近くのスーパーで洗剤や掃除道具を買い込みマンションに戻ると
人のよさそうなコンシェルジュに挨拶をされて一応挨拶をしてから部屋に向かう
エレベーターに乗り込みボタンを押すと動き出した
ぐんぐんとエレベーターは昇って行くというのに僕の気持ちはどんどん堕ちて行く…
今から掃除をして、またしてもアイツが出たら僕は対処出来るだろうか
「…泣きそうだ…」
エレベーターが止まり少し躊躇いながらも下りると
そびえ立つ魔の巣窟…
鍵を差し込み回すと
開かなくてもいいのに解錠された音がして僕の気持ちはマリアナ海溝よりも深く沈んだ…
とりあえずさっき買ったルームシューズを出して履く
床がザラザラして確実に靴下が汚れそうなんだもの…
そしてゴム手袋にマスクと完全防備
というか、今日中に終わらないと思う
僕は何時まで仕事なの?
終わったら電話って…終わらなかったら帰れないの?
「…頑張れチャンミン…」
自分を鼓舞してから下駄箱を確認して靴を収納していく
さっきは何人で住んでるんだろうかと思っていたけど
ドンヘさんは「男の一人暮らしなんだから…」と言っていたのを思い出し
さっきリビングで逢ったあの人だけなのかと深く溜め息を吐いた
普段から掃除とは無縁そうだ…
あんな飲みかけのペットボトルなんか置いておいたらヤバイのに…
倒したら惨劇だし
夏ならカビというとんでもないヤツが発生する
…こんなところで寝泊まり出来るあの人はある意味凄い
「…靴が…沢山だ…」
芸能人だからこんなに靴があるのか
はたまた靴の収集が趣味なのか
まさかのムカデやイカなのか
…あー、思考がおかしくなってきた
ムカデやイカの訳がない
気合いを入れ直してなんとかして靴を収納すると次は廊下を雑巾がけしてみる
白い雑巾が黒くなったけど見ないふり
「…掃除のおばちゃんとか入らないのかな…」
ピカピカになった床に満足して雑巾を洗えば次はリビング…
アイツが出たら困るので、とりあえずスプレーを片手にゴミを買ってきたゴミ袋に詰めて行く
こんなになっても掃除をしないなんて相当人気のある人なんだろうな…
きっと時間が無くて何も出来ないんだ
そう思ったら俄然やる気が出てきて気持ちも浮上してきた
***
「よいしょっと…」
マンション内のゴミ捨て場にゴミを捨てて仕事の充実感を味わう
「…はて?」
僕は清掃業者に就職したんだったか?
部屋が綺麗になっていくのを満足してる場合じゃないんじゃないの?
でも、どうせ仕事で毎日来るなら綺麗になっていた方がいいに決まってる
アイツが居るような部屋に入るのなんか仕事でも嫌なんだから
部屋に戻ると見違えるような室内にウットリ(笑)
いや、まだ終わってないんだからウットリしている場合じゃない
窓を全開にしておいたから空気が澄んでいて気持ちがいい
ソファーの上にあった服は洗濯をしているし
ゴミも捨てた
「…結構広いリビングなんだな…」
一人でこんなところに住んでいて寂しくならないのかな…
…というか、寝るためだけに住んでる感じ?
えぇと、あの人の寝室は…
さっきドンヘさんが入って行った部屋のドアを開けてみる
「………」
パタン
ごめんなさい
もう、帰ってもいいですか?
さっき僕は寝起きだったから気付かなかったけど
泥棒入りましたか?
それとも地震でもありましたっけ?
そんな言葉しか出て来なくて
リビングが少し綺麗になったからと言って
いい気になっていた自分が本当に滑稽だと思った
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