炭素農業の背後に潜む企業のアジェンダ(抄訳)
2023/02/10のグレインの記事の抄訳。「炭素農業」とは世界の農業システムにとって、大企業の支配力が強化されることを意味する。
世界の食品システムは「砂時計型」で、中間業者が極端な寡占状態に在り、全体を支配しているのはこの一握りの大企業だ。「炭素農業」は、「持続可能」の掛け声の下にこの寡占が進み、実際には全く持続可能ではない、環境に悪い農業が広まることを意味している。
The Corporate Agenda Behind Carbon Farming
世界で推進される炭素農業
アフリカに住んでいて、「炭素農業(carbon farming)」プロジェクトについて聞いたことが有る、または経験したことが有るなら、それは恐らく大規模な植林の為に土地を強奪することに関するものを意味する。
グローバル・サウスの多くの地域で、益々多くの企業が広大な土地を乗っ取って植林を行い、国際的な炭素市場で販売出来る「炭素クレジット」を請求している。
ニジェールの場合だと、米国に拠点を置くアフリカン・アグリカルチャー社は最近、松の木を植える為に合計200万ヘクタールの50年リースを2件取得した。コンゴ共和国ではフランスのエネルギー大手トタルが今後20年間地元のコミュニティから農地を奪って、4万ヘクタールにアカシアの木を植えている。
だが、米国、ブラジル、オーストラリア等の工業型農業が主流の国では、「炭素農業」とは、既存の慣行を少し弄って、炭素が土壌に隔離されていると主張し、炭素クレジットを販売することを意味する。
この形態の「炭素農業」は、インド等のグローバル・サウスの様々な地域の小規模農家にも押し付けられ始めている。
バイエルの事例
世界的な種子・農薬大手のバイエルが推進するプログラムは、この炭素農業なるものが如何にしてアグリビジネス企業の利益を推進しているかを示す好例だ。
約10年前、悪名高い農薬・種子会社モンサントは、クライメート・コーポレーションと云うデジタル農業会社を買収し、これによって初のデジタル農業プラットフォームのひとつを開発した。これは現在、Climate FieldView(CFV)と呼ばれているが、これは基本的に、衛星・農場のセンサー・トラクターのセンサーからデータを収集し、アルゴリズムを使用して農家に農作業の助言を行うアプリだ———何時何を植えるか、どの位の農薬を散布するか、どの位の肥料を使えば良いか、等。CFVは既に米国、カナダ、ブラジル、アルゼンチン、ヨーロッパの2,400万ヘクタール以上の農場で使用されている。
2016年にモンサントを買収したバイエルは2020年に、米国で「炭素プログラム(Carbon Program)」(ヨーロッパでは Carbon Initiative、ブラジルでは Carbon+)を開始したが、これに参加するには、農家はCFVに登録しなければならない。するとバイエルは土壌に炭素を隔離すると言われている以下の2つの方法の実施について、CFVを通じて農家に指導を行い、その実施をモニターし、隔離された炭素の量を推定する。
1)耕起を減らす。または不耕起農法。
2)被覆作物(cover crops。収穫する為ではなく、土壌を覆う為に植えられる植物)を植える。
農家はバイエルの計算に従って支払いを受けることになっており、バイエルはその情報を使って炭素クレジットを請求し、炭素市場で販売する。
2023年、バイエルは米国で「ForGround」という新しいプログラムを立ち上げたが、これには農家だけでなく企業も登録出来る。上流企業はこのプラットフォームを利用して、耕作機器、飼料種子、その他の投入物の宣伝や割引を提供出来る。
だがバイエルのメインのターゲットは、このプラットフォームを利用して「スコープ3」の排出削減を主張出来るサプライチェーンに於ける下流の食品企業だ。
大手養鶏会社パーデュー・ファームズは、2022年9月に ForGround との提携を発表した最初の企業だったが、これによりパーデューに飼料穀物を供給する農家が登録され、パーデューは彼等のカーボン・フットプリント(二酸化炭素排出量)を追跡し、汚染度の高い鶏肉であっても「持続可能な」ものとして売り込むことが出来る様になる。
明言されている訳ではないが、パーデューにとってもうひとつの利点は、これにより同社が農家の供給業者に関する詳細な情報にアクセスし、利益を最大化する為に活用することが出来ると云う点だ。
他方、農家がこれにより何か得をするかどうかは明らかではない。「カーボン・フットプリントを追跡することで補償を受ける可能性がある」と共同プレスリリースは述べているが、他方で登録しなかった農家は実際にはペナルティをを課されるかも知れない(具体的には大豆やトウモロコシをパーデューに販売出来なくなるとか、作物に対する支払い額が減るとか)。
このプラットフォームでの勝者はバイエルだ。バイエルは農家に対する支配力を強化し、農家の耕作方法や使用する投入物を正確に指示することが出来る。より多くの農家にが減耕起や無耕起農法を使用すれば、バイエルにとって大きな利益となる。これらの農法ではラウンドアップ(グリホサート)除草剤を何トンも散布し、遺伝子組み換えのラウンドアップの耐性大豆やハイブリッド・トウモロコシの種を植えなければならないからだ。
バイエルは被覆作物でも利益を得られる。 ForGround を立ち上げたのと正に同じ月に、同社は「CoverCress」と呼ばれる遺伝子組み換え被覆作物を開発している種子会社の過半数の株式を取得した。CoverCress の種子は ForGround に登録している農家に販売され、作物はバイオ燃料として販売される。
目的は支配力の強化
バイエルのプログラムの進化を見ると、企業にとって炭素農業とは、食品システムに於ける支配力を強化することに尽きると云うことが解る。
炭素を隔離するのが目的ではないことは確かだ。バイエルのプログラムの焦点は短期的なもので、隔離の保証は10年間だけだ。また、定期的な土壌検査ではなく、FieldView アプリで収集されたデータに基付く推定を通じて、主に遠距離からチェックが行われるので、検証可能性レヴェルは非常に低い。
またこれは農家に新しい収入源を生み出す為のものでもない。ForGround への移行で判る様に、利益は全てバイエルや他の企業に渡る。
世界の食品システムは「砂時計型」で、中間業者が極端な寡占状態に在り、全体を支配しているのはこの一握りの大企業だ。「炭素農業」は、「持続可能」の掛け声の下にこの寡占が進み、実際には全く持続可能ではない、環境に悪い農業が広まることを意味している。
The Corporate Agenda Behind Carbon Farming
世界で推進される炭素農業
アフリカに住んでいて、「炭素農業(carbon farming)」プロジェクトについて聞いたことが有る、または経験したことが有るなら、それは恐らく大規模な植林の為に土地を強奪することに関するものを意味する。
グローバル・サウスの多くの地域で、益々多くの企業が広大な土地を乗っ取って植林を行い、国際的な炭素市場で販売出来る「炭素クレジット」を請求している。
ニジェールの場合だと、米国に拠点を置くアフリカン・アグリカルチャー社は最近、松の木を植える為に合計200万ヘクタールの50年リースを2件取得した。コンゴ共和国ではフランスのエネルギー大手トタルが今後20年間地元のコミュニティから農地を奪って、4万ヘクタールにアカシアの木を植えている。
だが、米国、ブラジル、オーストラリア等の工業型農業が主流の国では、「炭素農業」とは、既存の慣行を少し弄って、炭素が土壌に隔離されていると主張し、炭素クレジットを販売することを意味する。
この形態の「炭素農業」は、インド等のグローバル・サウスの様々な地域の小規模農家にも押し付けられ始めている。
バイエルの事例
世界的な種子・農薬大手のバイエルが推進するプログラムは、この炭素農業なるものが如何にしてアグリビジネス企業の利益を推進しているかを示す好例だ。
約10年前、悪名高い農薬・種子会社モンサントは、クライメート・コーポレーションと云うデジタル農業会社を買収し、これによって初のデジタル農業プラットフォームのひとつを開発した。これは現在、Climate FieldView(CFV)と呼ばれているが、これは基本的に、衛星・農場のセンサー・トラクターのセンサーからデータを収集し、アルゴリズムを使用して農家に農作業の助言を行うアプリだ———何時何を植えるか、どの位の農薬を散布するか、どの位の肥料を使えば良いか、等。CFVは既に米国、カナダ、ブラジル、アルゼンチン、ヨーロッパの2,400万ヘクタール以上の農場で使用されている。
2016年にモンサントを買収したバイエルは2020年に、米国で「炭素プログラム(Carbon Program)」(ヨーロッパでは Carbon Initiative、ブラジルでは Carbon+)を開始したが、これに参加するには、農家はCFVに登録しなければならない。するとバイエルは土壌に炭素を隔離すると言われている以下の2つの方法の実施について、CFVを通じて農家に指導を行い、その実施をモニターし、隔離された炭素の量を推定する。
1)耕起を減らす。または不耕起農法。
2)被覆作物(cover crops。収穫する為ではなく、土壌を覆う為に植えられる植物)を植える。
農家はバイエルの計算に従って支払いを受けることになっており、バイエルはその情報を使って炭素クレジットを請求し、炭素市場で販売する。
2023年、バイエルは米国で「ForGround」という新しいプログラムを立ち上げたが、これには農家だけでなく企業も登録出来る。上流企業はこのプラットフォームを利用して、耕作機器、飼料種子、その他の投入物の宣伝や割引を提供出来る。
だがバイエルのメインのターゲットは、このプラットフォームを利用して「スコープ3」の排出削減を主張出来るサプライチェーンに於ける下流の食品企業だ。
大手養鶏会社パーデュー・ファームズは、2022年9月に ForGround との提携を発表した最初の企業だったが、これによりパーデューに飼料穀物を供給する農家が登録され、パーデューは彼等のカーボン・フットプリント(二酸化炭素排出量)を追跡し、汚染度の高い鶏肉であっても「持続可能な」ものとして売り込むことが出来る様になる。
明言されている訳ではないが、パーデューにとってもうひとつの利点は、これにより同社が農家の供給業者に関する詳細な情報にアクセスし、利益を最大化する為に活用することが出来ると云う点だ。
他方、農家がこれにより何か得をするかどうかは明らかではない。「カーボン・フットプリントを追跡することで補償を受ける可能性がある」と共同プレスリリースは述べているが、他方で登録しなかった農家は実際にはペナルティをを課されるかも知れない(具体的には大豆やトウモロコシをパーデューに販売出来なくなるとか、作物に対する支払い額が減るとか)。
このプラットフォームでの勝者はバイエルだ。バイエルは農家に対する支配力を強化し、農家の耕作方法や使用する投入物を正確に指示することが出来る。より多くの農家にが減耕起や無耕起農法を使用すれば、バイエルにとって大きな利益となる。これらの農法ではラウンドアップ(グリホサート)除草剤を何トンも散布し、遺伝子組み換えのラウンドアップの耐性大豆やハイブリッド・トウモロコシの種を植えなければならないからだ。
バイエルは被覆作物でも利益を得られる。 ForGround を立ち上げたのと正に同じ月に、同社は「CoverCress」と呼ばれる遺伝子組み換え被覆作物を開発している種子会社の過半数の株式を取得した。CoverCress の種子は ForGround に登録している農家に販売され、作物はバイオ燃料として販売される。
目的は支配力の強化
バイエルのプログラムの進化を見ると、企業にとって炭素農業とは、食品システムに於ける支配力を強化することに尽きると云うことが解る。
炭素を隔離するのが目的ではないことは確かだ。バイエルのプログラムの焦点は短期的なもので、隔離の保証は10年間だけだ。また、定期的な土壌検査ではなく、FieldView アプリで収集されたデータに基付く推定を通じて、主に遠距離からチェックが行われるので、検証可能性レヴェルは非常に低い。
またこれは農家に新しい収入源を生み出す為のものでもない。ForGround への移行で判る様に、利益は全てバイエルや他の企業に渡る。
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