内閣官房のIT戦略本部は2009年3月2日、ITを活用した今後3年間の緊急経済対策である「デジタル新時代に向けた新たな戦略」の原案を公表した。予算は3年間で3兆円。40万~50万人の雇用を創出する計画だ。当然「情報サービス産業界にも新たな需要が見込まれる」(内閣官房)。
3兆円のうち、どれだけ情報サービス産業界に配分されるかを、内閣官房は公表しない。しかし、多くのソリューションプロバイダに売り上げ拡大の機会が生まれるのは間違いない。
3カ年で実施する経済対策は4分野。「電子行政の実現」「日本健康情報スーパーハイウェイ」「環境対応型・知識創造型産業の創出」「デジタル情報・知識活用人材の育成」である(図)。各分野にビジネスチャンスがある。
電子行政分野では、府省の共通業務を一元化する「霞が関クラウド」や国民一人ひとりに社会保障情報をプッシュ型で配信する「電子私書箱」の構築といったことが期待できる。このほか、地方税の電子申請を可能にする「地方税申告基盤」の整備などがある。
日本健康情報スーパーハイウェイではIT基盤を整備し、電子カルテなどの情報を地域医療機関で共有できるようにする。同時に医療機関をつなぐ光ファイバー網を整備する。調査会社のシード・プランニングによれば、電子カルテだけで現在、1000億円超の市場規模があり、2012年には約1300億円へ成長する。この伸びが加速するとみられる。
環境対応型・知識創造型産業の創出では、環境面で世界最先端になるデータセンター技術の実用化を進めるほか、環境面に配慮したITS(高度道路交通システム)の実現を支援する。三菱総合研究所などの調べでは、ITSの端末、サービス、システムを合わせた市場規模は2010年に6兆円超。この分野もビジネス拡大の可能性が高い。
電子行政分野の施策によりデジタル化された行政情報を元にした新産業の創出も奨励する。例えば、地理空間情報の提供によって可能になる、新しいサービスの事業者を育成する。
人材育成では、高度IT人材の育成を加速させる。併せて、初歩的なIT活用レベルの人材への教育も実施する。IT経営が広がれば情報サービス業界への波及効果も期待できる。
緊急経済対策案を取りまとめたのは「IT戦略の今後の在り方に関する専門調査会」。東京電力顧問の南直哉氏が座長を務め、合計25人の委員で構成する。情報サービス産業界からは、情報サービス産業協会(JISA)の浜口友一会長、日立製作所の庄山悦彦取締役会長の2人が参加している。