インターネットの媒体価値が急速に高まる中で,Webサイトをいかにビジネスにつなげるかという視点が重要になっている。そこで欠かせないのがWebサイトのユーザビリティ(使いやすいさ)だ。

 日経パソコンは,2004年から独自の基準で企業サイトのユーザビリティを検証している。2006年はWebマーケティングやリスク管理に対する取り組みなどを重視しつつ,独自に64の評価項目を設定。主要企業120社のWebサイトのユーザビリティをランキング化した(ランキングの詳細はここをクリック)。

 実際の調査結果については,上記のサイトか日経パソコン2006年6月12日号の特集「企業サイトユーザビリティランキング2006」を参照していただくとして,ここでは記事で説明できなかった,企業が起こした事故などの情報を,Webサイト上で掲載することのメリットについて考えてみよう。

結果的にクレーム減を期待できる


 企業が事故情報をWebサイトで掲載することで,大きく2つのメリットが期待できる。

 1点めは,詳細情報を提供してクレームや問い合わせの件数を減らす効果である。例えば,鉄道関係のWebサイトでは,列車の遅延などを知らせる「運行情報」をトップページの目立つ位置に掲載している。遅延などの情報をWebサイトで公開していれば,それを見た利用者は事前にトラブルに対処でき,結果的にクレームが少なくなる。

 ブリヂストンやローソンのWebサイトでも,不具合が見つかった製品の回収情報やシステム障害などの情報を,通常のニュースリリースとは別の位置で紹介している。同じように,家電メーカーのWebサイトでも製品の事故情報を分かりやすく伝える工夫を実施している。


家電製品協会が採用した「お知らせアイコン」

 実は,シャープやソニーなどほとんどの家電メーカーのトップページには,「i」に似たマークで「重要なお知らせ」などと記載されたアイコンがある(画像参照)。これは,家電メーカーなどが参加している財団法人「家電製品協会」が,家電製品の点検,修理,回収といった事故情報を,消費者に分かりやすく伝えるために採用したアイコンだ。「お知らせアイコン」と呼び,すでに家電メーカー27社が導入している。

 不具合があった製品の回収をWebサイトで告知した家電メーカーで,最も目立つのが松下電器産業だ。テレビCMなどでご存知の方も多いと思うが,20年から14年前ごろの暖房機に死亡事故の危険があるという不具合が見つかった。松下電器産業では,当初自社のWebサイトのトップページの一部に告知を掲載するだけだったが,2006年6月時点ではトップページのURLを入力すると回収を呼びかける告知ページが全面に表示されるようになっている。

 製品に不具合が発見されて営業停止になった場合,以前だと家電業界では,製品情報のWebページも閉鎖していた。つまり,Webページでの情報提供も営業活動の一環と考えていたというわけだ。ただし,現在ではむしろWebサイト上で事故の詳細情報などを積極的に告知しようという動きが広がっている。

イメージを維持・向上させるために


 Webサイトに事故情報を掲載することで得られるメリットの2点めは,企業イメージの維持・向上である。Webサイト上で企業がしっかり説明責任を果たさなければ,消費者はWebサイトを通してその企業の情報管理体制にまで不審を抱きかねないからだ。

 企業では,「できれば事故情報は消費者に知らせたくない」といった心理が働く。しかし,企業イメージを守るために事故情報を隠そうとした行為が,逆に企業イメージにマイナスの作用をおよぼすことになる。家電メーカーのWebサイト戦略担当者の中には,「松下電器産業は一連の告知活動によって逆に企業イメージを向上させた」という意見もある。

 このように考えると,何か事故が発生した際にだけ,突発的にトップページのどこかに事故情報を掲載するのでは取り組みとして不十分なことが透けて見える。特別に重要なお知らせの欄を設けることもなく,一定期間が過ぎると掲載を取りやめてしまう態度では,クレームを減らすこともできない上に,マイナスの企業イメージを植え付けるリスクもはらむわけだ。

 単にWebサイトを持ち,商品情報などを掲載していればよいという時代はとうに終わりを告げている。営業や販促のツールとしてだけでなく,Webサイトは企業イメージや企業の理念を伝える「企業の顔」としての性質も強めている。Webサイトをビジネスにつなげる観点から考えても,今後は「事故情報をWebサイトで公開していく姿勢」が欠かせなくなることは間違いない。