東海旅客鉄道(JR東海)は2009年春をめどに、東海道新幹線の車内において無線LANサービスの提供を始める。2007年夏以降導入予定の新型車両「N700系」の車内に無線LANのアクセスポイントを設置。サービス開始当初は東海道新幹線と山陽新幹線を直通する「のぞみ号」のほぼ全便、東京−新大阪間で利用可能になる見込み。その後も順次対応車両を増やしていく予定(発表資料)。
N700系では、1編成(16両)の各車両に2カ所ずつ、合計32カ所のアクセスポイントを設置する。各アクセスポイントからのデータは編成先端の1カ所または2カ所に設置する「移動局」で集約し、車外向けのアンテナで送受信する。東海道新幹線では全営業路線の線路に沿って、アンテナの一種である漏えい同軸ケーブルを敷設しており、これと移動局との間でデータをやり取りする。
通信速度は、下り(漏えい同軸ケーブルから移動局)が最大2Mbps、上り(移動局から漏えい同軸ケーブル)が最大1Mbps。これを1編成の無線LAN利用者全員で分け合う形になる。「(1)乗客のおおむね10人に1人、1編成で120人~130人が同時に接続する、(2)複数ユーザーが周波数帯域を共有することによる『統計多重効果』を1%と仮定する、(3)動画配信やファイル転送といった負荷のかかる処理をせず、電子メールやWebサイト閲覧などの用途で利用する——との仮定で算出すると、1人当たり200kbps程度というのが理論上の速度になる」(JR東海広報部)。一般の公衆無線LANのような数Mbpsの高速データ通信は難しいが、漏えい同軸ケーブルはトンネル内などにも敷設してあるため、携帯電話などのように途切れることなく、安定して通信できるのが特徴だ。
無線LANの電波による心臓ペースメーカーなどへの影響については、「総務省の策定した電波防護指針を満たしており、問題ないと考えている」(JR東海広報部)という。
ちなみにN700系では、ノートパソコンなどの電源供給に使えるコンセントを多数用意する。グリーン車は全席(1編成当たり200カ所)。普通車は各車両の両端と窓側の壁に面した席すべて(1編成当たり553カ所)で利用可能だ。
なお、JR東海自身が手掛けるのはこうした無線LANサービスのインフラ部分で、実際のサービスは公衆無線LANサービス事業者が提供する形になる。「現在はサービス概要だけを決めた段階であり、どの事業者と協業するかや利用料金などは今後決めていく」(JR東海広報部)。また、無線LANと同様に漏えい同軸ケーブルを用いて携帯電話や公衆PHSサービスを展開することについては、「技術的には可能であり、将来的にそうしたサービスを提供する可能性もあるが、今の段階では具体的に動いている話はない。ちなみに携帯電話は、山間部などを除けば、現状でもある程度の通話は可能」(JR東海広報部)という。
東海道−山陽直通の「のぞみ」全便で利用可能に
東海道新幹線と山陽新幹線を直通する車両は、2006年3月31日現在で153編成(JR東海保有分が120編成、JR西日本保有分が33編成)ある。JR東海とJR西日本では、2007年夏から順次N700系の営業運転を始め、老朽化した旧車両を更新する形で2009年度までに54編成(JR東海が42編成、JR西日本が12編成)を投入する予定。JR東海保有分だけでなく、JR西日本保有のN700系にも無線LAN設備を導入する。「54編成がそろうと、東海道・山陽直通の『のぞみ号』全便をN700系でカバーできる態勢になる。その後もN700系を引き続き投入する計画で、それに伴い無線LANを使える便数は順次増える見通し」(JR東海広報部)としている。今回の無線LANサービスは、東海道新幹線で使用している列車無線を2009年春にデジタル化することに伴うもの。無線LAN以外に、走行中の列車と指令所との情報伝達を改善する。具体的には、速度規制や発着番線の変更といった指令所からの指示を列車に伝える際、従来は音声で伝達していたが、デジタル化に伴いデータ通信で乗務員室のモニターへ表示することも可能になる。また車両の各種機器やレールなどの異状の有無を、各車両から指令所へデータ通信可能にする。
このほか、乗務員全員が構内PHSを持ち、乗務員同士の連絡や車内放送、運転指令所との連絡などを、車内のどこにいてもできるようにする。これらのデジタル列車無線に関連した車載設備は、N700系に限らず東海道新幹線を走行するJR東海、JR西日本の全列車に取り付ける予定。
なお、JR西日本の営業路線である山陽新幹線は、当面アナログ方式の列車無線のまま運用する。このため、新大阪以西の山陽新幹線の車内では無線LANサービスは使用できない。