夢を見ていた気がする
それはとても満ち足りていて
幸せで、あたたかくて…
笑いながら誰かと手を繋いで
それなのに顔だけがわからない
どんな顔をしているのか見ようとしても
まるで太陽のように直視出来ない
眩しいのに笑っている口もとはハッキリ覚えてる
貴方は誰ですか?
まるで生まれたてのような感覚
大きな喪失感と不安
ここは何処で、自分は何者なのか
記憶喪失だと言われた時
すべてのピースがハマった気がした
きっとあの笑っていた人は家族か恋人なのに
手かがりは何も無い
逢いたい、あの人に逢いたい
あの笑顔を再び、
「はぁ…」
「ユンホ、どうしたの?」
「これから自分の家に行くんですよね?」
「そうよ…」
病院で目覚めて、それから家族が見つかって
戻って来たという感覚は無いままで
「チャンミンさんが待ってるわ…」
「…チャンミン…」
記憶喪失になったのに忘れなかったその名前
最初、自分の名前かと思っていたけれど、パートナーの名前だった
もしかしたら夢で見たあの人なのかも知れない
そう期待して逢いに行った
見覚えのないマンションに見覚えの無い部屋
待っていたパートナーは自分を見て泣きそうで、どうしたらいいのかわからなかった
彼が妊娠して結婚して、それから事故
大きなおなかの彼は、記憶を失くした自分を責めなかった
それはまるで失望に似ていて
何も期待されていないかのように思え
「ごめん」
そう零れた言葉に彼は静かに涙を流し『ごめん』と謝った
違う、俺が悪いのに、どうして謝るんだよ
あぁ、きっと何を言っても俺は彼の愛した俺じゃないから駄目なんだ
どんな事を言ってもそれは今の俺の言葉で
彼の待ち望んでいた俺じゃないから
*****
両親とともに帰宅して
自分の部屋のベッドに寝転ぶ
俺にはもうココしか居場所が無いのに
しっくりこない
そんな感覚がずっとある
だからといってあのマンションが落ち着けるかと聞かれたらそれはそれで違う
チャンミンはあの彼なのだろうか?
笑顔を見ないとわからないのに、俺の顔を見るのがとても辛そうだった
でも、まぁ、とりあえず
以前の俺と今の俺の好みは同じなのかも知れないという事はわかった
あの大きなおなかの中にいるのは間違いなく俺のこどもだそうで
以前の俺は本当に嬉しそうだったと聞かされた
「どうしたら、思い出せるんだろうな…」
例えばチャンミンと共に暮らしたら
ふとした拍子に思い出したりするものなだろうか?
しかし、今の彼は大事なときで
俺の事で彼を不安定にさせてしまうのならばそれは得策では無い
毎日通って交流をして
ゆっくりと、再び信頼関係を築くというのはアリだと思う
「通うか…」
自宅に通う
流石に彼と暮らすというのは怖い
今、彼は彼の母親と暮らしていると聞いた
もしかしたら、3人でなら暮らせるのかも知れないけれど…
「…はぁ…」
*****
「…どういう事…」
自宅に行ったら何故かチャンミンの親友だとか言う男が居て、一緒に暮らしているんだとか言う
「いや、チャンミンが暮らそうって言って」
困った顔をしながら笑うこのオトコ
見覚えは無いが俺も面識があるんだという
「キュヒョナ、アレ出してきて」
「あぁ、わかった」
「…アレ…?」
キュヒョンというオトコは俺をチラリと見ると何故か笑って
そして冷蔵庫から苺を出してきた
「どうぞ」
「…俺?」
「ユノさんは苺が大好きだったから、食べるかなぁって思って、キュヒョナに買ってきて貰ったんだ」
「…ありがとう」
チャンミンは少しかたい笑顔で俺に微笑む
不思議なもので、モヤモヤするというかなんというか
この感情はなんだろうかと思う
「キュヒョン…」
まったく記憶に無い名前だけれど
少しムカムカするのは過去の俺の感情か
それとも今の俺の感情か
何故ムカムカするのだろうか?
「キュヒョナ、ありがとうね〜」
俺には見せないような笑顔のチャンミンに、胸がチクチクと痛い
それはきっと嫉妬なのだろうと思うと
あぁ、今の俺も彼に惹かれているのかと納得した
それを認めたら早かった
「俺もここに住む」
「…え?ユノさん?」
「…マジかよwww」
驚くチャンミンと笑うキュヒョン
きっとキュヒョンは以前の俺ならそう言い出しても仕方がないとわかっていたようで
「…どうして…」
「俺はチャンミンのパートナーなんだよな?」
「…そう、だけど…」
「ここは俺の家なんだろう?」
「…うん、」
「だとしたら俺はここに住みたい」
戸惑いの隠せないチャンミンにキュヒョンが笑いかける
「そうだな、前と同じように暮らしたら思い出すかも知れないもんな」
「でもキュヒョナ」
「チャンミン、俺とお母さんと3人で暮らしてみないか?」
「えっ…」
『困る』
そう心の声が聞こえた気がした
ニヤニヤするキュヒョンが腹立たしく余計イライラする
「…ユノさん、急にどうしたの?
そんなに焦らなくても大丈夫だから、」
「焦ってるわけじゃ、」
「あぁ、僕のおなかが大きいから心配してくれてるの?
大丈夫だよ、夜は母さんだけじゃなくてキュヒョナもいるから」
「…ソイツがいいなら俺もいいだろう?」
チラリと見たキュヒョンはあきらかに笑いを堪えていて
余計腹が立つ
「…急に何を言い出すのかと思ったら…」
困ったように笑うチャンミンと
可笑しくて堪らないといった感じのキュヒョン
彼の買ってきたという苺をフォークでぶっ刺して口に放り込む
「…うま…」
美味しい
なんて言ってやらないぞとキュヒョンを睨みつければ余裕の笑みで
なんなんだ、何だこの感情
だから嫉妬だっての
嫉妬?何で嫉妬?
これは以前の俺の感情?
今の俺の感情?
あぁ、もう、なんでもいい
「俺も住むから」
「…もう、ユノさん、相変わらず強引なんだから…」
呆れたように呟くチャンミンに
そうか、以前の俺も今の俺も本質的には変わってないのかも知れないと思えば何だか嬉しくて
「…俺は…」
俺はチャンミンではなくて
チョン・ユンホなんだ
.
にほんブログ村いつもありがとうございます✨
最後の言葉の意味がわからないかたは
「星に願いを」を読んでいただけたらと思いますm(_ _)m
以前、読者様おひとりにコメントでいただいたのですが、
そうです、ひとつのお話しになっています
更新した順番で読んでいただけたら面白いのではないかと思います(*^_^*)
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