本連載では,ウェブ系のエンジニア(もう少し厳密に言えばプログラマやデータベース設計,システムデザインなどを行う人間)としての立場から,ウェブサイトの使いやすさをどのように実現していくのか,ということを,筆者の経験やそれを通じて考えたことなどを含めて,お話ししていければと思っています。よろしくおねがいします。
サイトの使いやすさはデザイナーの領域?
まずは第1回ということで,ウェブサイトの使いやすさって何なんだろうなあ,ということを考えていきたいと思っています。ウェブサイトの使いやすさとは,文字通り,より便利で快適に目的を達成できるサイト,ということで,英語の「ウェブ・ユーザビリティ」なんて言葉もよく使われます。ただし,一口に「使いやすさ」といっても,それを形成する要素は様々ですよね。例えば以下のようなものがあげられるでしょう。- 色使いが目に優しく,長時間見ていても疲れない
- 配置やページ構成がわかりやすく,操作に迷わない
- 間違った入力をしたときに,正しい操作を教えてくれる
ただ,エンジニアをやっていると,「使いやすさはサイトのデザインや要素の配置などのユーザー・インタフェースの部分にかかわる問題なので,どちらかというとデザイナーの領域である」というふうに考えがちじゃないかなあ,と思っています。エンジニアは,データベースやプログラムなどのバックエンドの部分をしっかり作っていれば,使いやすいインタフェースはデザイナーが良しなにやってくれるのではないか,と。そこまで極端ではなくても,使いやすさに関して,どこかデザイナーを頼っている部分がある人も多いと思います。筆者もそういう部分が少なからずあるような気がしています。
しかし,エンジニアサイドの作業にも,使いやすさに深くかかわっている部分は多くあります。例えばページ構成や実装する機能の良し悪しは直接使いやすさにかかわってきますし,データベースの設計やプログラム構造なども,結局はウェブサイトの性格に影響を与えます。また,デザイナーとどのように作業分担をするのか,といったこともいろいろな影響を与えてきます。
この連載では,そうした「エンジニアがサイトの使いやすさにどうかかわっていくのか」といったことをテーマに,いろいろな角度から考えていくつもりです。
最初に白状してしまうと,筆者は決してユーザビリティの専門家ではありませんし,インタフェースの設計や見た目のデザインは苦手なほうで,普段結構苦労をしています。しかし,だからこそぶつかった問題や考えさせられたことをネタに,エンジニアの立場から,使いやすさについて,じっくり考えていきたいと思います。
「Google」ユーザーと「Yahoo!」ユーザーの好みの違い
それではあらためて「使いやすさ」について考えてみたいと思います。そして今回考えたいと思っているテーマは「使いやすさって人によって異なるよね」です。もう少し具体的に言うと,例えば「昨日パソコンを購入してインターネットに接続したばかりの60代」と「毎日パソコンを3時間以上使う30代」では,使いやすいと感じる要素は違うんじゃないか,ということです(図1)。
図1:人によって使いやすさは異なる
エンジニアを生業としている皆さんは,毎日コンピュータに向かっているはずですし,情報収集などの目的から,様々なウェブサイトへも日々アクセスしていると思います。そのため,エンジニア,特にウェブ関連のエンジニアをしていれば,ウェブに関する知識や経験は,当然豊富になります。しかも,そういった仕事をしていると,周りにいる同僚も同様に詳しい人が多いので,それが当たり前のように感じてしまうかもしれません。
しかしよく世の中を見渡してみれば,そういった詳しい人は意外と一握りなんですよね。世の中の多くの人は,われわれエンジニアほどパソコンに向かっている時間は長くなくて,仕事である程度使っている人でも,自分が必要とする操作に関してはそこそこ詳しくなっていても,それ以外の作業はほとんどしていなかったりします。エンジニアとして日々コンピュータに向かってコードを書いたり,設計をしたり,ウェブで調べ物をしたりして,ウェブサイトの裏側の仕組みやコンピュータの内部のことなんかの知識がついてしまってくると,そうした「普通の人」のことがだんだんわからなくなってしまっていないかと,筆者はいつも心配しています。
ウェブ系エンジニアのような「インターネットに詳しい人」と,それ以外の「普通の人」がウェブサイトに対して感じる印象や好みの違いが現れている例としてよく例に挙げられるものとして,「Google」と「Yahoo!」があります。検索エンジンを使うという作業は,インターネットを使ったことがあればたいていの人が知っていることだと思いますが,ではどの検索エンジンを使っているのかといえば,「インターネットに詳しい人」はGoogleを使っている人が多いのに対し,それ以外の一般の人は圧倒的にYahoo!を使っています。
その理由としては,初心者向けの書籍などがYahoo!を使った解説を掲載していることが多い,ということもあると思いますが,そのほかに,Googleがトップページはほとんど検索窓しかなかったり,説明も端的で必要最低限だったりして,なんとなくウェブサイトの構造の「勘所」みたいなものをつかんでいる人でないと使いづらく,それに対して「Yahoo!」はトップページにもたくさんのサービスのリンクを用意して,とりあえずトップページを探せばどこかに目的の機能を利用できる,といったこともあると思います。
ある程度ウェブを使い込んでくると,自分に何が必要なのか,何が必要でないのかがわかってくるものです。そうなると,Googleのように必要最低限の情報しか出ていないようなサイトのほうが使いやすく感じますが,そうでない人にはYahoo!のほうがずっと使いやすいのかもしれません。
いろいろな人に話を聞いてみよう
ほかに例を挙げると,Internet Explorerがブックマークを「お気に入り」と呼び変えたり,次のバージョンであるInternet Explorer 7でRSSを「Webフィード」と呼ぼうとしたり(これは結局取りやめになったようなのですが)しているのも,ブックマークやRSSといったそれが何かをわかっている人には何の問題もない言葉が,初心者にはわかりにくく使いづらいと判断したからでしょう。もちろん,熟練度に関係のない,普遍的な使いやすさ,使いにくさの要素もたくさんありますが,自分たちの視点から使いやすさを追求しても,使う人によっては必ずしもわれわれ自身が感じているほどには,使いやすいと感じてくれないことも多いんですよね。
だからこそ,サイトを構築する際には,対象となるターゲット層を想定して,その層に合致するユーザーが使いやすいように設計していくわけです。想定ユーザー層に仮想人格や名前を与えて「彼ならこれをどう思うか?」と仮想問答をしながら制作を進める,といった方法も聞きます。けれど,実際に想定したユーザー層のことをよく知らなければ,何を考えるかをいくら想像しても,限界があるなあ,という気がします。
じゃあどうすればいいのかな,と考えるわけです。それを知るには,実際にターゲットとなる人に聞いてみるのが一番です。なので最近筆者は,身の回りの人に,普段どうやってインターネットを使っているのか,使いにくいことは何か,といったことをよくたずねるようにしています。例えば,奥さんや父親や,近所の理髪店で髪を切っているときとか,飲み会で初めてあった人とか。いろいろ思いがけない話を聞けますし,結構話が盛り上がったりもするので,沈黙があまり得意でない人にもお薦めです。
ということで,いろいろな人に話を聞いてみると,いろいろな立場の違いによる,使いやすさのポイントも見えてくるかもしれないよね,と筆者はいつも思っています。もし,使いやすさって何なんだろうと悩んでいるなら,早速身近な人を捕まえて,いろいろと話を聞いてみてはどうでしょう。
余談ですが,筆者は携帯電話がうまく使えません。1日の半分以上をパソコンの前ですごす日も珍しくないような仕事をしていますから,メールやウェブサイトへのアクセスを携帯からすることはほとんどないし,デジカメもいつも携帯しているのでカメラすらほとんど使いません。なので,いざ何かをしようとしたときに,なかなか目的の機能に到達できなくて本当に困ります。アドレス帳を開くだけでも,間違えてメールの画面が立ち上がってしまうことさえあります(本当です)。なので,携帯電話をバリバリ使いこなしている人を見るとすごいなあ,と思うと同時に,何でこうも携帯電話は使いづらいのかなあ,と思ったりします。でもよく考えると,これと同じことを,多くの人がパソコンを使うときに考えているのかなあ,と思ったりして,やっぱり使いやすさって重要だなあと思うわけです。