ユノ様の助けた生け贄は
僕よりも小さな子で
とても愛らしく
とても憎らしい
「どうしたチャンミン?」
「…ぇ?」
「チャンミニヒョン?」
ユノ様のお部屋にて
いつもはふたりで食べる食事に
テミンが同席し
何故だか胸が苦しい
「ユノ様、テミンもチャンミニヒョンと同じようにユノ様と一緒に寝たいです」
「…それは出来ぬ」
「何故ですか…」
「テミンには自分の部屋があるであろう?」
「テミンはユノ様とチャンミニヒョンと三人で川の字になって寝たいです」
恐れ多くも龍神様であらせられるユノ様に
そのような事を申すなど
「テミン、そのような事を言ってユノ様を困らせては、」
「…チャンミニヒョンは僕よりヒョンなのに、何故ユノ様と一緒に寝てるのですか…」
「それは、」
「僕だってひとりじゃ嫌です」
「…テミン…」
「父上と母上と弟と妹と皆で一緒に寝ていたから
ひとりで寝るのは寂しくて嫌です」
良くも悪くも素直なテミンに
感じるこの感情は
醜い嫉妬か…
「…テミン、ならばおなご達と寝たらどうだ」
「…それは、出来ません」
「何故?」
「…恥ずかしいです…」
幼子が親の温もりを求めるように
ユノ様を求めるテミンと
愛しい人を取られまいと
嫉妬の炎に身を焦がす僕
…僕は、醜い…
神であらせられるユノ様は
決して僕だけのものにはならないというのに
「…チャンミン、」
あぁ、僕が嫉妬で『はい』と言わないから
ユノ様が困っておいでだ
ユノ様は神様だし
僕のように嫉妬なんぞしないのだろうな…
「…ユノ様の思うままに…」
そう微笑めば
ユノ様は僕の頭を撫でてテミンに言った
「では、今夜だけだからな」
「ありがとうございます!!」
可愛らしい
テミンは可愛らしい
可愛くない
僕は可愛くない
「では今夜は僕がユノ様のお背中を流します!!」
「ぇ…?」
「は?」
「あっ、チャンミニヒョンのお背中も僕が!!」
「それはならぬ」
「…ユノ様、何故にございますか?」
「ならぬと言ったらならぬのだ」
嬉しい
そんな気持ちが胸いっぱいに広がって
だけどその思いこそ醜い僕の本性か
「…スミマセン、僕、ちょっと食べ過ぎてしまったみたいです
少し歩いて来ます」
「チャンミン?」
このままテミンと一緒に居たら
僕はユノ様に対しても醜い言葉を放ってしまいそうで部屋を出た
ゆっくりと歩いて
ぼんやりと辺りを眺めて
「あら、チャンミンどうしたの?」
「杏子さん…」
「…何かあった?」
「…何も…」
「無かった顔はしてないわよ」
「…ぁ…」
「お茶でも飲む?ほら、いらっしゃいな」
「…はい…」
何でもお見通しみたいな顔で
僕を部屋に誘ってくれた杏子さん
部屋に入るとそこはとても広くて
大きなテーブルの向こう側に
扉が五つ
「…こんなふうになってるんですね…」
「ここは私達が食事をする部屋なの
その向こう側にあるのが私達一人ひとりの部屋よ」
「へぇ…」
「あら珍しい」
「チャンミンどうしたの?」
桃さんと林檎さんまで部屋から出て来て
僕を椅子に座らせた
「…なにも、」
「テミン?」
何もありません
そう言う前に
答えを当てられてしまい
僕は言葉を失う
「…ほら、温かいお茶でも飲んで」
「はい…」
三人はそれ以上何も僕に聞かず
ただ面白い話しをしてくれて
ずっと笑っていたら
何だか眠くなってきた
「チャンミン、眠るならお部屋に戻りなさいな」
「…戻りません」
「何故?ユノ様がお待ちでしょう?」
「…それは、」
「ほらほら、お待たせしては悪いから」
「…でも、…」
戻りたくない
「私達では貴方を運べないわ」
「…わたくしは、」
きっと居ない方がいい
「チャンミン?」
「…今宵は、」
僕が居なくても
「テミンが…」
「えっ!?」
「テミン?」
「…食事を同じ部屋でとは仰ってたけれど
今宵はテミンが?」
「…僕、は、」
「チャンミン?」
眠くて
だけど凍えてしまいそうな程に
「…寂しい…」
.
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