筆者は企業に勤務する管理職である。これまで20年以上にわたって実務経験を重ね、多くの上司や部下と一緒に仕事を行ってきた。その中では否応なく「評価される人、評価されない人」「成長する人、成長できない人」を目の当たりにした。
それだけでなく10年前からは「ビジネススキル」の研究を行っている。テーマは、「人はどのように成長するか」「評価を高めるにはどうすればよいか」などだ。これを雑誌、書籍に発表している。
20年以上の社会人経験と10年以上の研究経験を積み重ねると、仕事における人の成長において、かなり多くのことが分かってくる。「人はなぜ成長するのか」「成長しないのはなぜか」ということが理解できるようになったのだ
よく世間では「人は仕事を通じて成長する」「実務をしないと成長しない」という表現を使う。また「座学はしょせん座学に過ぎず、その場では分かったつもりでも、実務では使えない」とも言う。さらには「同じように教えても同じようには育たない。教育効果には再現性がない」とのあきらめに似た悲鳴も多い。このほかにも「成長に関する格言」は膨大にある。
「人の成長」に関係する要素は複雑な構造をしているから、単純にこれが正しい、間違っているというものはない。「仕事を通じて成長する」は奥の深いものなのだ。
「人は仕事を通じて成長する」が正しいか否か、「実務をしないと成長しない」が正しいか否か、「座学は実務で使えるのか」が正しいか否か…、これらを明らかにするのがこのシリーズの趣旨である。
筆者は「人は仕事を通じて成長する」は正しいと思うし、「座学は意味がない」は間違いだと思っている。「人は実務だけをしていても成長しない。座学を大いにやってほしい」という考えだ。
実務も大事だし、座学も大事、上司からの指導も大事だし、自分の性格(行動特性)も大事、…つまり、みんな大事だというスタンスである。なぜなら、仕事における「人の成長」は多くの複雑な要素が絡むメッシュ構造になっているからだ。
「人の成長」の要素には、仕事の性質、個人の過去の経験の質や量、性格、先輩や上司の指導などがあり、多くの要素が影響しており、唯一無二の真理要素がない。これが「同じように教えても、同じように育たない(再現性が低い)理由」である。