Bruce Schneier Counterpane Internet Security
「CRYPTO-GRAM August 15, 2005」より

 米連邦上訴裁判所が当初の見解を覆し,「コンピュータの記憶装置に一時的に保存された電子メールを傍受(横取り)すると,米連邦政府の盗聴法に違反する」との判決を下した。

 基本的に,「通信中の電子コミュニケーション」と「記憶装置に保存されたデータ」は,それぞれ異なるプライバシ関連法で保護される。そして,電子コミュニケーションに対する保護の方が,記憶装置に保存されたデータに対するものよりはるかに手厚い。送信者や受信者が保管している電子メールは,明らかに記憶装置に保存されているデータである。しかし,送信者から受信者に転送されている途中の電子メールについてはどうだろう? 見方によっては,明らかに通信中の電子コミュニケーションである。ところが米国政府は,「送信途中の電子メールはインターネット上の転送過程で複数のコンピュータに保存されるので,記憶装置に保存されたデータだ」と主張した。

 この件について,裁判所は初め政府側に立っていた。しかし裁判官のLipez氏は,最初の意見書の中で見事な反対意見を展開した。同氏は,裁判官が全員出席した再審理で意見を述べ,その結果,過半数の裁判官がそれまでの立場を覆すことになった。

 同氏の意見書は長いけれど読む価値がある。よく検討されており,詳細に深い理解と配慮がなされている。最後の行には,「この問題がありふれているというのなら,対策が必要なありふれた問題だ」とある。

 私はこの件に,法廷助言者としてかかわった。

 ここには大きな問題が存在する。それは,サイバー空間で著作権法を拡大解釈しようとしてきたエンタテインメント業界の問題と同じものだ。エンタテインメント業界は「著作権のあるコンテンツが,コンピュータからコンピュータ,CD-ROMからRAM,サーバーからクライアント,ハード・ディスクからビデオ・カードに転送される際,常にコピーが行われている」と主張していた。このようなばかげた「コピー」の定義のせいで,著作権のあるコンテンツの扱い方に対して,エンタテインメント業界が強大な法的権力を持つようになってしまった。

米連邦上訴裁判所の判決:
http://www.epic.org/privacy/councilman/kerr_amicus.pdf>(PDF形式)

この件の概要と,プライバシとの関係:
http://www.epic.org/privacy/councilman/

私の意見書:
http://www.epic.org/privacy/councilman/tech_amicus.pdf>(PDF形式)

6つの市民権団体による意見書:
http://www.epic.org/privacy/councilman/kerr_amicus.pdf>(PDF形式)

Copyright (c) 2005 by Bruce Schneier.


◆オリジナル記事「E-Mail Interception Decision Reversed」
「CRYPTO-GRAM August 15, 2005」
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◆この記事は,Bruce Schneier氏の許可を得て,同氏が執筆および発行するフリーのニュース・レター「CRYPTO-GRAM」の記事を抜粋して日本語化したものです。
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◆Bruce Schneier氏は米Counterpane Internet Securityの創業者およびCTO(最高技術責任者)です。Counterpane Internet Securityはセキュリティ監視の専業ベンダーであり,国内ではインテックと提携し,監視サービス「EINS/MSS+」を提供しています。