Webベースのグループウエアを,ホームページでダウンロード販売することにした私たちでしたが,当時の知名度はゼロです。世の中の誰もサイボウズのことを知らない状態からのスタートです。
まず,チャレンジしたのがメール広告です。IT系のメールニュースに,5行の広告を挿入して配信してもらうのです。アピールできるスペースは,たったの5行しかないわけです。何を書こうか,いつも悩んでいました。メール広告は,比較的安い広告だとはいえ,一回配信してもらうと10万円はかかります。当時のサイボウズにとっては大金です。失敗したら,自分の財布から10万円引き抜かれるようなものです。どのような広告を出せばよいのか,自問自答する日々でした。
私は大阪大学の工学部を卒業していまして,大学時代で4年間,松下電工時代で3年間,大阪に住んでいました。大阪のテレビCMは,本当に変わっています。よく覚えているのが,「引越しのサカイ」。エレベーターが開くと,マラカスを振りながらおじさんとおばさんが現れる。「べんきょーしまっせ,ひっこしのーサカイ!」と歌いながら出てきたかと思うと,「さーよーおーなーら!」と去っていく。地元の愛媛では見たこともないやり方です。学生時代にカラオケボックスでマラカスを手にすると,サカイのおじさんの真似をするのが定番でした。
製品を知ってもらうためには“おもしろい”広告
考えてみると,テレビCMもたった十五秒の勝負。どれだけ自分たちのサービスに自信があっても,それを伝えきることはできません。しかし,見てくれる人を喜ばせるだけならできる。そして,名前くらいは覚えてもらえるかもしれない。これぞ,広告のあるべき姿だと思いました。そこで,サイボウズの5行広告も,その方針に沿うことにしました。まずは,見た人が「おもしろい」と思えること。もちろん,見た人の誰もがおもしろいと思ってくれるかどうかはわかりません。しかし,身を削ってでも喜んでもらおうと努力することが,まずなにより大事。
技術力に自信のあるメーカーは,「いいものを作れば,必ず売れるはずだ」と考えがちです。確かにいい製品でなければ,たくさん売れることはないでしょう。しかし,どんなにいい製品でも,その存在を知ってもらえなければ決して売れないのです。
図●当時の「5行広告」のサンプルを以下に3つ挙げました。10年前はこんなに派手な広告は珍しく,かなりのクリックがありました。
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想像してみてください。私たちは,知らないものを買ったことがあるでしょうか。広告を見ることもなく,誰から紹介を受けることもなく,お店で売っているのも見たことがない商品を。どれだけ素晴らしいものでも,知らなければ買うことはありえないのです。
まずは覚えてもらうこと。そのために,徹底して「目立つ」こと。よく戦略論を語るときに,「競合他社と差別化することが大事である」といいます。差別化とは,他社と違うことをやること。それは,広告も同じ。他社と違うことをするから目立つのです。よく「日本人は横並びが好き」だと言われます。それを覆すように,とにかく変わったことをして目立つ。そして,見た人に喜んでもらう。それがサイボウズのマーケティングコミュニケーション戦略の基礎となりました。