文化庁の文化審議会著作権分科会法制問題小委員会は2009年5月12日,2009年度の第1回会合を開催した。同日の会合では主査の選任が行われた。今年度の主査は,一橋大学大学院教授の土肥一史氏が務める。
今回の会合では,事務局が2009年度における小委員会の当面の検討課題として四つを挙げた。具体的には,(1)権利制限規定の見直し,(2)通信・放送の在り方の変化への対応,(3)ネット上の複数者による創作に関する課題,(4)間接侵害――である。委員から特に異論が出なかったため,小委員会は当面この四つについての議論を進めることになった。
さらに小委員会は,議論の効率化に向けて,二つのワーキンググループ(WG)を立ち上げる。「契約・利用WG」ではインターネット上における複数の人による創作についての課題についての検討を進める。このWGの座長には弁護士の末吉亙氏が務める。もう一つの「司法救済WG」は,第三者による著作権侵害を誘発する行為である間接侵害に関する問題を議論する。同WGの主査には,前年度に引き続き東京大学大学院教授の大渕哲也氏が務める。
各ワーキングチームは,作業の比重の減少と,検討結果が原則として公開される法制問題小委員会で審議されることを考慮して,会議における議論に限定せず,メーリングリストの活用などによる機動的な検討を行うことができるようにする。WGの会議を開催する場合は原則として非公開にするが,議事要旨を作成して,これを公開する。
さらにこの日の会合では,小委員会の委員で「著作権制度における権利制限規定に関する調査研究会」の座長を務めた立教大学准教授の上野達弘氏が,調査と研究の結果を報告した。調査研究会は,小委員会の2009年度の検討課題の一つである権利制限の一般規定(日本版フェアユース規定)の基礎的な資料として,2009年3月に報告書を取りまとめており,上野氏はこれに沿って日本の現行の著作権法制度の現状や海外の権利制限規定などについての報告を行った。
上野氏の説明終了後,事務局が今後の日本版フェアユース規定の検討の進め方について,「次回以降,様々な角度から関係者に幅広くヒアリングを行いたい。それについて委員で幅広く意見交換をしてもらい,事務局が論点整理したい」と述べた。ヒアリングの対象については,「現在選定中であり,主査とも相談して決めたい」としたうえで,著作権・著作隣接権団体や教育関係団体,産業関係団体などを候補として挙げた。
この検討の進め方については,「日本版フェアユース規定のイメージが漠然としたままでは,話がすれ違う可能性がある。仮に考えられる日本版フェアユース規定の要素の整理と,ヒアリングをどう組み合わせるかについて考えるべきだ」という意見が出た。これを受けて文化庁長官官房著作権課著作物流通推進室長の川瀬真氏は,「政府の知的財産戦略本部や有識者団体から,既に日本版フェアユース規定についての提言が出ている。まずはこれらを踏まえて意見を聞きたい。この小委員会が焦点を絞ったうえでのヒアリングの実施は別途考えたい」と述べた。