ユーザー企業内での意見対立,ユーザーの非協力的な態度,要求の聞き漏らし…。要求定義におけるヒアリングの現場では,一筋縄では対処できない問題に次々と突き当たる。問題を切り抜ける実践ノウハウを紹介する。
要求定義を効率的に行うためには,方法論を策定し,実践することが極めて大切である。しかし,方法論だけでは解消しにくい問題がある。それが,ユーザー企業内の様々な立場の担当者から要求を引き出して合意を形成するヒアリング作業だ。ここで紹介するようなノウハウを踏まえてヒアリングできるかどうかで,効率が大きく変わるはずだ。
準備段階
キーパーソンを把握しシステム化の目的を明確に
まずは,ヒアリングの準備段階で行うべきことから見ていこう(図1)。ヒアリングを実施する前に周到に準備しておくことは,ヒアリングを成功させるために極めて重要である。
準備段階で大切なことは,ユーザー企業に協力体制を敷くように働きかけることだ。そのためにまず行うべきは,決定権のあるキーパーソンの把握である。要求定義の会議やミーティングに是が非でも出席して欲しいキーパーソンをリストアップし,ユーザー企業側に参加を要請する。
明確な目的で意見対立防ぐ
ユーザー企業にシステム化の目的を明確にしてもらい,経営トップから各現場の社員に周知徹底してもらうことも重要だ。
最初に目的を明確化しておくことは,あとで大きな効果を発揮する。目的が不明確なままだと,関係部門や担当者の思惑が前面に出てきやすいが、逆に明確な目的があれば,割れた意見をまとめたり,要求の優先順位を決めるたりしやすくなる。
そのため最初に,ユーザー企業に目的を明確化するように強く要請することが肝要だ。ただし,ユーザー企業の事務局を通じて依頼するだけでは,経営トップが動かないこともある。そんなときは,エンジニア自身が音頭を取って,目的を明確化する議論を促すことも必要になる。
業種・業務知識を深める
ユーザー側の協力体制を引き出すとともに,ヒアリング作業自体を効率的に行うための準備も欠かせない。そのために第一に行うべきは,ユーザー企業や業界の業種・業務知識を理解しておくことである。
業種・業務知識を深めるためには,業界紙を読んだり,ユーザー企業から業務マニュアルなどの資料を借り受けて目を通しておく。さらに専門用語をまとめた用語集を作成して,チーム・メンバーが共有することも欠かせない。
当然のことだが,業務マニュアルや帳票類,現行システムのドキュメントなどをできる限り収集して,現行業務を分析し,事前に問題点を把握しておくことも,ヒアリングを効率化するうえで大きなポイントである。
「現状の業務の大まかな流れ」や「現状の業務で感じている問題」などの基本的な質問を書いたアンケート用紙を回答例付きで作成し,事前にユーザー企業に配って回答してもらうのも,問題点や要求の分析に役立つ。この方法は,会議の議論をスムーズにする利点もある。アンケートに回答することで,ユーザー企業の担当者が自分の考えを整理でき,問題意識を持って会議に臨めるからだ。
このほか,聞くべき項目をリスト化しておくことも欠かせない。表1に非機能要求を中心としたリストの例として,「FURPS+」を示した。こうしたリストをヒアリングの際に1つひとつ確認していくことで,聞き忘れを防げる。