(山折哲雄)
・「文明とは、農村ではない、絶対に都市。狭いところに人がたくさん集まって、密度が高まって、出会いが増えて、
小さくすればするほど効率が上がって、面白いものがどんどん出てくる」(池澤直樹)
・「成長と拡大はどこかで行き詰まる。大量生産・大量消費とは、その外側に資源の大量搾取と廃棄物の大量蓄積がある。だから、いつまでも続かない」(池澤直樹)
・「資本の論理というのは悪辣。
少人数で多くの仕事ができるようになると、多くの人に仕事を少しずつ分けたりしない。どんどん首を切って人を減らす。残った連中は首になるのが嫌だから、めちゃくちゃ働く。そうすると、その仕事が他に回らない」(池澤直樹)
・「人間の家族は、平等性や対等性を担保する「
負けないためにつくられた社会の装置」だと考えられる。家族は、繁殖における平等を徹底的に保証するだけでなく、他の家族を支配したり、攻撃したりしない」(山極寿一)
・「人間は狩猟によって進化したのではない。その逆で、人間を襲う強い肉食獣から
身を守り、生き延びるために、コミュニケーション能力や共同体を発達させてきた」(山極寿一)
・「人間以外に、
家族と共同体を両立させた動物は一つもいない。なぜなら、家族と共同体の論理は対立するから」(山極寿一)
・「資本主義というのは、キリスト教やイスラム教よりも、より世界に浸透している「宗教」。資本主義は「
拝金教」として世界で最も成功した宗教。中国でも信者が多くなっている」(島田雅彦)
・「働きながら暮らすほうが、実は楽。そして、働かずに暮らすことほどキツいことはない。ゼロ円では食っていけないし、生きがいがないと食っていけない」(島田雅彦)
・「イギリスで成功した人は、いつまでも都会で暮らさず、田舎に引っ込んでジェントルマンになる。発展の恩恵に浴した者も、発展し続けてもロクなことはないと悟り、
あこぎなふるまいを反省し、この先は滅びない程度に力を抜こうとする」(島田雅彦)
・「人は、ある程度大人になって悟ってきたころに、みんな優しくなる。この「
優しいおじいちゃん」になる感覚は、誰もがたどり着く先。その「おじいちゃんの哲学」は、民族レベルでも成熟度とともに発揮されてくる」(島田雅彦)
人間が滅亡しないためには、何が必要かを、それぞれの専門家が持論を述べる刺激的な対談集でした
これらに共通していることは、やはり「少欲知足」ということです。どうすれば、人間の欲を抑えることができるか、これも立派な学問なのかもしれません。