NTTデータビジネスコンサルティング
酒井幸良,照井栄介

 前回の最後に触れた通り,かつてCRM(Customer Relationship Management)の8割が失敗に終わった原因は,CRMの本質を十分に理解していなかったためである。CRMはシステムの導入だけを目的とした活動でもなければ,特定の部門,特定のチャネルに対してのみ限定的に取り組むものでもない。さらに,場当たり的に目先のことだけを解決する改善活動でもない。CRMとは,「組織的」で「継続的」な取り組みにほかならず,最終的には「人の意識を変える」取り組みだと言える。

 では,「組織的,継続的にCRMに取り組む」とは,具体的にはどういうことだろうか。それは,(1)顧客をよく理解し,(2)売り物を仕立て,(3)上手に売る場や接点を作り,(4)人の意識を合わせ,(5)関係会社や業者と力を合わせる,といった一連の活動を,いつでも・状況に応じて・自分たちの力で,うまくできるようにする活動である。

 取り組みの具体的な内容は,市場・商品によって求められるものやその要求レベルによって異なるだろう。しかし,CRMの枠組みとしては,前述した5つの能力すべてを検討する必要がある。5つの能力が網羅されていないと,現在問題が発生しているところや改革に取り組んでいるところだけに目が行ってしまったり,「自部門だけ」というような狭い取り組みとなってしまったりする。いわゆる「木を見て森を見ず」に陥りがちである。

 筆者は,CRMの実力や課題を把握するためのフレームワークとして,5つの能力に関する50のチェックポイントを設けている。今回と次回の2回にわたり,5つの能力について解説するとともに,50のチェックポイントを通して,みなさんの会社におけるCRMの能力を確かめてもらいたい。

CRMの先行きを決する5つの能力

 上記の一連の活動を実践するために必要な能力を定義すると,以下のようになる(図1)。

図1●CRMの成功に必要な5つの能力
図1●CRMの成功に必要な5つの能力

1.顧客をよく理解する = 顧客理解力
 顧客に関する情報を集め,分析し,顧客サービス方針を設定する能力

2.売り物を仕立てる = 価値提供力
 顧客のニーズに合わせて,商品やサービス,ブランドを企画・開発する能力

3.上手に売る場をつくる = 顧客対応パフォーマンス
 「顧客接点(営業担当者,コールセンター,Webなど)がスムーズに連携して対応している」というような,顧客側から見たオペレーションの遂行能力

4.人の意識を合わせる = 人材活用力
 顧客接点において必要なスキルセット(基礎知識,価値観,ノウハウなど)を定義・教育・徹底する能力

5.関係会社や業者と力を合わせる = 企業連携力
 協力会社(代理店,販社,物流業者,協力工場など)と,顧客対応方針や顧客対応プロセスを共有・調整する能力

 では,5つの能力の中身を詳しく見ていこう。