FinTech、インダストリー 4.0──。金融や製造など様々な分野で先端ITを活用した業界変革の機運が高まるなか、日本で急速に脚光を浴びつつあるのが農業分野でのIT活用、アグリテック(Agritech)すなわち「農業 4.0」だ。農業ITのコモディティー(日用品)化が急速に進み、全国の中小生産者が使い始めている。
新千歳空港から車で1時間。北海道栗山町でトマトやピーマン、小麦を栽培する自ゆう耕場の堀田一司代表は10棟のビニールハウスの様子を事務所のPCやスマートフォンでチェックするのが日課だ。
各棟に設置した複数のセンサーで1分ごとに温度や湿度、二酸化炭素(CO2)濃度を計測。近距離無線通信のZigBeeと3Gデータ通信でパブリッククラウドにデータを送る。
堀田氏はデータをチェックして、ハウスの環境変化を追う。ハウス内では日中に光合成が進み、CO2濃度が一気に下がる。この現象を察知したら、室温が低くても換気口を開けてCO2濃度を通常レベルに戻す。こうしたきめ細かい判断を下す材料としてデータを利用している。
「過去のデータと比べながら現在の状況を把握する仕組みが必要だと考え、センサー機器を設置した」。堀田氏はこう話す。システムは2015年から利用している。
堀田氏は富士通の元SE。北海道の拠点で公共団体向けシステムを手掛けていた。第2の人生として農業の道を選んだ。
IoTシステムを実現するに当たり、古巣の富士通など既存のITベンダーの製品やサービスは利用しなかった。コストが高かったからだ。
農業用のセンサー機器は通常、1個あたり20万円から40万円程度。10棟全てに取り付けると、最低でも200万円かかる。「ハウス全体の売り上げよりも高い機器はとても入れられない」(堀田氏)。