長雨で川が氾濫して
沢山の被害が出た
それは川に棲む者達や人間達で
助ける事も出来ずやりきれない想いを抱いて
神としての己の無力さに嘆き
食事も取らず、ただ横になって
傷が癒えるのをひたすらに待っていた
チャンミンと出逢う迄はそんな感じだった
「チャンミン、美味いか?」
「はい!!こんなに沢山のご馳走、わたくしが食べても本当に宜しいのですか?」
「…ひとりでは食べきれぬ」
食事の用意を頼んだ時
おなご達は嬉しそうに笑った
それはいつもなら何も食べずに部屋に籠っていたからで
「こんな…」
沢山の料理に彼女達の笑顔が見えた
「ユノ様、これは美味にございます」
「そうか、それは良かった」
嬉しそうに笑うチャンミンと
いつまでも笑っていられたら
どれほど幸せなのであろうか
*****
暫くして
ある川の上流で雨が降り始め
それはなかなか止まず
下流の集落では危機感を募らせた
…また愚かな考えに行き着かなければ良いのだが…
しかしその危惧は現実のモノとなる
「チャンミン、少し出る
いい子にして待っておれ…」
「ユノ様、いずこへ?」
「また、贄だ…」
「…贄…」
チャンミンの表情が一瞬にして曇り
彼はあの日の事を思い出しているのだろうかと思い
強く強く抱きしめて
それから唇を重ねて
「ユノ様、ご無事で…」
「あぁ、すぐに戻る」
*****
見慣れた装束の子供
それはチャンミンよりも小さくて
助けて戻ると
おなご達は悲しそうに見つめた
「このように小さなおのこに…」
「まだ十を過ぎた頃か…」
彼女達に世話を任せ部屋に戻ると
チャンミンは何故か荷物を纏めていた
「…夜逃げでもする気か」
「…おのこの贄ならば、ここに来るのでありましょう?
わたくしは元の部屋へと戻りまする」
「…何を申しておる…?」
「…皆様が、おのこの贄ならば
ユノ様のお手がつくやも、と…」
「そのような」
「ユノ様、おのこの目が覚めましてございます」
「…チャンミン、いいか、ここで待っておれ!!」
「…はい…」
俺が手に入れたいと願ったのはチャンミンだけで
あんな子供に手を出すなどあり得ぬ
しかしおなご達は俺を何だと思っておるのだ
おのこなら誰でもいい節操なしか
「はぁ…」
チャンミンは変な事を言い出し
部屋から出て行くなど…
「離してなどやれぬ…」
*****
「名はなんと申す」
「テミンにございます…」
小さく震えるその子テミンは
確かに可愛らしく
「ユノ様、湯殿の準備はしてあります」
「…そうか、では湯殿に連れて行け
その後は食事を取らせ元のチャンミンの部屋で寝かせろ」
「…え?」
「ユノ様のお部屋ではないのでございますか?」
「…あの部屋は俺とチャンミンの部屋だ
誰も入れるつもりは無い」
「…そうで、ございますか…」
「それから、チャンミンに何を言った!!
荷物を纏めておったではないか!!」
「…それは…」
余計な事を言ったおなご達に腹がたち
ついつい言葉が強くなる
「チャンミン以外必要としておらぬ!!
肝に命じろ!!」
「はい…!!」
部屋に戻ると
先程と一寸も違わずチャンミンは立ち尽くしていた
「その荷物をどうするつもりだ」
「…わたくしは、身の程をわきまえて」
「俺がお前を好いていると口にした言葉
よもや忘れた訳ではあるまい」
「なれど」
「チャンミンの部屋はここだ
他にお前の部屋など無い」
「…ここに、いても宜しいのですか?」
「…出て行けと言った記憶は無い」
「ユノ様…」
ぽろぽろと涙をこぼす彼を抱きしめて
可愛らしい頬に唇を寄せた
「チャンミンが居らぬと眠れぬのだ…
出て行くなど許さぬからな…」
「ユノ様…勿体ないお言葉にございます…」
「また出て行くと申したら
この部屋から出られぬよう鎖で繋いでやるわ…」
「それはまた光栄にございます…」
…光栄、か?
「布団から出られぬ程
朝も昼も夜もチャンミンを抱こう」
「なんと…///」
「そして俺の子を孕むがいい」
「…ユノ様、チャンミンはおのこにございます
流石に子を成す事は出来ませぬ」
「おのこでも子は成せる」
「…え?」
「俺は人ではないからな…」
「…ユノ様…」
腕に閉じ込めたチャンミンを
今すぐ自分と鎖で繋げて
この命尽きる迄共にありたいと願う俺は
何処か狂っているのであろうか
.
にほんブログ村
- 関連記事
-