court:再審無罪となったら、過去の判決文はどう扱うべきか
法情報学的に興味深い問題だ。
少し長いが、下野新聞の記事を引用しよう。
裁判所はHP上で、主要な刑事事件や民事事件の判例を公開。最高裁が初めてDNA型鑑定の結果を刑事裁判の証拠として認めた足利事件は、東京高裁と最高裁の判決文が掲載されている。 1996年の東京高裁判決は、本件のDNA型鑑定の結果を「犯行と被告人(菅家さん)を結びつける重要な証拠」と判示。2000年の最高裁も「技術を習得した者により、科学的に信頼される方法で行われた」などと、菅家さんの上告を棄却した。
この裁判所サイトのページ
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=01&hanreiNo=20189&hanreiKbn=02
で高裁判決文はこちらのPDFファイルである。
DNA鑑定の正しさや自白経緯が信用できる旨の判断がされているのは当然である。
また、最高裁判決は、こちらのPDFファイルにある。
これについて周知の通り再審が行われ、無罪判決が下されて確定したのだが、まだ原判決が公表されたままであることについて、菅家さんも佐藤博史弁護士も問題だというわけである。
こうしたケースは、再審無罪に限らず、重大犯罪の裁判で無罪となった希有な例一般について言えることだ。裁判所の判例集ではなく、実名報道を旨とする一般メディア、特に新聞が、過去のバックナンバーをそのまま縮刷版やデータベースとして公開しているのであり、無罪判決が下されたとしても過去に遡って訂正するということはない。
それに今回問題となっているのがオンラインデータベースなのだが、紙媒体の判例集となれば、訂正なり補足なりすることは全く望み薄である。
ただし、だからといって全く問題がないかというと、一方では有罪判決でさえも、つまり前科の存在さえも、一定期間が経過すればプライバシーとして保護され、実名で前科情報をあげつらうのはプライバシー侵害、あるいは名誉毀損となる。
無罪判決が下された場合には、逮捕された事実が単独で伝達されれば、それだけが一人歩きし、逮捕事実が真実だったかのように受け取られるであろう。足利事件のように原判決が単独で伝達される環境にあれば、その後に再審で取り消されたことを必ずしも知っている人ばかりではないのだから、原判決が一人歩きすることもあろう。
もちろん被告人が誰かという実名はマスクされているので、足利事件が有名な間は誰でも菅家さんと結びつけて考えるだろうが、足利事件が忘れられたころになれば、かえって原判決が一人歩きしても菅家さん個人と結びつけて認識されることは少ないかもしれない。
そのように考えると、再審無罪となったからといって、あるいはより一般的に判決が後に取り消されたからといって、遡ってデータベースからも削除するなどの方法をとるべきではないこととなる。
かえって、上記記事の佐藤弁護士の次の言葉が参考になる。
「誰でも閲覧可能なので、無罪が確定したことも補足してほしい。裁判所が(誤判を冒したという)自分の恥をさらし続けている状態だ」とあきれる。
まさに、裁判所が誤判を冒したという恥をさらし続けることに、意味があるのである。
その上で、これまた佐藤弁護士が指摘するように、再審により取り消されたことを付記する措置は、一般的にいって付けることが望ましい。これまた紙媒体とは異なり、デジタル媒体の特徴で、追記は一でも可能なのである。もとのデータを改変することはすべきではないが、その後の関係事情を付記することは、可能かつ必要だ。
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