業務要件がなかなか固まらず,後に続く設計/開発作業の計画がずれ込み,システム開発プロジェクトが火を噴くケースも多い。その大きな原因は「利用部門の担当者がなかなか要件をまとめられない」というものだ。

 損保ジャパンのシステム子会社,損保ジャパン・システムソリューションの北岸享氏(保険システム第一事業部 保険システム第一部 テクニカルリーダー)も,2000年に稼働した保険商品を販売するWebシステム開発で,利用部門の担当者がなかなか要件を明確にしてくれないという悩みを抱えていた。要件定義フェーズの最初の1,2カ月間はずっと要件が固まるのを待っていた。これがプロジェクトの遅延につながり,巻き返しを図らなければならなかった。

 北岸氏はその後,同システムの追加開発プロジェクトを担当することになったが,このときは前回の反省を生かして「利用部門の要件確定を待っていても仕方がない」と,システム利用部門の担当者から積極的に要件を引き出すことにした。

 この際に大きな武器になったのが,Excelの表だ。あらかじめ「業務要件とシステムとの関係」を示した表を作っておき,利用部門との打ち合わせで決まったことやこれから検討すべきことを書いておくことにした(図3上)。

図3●損保ジャパン・システムソリューションの北岸氏が要件定義をスムーズに進めるために準備した二つの表<br />Excelの表を使って利用部門の担当者との打ち合わせで決まった事項を書き留めた
図3●損保ジャパン・システムソリューションの北岸氏が要件定義をスムーズに進めるために準備した二つの表
Excelの表を使って利用部門の担当者との打ち合わせで決まった事項を書き留めた
[画像のクリックで拡大表示]

 さらに「なぜその機能を採用しないのか」といった,要件の背景や経緯も,利用部門の担当者に聞き,書き留めておくことにした(図3下)。前回の開発時に利用部門の担当者が要件を決めた経緯を忘れてしまうことがしばしばあったからである。

 例えば,「この保険特約をこのWebページで表示しないようにしたのはどういう経緯だった?」と,利用部門の担当者から確認されることがあった。こうした議論の“蒸し返し”が起こると要件を決めた背景の確認に時間がかかり,その間ほかの要件を決められなかった。なぜその要件になったかを明確にすることで,「『こういう理由で要件を決めましたよね』と納得してもらい,打ち合わせを効率的に進められるようになった」と北岸氏は話す。