今回のテーマは飛び込み営業の心得です。その目的は何でしょうか。新しい仕事を頂くことでしょうか。それも間違いではありませんが、もっとシンプルに考えた方がよいのです。
今日は朝から少し緊張気味です。それというのも昨日の夕方、五十嵐先輩に「そろそろ飛び込み営業をやってみるか」と言われたからです。「飛び込み営業」というと、過酷な仕事のイメージが付きまといます。本当に自分にできるのでしょうか?
朝礼が終わった後、僕を含めて三人が呼ばれました。おそらく今日の飛び込みを一緒にやるメンバーなのでしょう。皆緊張の面持ちです。9時から五十嵐先輩から説明があるそうなので、しばらく待機します。同僚の中井さんが心配そうに話しかけてきました。
「飛び込みをやったりすると、ひどいことを言われたりするんだよな?心が折れそうだよ、俺。山田は、何とも思わないのか?」
「僕だってそんなの嫌だよ。でも、会社がやれっていうなら、やらないといけないんだろ」
「そりゃそうだけど…」
五十嵐先輩が部屋に入ってきました。
「緊張しているようだね。初めて飛び込み営業をやるときは、そんなものだ。頑張ってほしい。今からやり方を説明するから、よく聞いて、疑問があれば何でも質問してくれ。いいね?」
「分かりました」と皆で返事をします。心なしか、返事に元気が無いようです。
「よし、それでは、今から分担を発表する。中井さんの分担は千代田区の丸の内エリア、山田さんは中央区の日本橋エリア、根本さんは港区の六本木エリアだ。各人、配布した地図を見てよく担当エリアを把握すること」
全員で地図を確認します。配布された地図はよく見慣れた普通のものではなく、無愛想な感じの白地図でした。
「先輩、なぜ白地図なのですか?」と中井さんが質問します。
「それは後で説明しよう。まずはエリアの確認だ」
地図をなめるように眺めます。正直、日本橋はまだ1回しか行ったことがないので、どのような場所か全く分かりません。知らない土地で、飛び込み。心細くなります。
「みんな、確認したかい?」と五十嵐さん。
「それでは、やり方を説明しよう。まずは、飛び込み営業の目的だ。山田さん、飛び込み営業の目的は何かな?」
「はい。新しいお客様から、仕事を頂くことです」
「間違いじゃないけど、60点といったところだな。ほかには?」
「お客様から、要望を聞くことでしょうか?」と根本さんが言います。
「うーん、もう少し簡単なことだよ。実は飛び込み営業の目的はたった一つ、『名刺を集めて回ること』に尽きる。つまり、その場で商談はしなくていいということだ」
「え?商談はしなくていいのですか?営業なのに?」と思わず五十嵐さんに聞きます。
「そうだ。テレアポのときも言ったけれど、情報システムは飛び込みだけで取れるような商材ではない。案件化するにはそれこそ、半年、1年かかることもある。ただ、もちろん新規顧客の開拓をしないでいいというわけではない。こうやって仕事がなくならないうちに、地味にコツコツ新規のお客様を開拓するのは、とても大事なことだ」と五十嵐さんは続けます。
「ただ、無理をして商談に持ち込もうとすれば、それこそお客様に嫌がられてしまう。そうならないように、今日は『このエリアの担当になりましたXXです』と自己紹介して、名刺を集めればいい。商談として脈があるかどうかは、後日のテレアポで構わないよ」
「なるほど、それであれば心情的にも楽ですね」
「そうだろう。こういう地味な活動は、コツコツとやらなくてはいけないので、あまり辛い作業にならないようにすることが大事だ。覚えておくといいよ」