Webサイトのデザインの中で,ここ2年で大きく変わりつつある「常識」があります。それは,「メニュー(索引)」の位置と「一等地」の場所です。ユーザーの閲覧環境が加速度的に変化しているという認識の下で,それでも最良のユーザビリティを提供しようとするなら,どのようなことを考えておく必要があるでしょうか。

左メニューと右メニュー(視線との交差)のどちらがベスト?

 まだモニター画面の大きさが小さかった時代(1995年前後),情報へアクセスしやすくする「メニュー」の位置は,ほとんど誰が考えても左側にあり,議論もされなかったように記憶しています。確実に画面の中に入り,ユーザーも基本的に左端にさえ注意を向けていれば,大切な情報にたどり着けるという「暗黙の常識」が存在していたかのような時代でした。


左メニューと右メニュー(視線との交差)

 しかしここ数年,メニューが左側にあると本当に操作性が良いのかという議論を聞くようになり,大手のWebサイトでも右側にメニュー機能を搭載するものが出てくるようになりました。右メニュー派の論点は,コンテンツを見ようとする「視線」と,マウスを操作する「操作線」とが交差することが,何らかのストレスを生むということにあります。

 どちらも,実際に存在しない「線」ですが,それらが頭の中で交差することが,思考のスムースさを悪くするというのです。実際に,それらに抵抗があるという人たちも多くいますし,気にならないと答える人もいます。実際のユーザーには,右利きの人もいれば,左利きの人もいるわけで,マウスを持つ手がどちらかもわからないのに,こうした議論が出てきていること自体が,面白い傾向だと思います。

 こうした,今までの常識を再考するという考え方は,もっと情報参照の操作を良くできるはずだという探究心が垣間見えるからです。今までの常識にとらわれることなく,よりユーザビリティの高いインタフェースへの想いが感じられます。

ユーザーの画面は大きくなってきている

 こうした議論が生まれてきた背景には,ハードウエアの進歩もあります。大きなモニターが比較的安価に供給されるようになってきたため,ユーザーが見渡せる画面の領域が広くなりました。

 今でも,「640×480」という画面サイズをかたくなに守っているケースがありますが,そろそろそうした制約が外れつつあるというのが現状です。そもそも右メニューが許容されてきた背景には,下図のように右側にメニュー機能を搭載すると,狭い画面サイズだとユーザーが気がつかないという恐れがあったためでした。しかし,比較的大きな画面が一般的になってきた今,その恐れはかなり薄まってきたと言えるでしょう。


画面の大きさと左右メニュー

 右側にメニューを配置するということは,「製作者側が意図する大きさに画面サイズを合わせてくれ」というユーザーへの無言のメッセージを感じます。しかし,情報量とレイアウトが組み合わさって適切さが保たれるものなので,ユーザーもそれほど嫌な気分にもならずにウィンドウのサイズを変更しているように思います。

ウィンドウの開き方は,ユーザーによって様々

 もう一つ大きな流れがあります。デスクトップPCの画面サイズは大きくなっていく傾向があるのですが,その場合でも,その画面に幾つのウィンドウを立ち上げるか,という問題です。


シングル・ウィンドウとマルチ・ウィンドウ

 17インチ程度のモニターでも,画面いっぱいにメーラーだけを表示させて操作する人がいますし,小さなウィンドウを幾つも出して,その端っこをクリックして切り替えて使う人もいます。さらに作り手を惑わせるのが,ノートPCの小型化の流れです。同じ人であっても,デスクトップでのウィンドウの使い方とは異なる方法を採ることもあります。

 現在では,モニターの大きさだけでなく,デバイスの種類も増え,どんな状況で対象ユーザーがそのWebサイトを見ているかを特定できなくなりつつあるのです。

一般的に横スクロールは不利

 おそらく現時点で確実に言えるのは「横スクロールは面倒だな」と多くの人が感じていることでしょう。横書きの文書を読むときは,基本的に視線は左上から右下へと流れます。それは,マウスのホイール操作と違和感なく同期の取れる流れです。しかし,右側に大きくはみ出したコンテンツは,左右方向に動かしながら,上下動を伴うかなりややこしい動きをユーザーに強要します。これは,よほどコンテンツに魅力がない限り,多くのユーザーが離れてしまう構成になっていると言えるでしょう。


縦スクロールと横スクロール

 わざわざ右側をのぞいてみても,宣伝しかなかったとか,あるいは,自分の採った行動に見合わない価値しか得られない「仕掛け(レイアウトやデザイン)」に,ユーザーは悪い印象を持つものです。コンテンツがどれほど良くても,ここは邪魔なものが多すぎるなどと,マイナスの部分だけ強い印象を与えてしまったりするものです。

画面の一等地とはどこか

 レイアウトの常識に変化が訪れたということは,必然的に「一等地」と呼ばれるエリアにも変化が起こっていると考えるべきです。以前は左上のエリアが誰の目にも留まる場所であったのに,モニターのサイズが大きくなり,マルチ・ウィンドウで複数ウィンドウを開くことが増えたことで,一番目立つところを特定しにくくなっています。

 いまや「答え」はないのかもしれません。どこに置くのが正しいとか,参考書に書かれているものでは不十分なのです。けれど,ユーザーは見ています,そのサイトが使いやすいかどうか。必要な情報が最初に目に飛び込んでくるかどうか。

 だからこそ,画面レイアウトやデザインの重要性が増すのです。Webは,テレビのように,誰もが同じスタイルで見てくれるメディアではありません。見方や操作性に個性を許していることこそが,Webが広がっていく根本理由です。そんなユーザーの中から,特定の対象ユーザーを選び,彼らに向かって情報発信をすることになります。だからキチンと設計(デザイン)しなければならないのです。

 自分たちの提供しようとしているサービスの対象ユーザーには,左右メニューのどちらが適しているのか,どのように情報を配置すればスムーズに全体像をも受け取ってもらえるのか,どんなリンクやショートカットが喜ばれるのか,様々な配慮が求められます。

 どのようなコンテンツを並べるかという,情報提供者側の考え方だけでなく,それらを受け取る側の立場で,設計中のWebサイトを見直してみる時間を取れたなら,完成後の「お客様」との距離は少し近くなっているかもしれません。


三井 英樹(みつい ひでき)
1963年大阪生まれ。日本DEC,日本総合研究所,野村総合研究所,などを経て,現在ビジネス・アーキテクツ所属。Webサイト構築の現場に必要な技術的人的問題点の解決と,エンジニアとデザイナの共存補完関係がテーマ。開発者の品格がサイトに現れると信じ精進中。 WebサイトをXMLで視覚化する「Ridual」や,RIAコンソーシアム日刊デジタルクリエイターズ等で活動中。Webサイトとして,深く大きくかかわったのは,Visaモール(Phase1)とJAL(Flash版:簡単窓口モード/クイックモード)など。