合成のなじみを良くする「エッジブレンディング」のテクニック
- 2017/04/11
合成した境界を自然に見せることは、コンポジットにおける重要な仕事のひとつです。特に、実写合成では、グリーンバック合成したときの人物のエッジが不自然になりやすい傾向にあります。エッジを自然に見せる手法はいろいろあるのですが、今回はそのうちのひとつ、エッジブレンディング(Edge Blending)のテクニックを紹介したいと思います。
エッジブレンディングについては、スティーブ・ライト氏の著書 『ノードベースのデジタルコンポジット コンポジターのための理論と手法』で以下のように説明されています。
エッジブレンディングが実際にどのような効果かというと、まずは見てもらった方が早そうです。
1. 背景(Background)を用意します。
2. 前景(Foreground)を用意します。
3. 合成します。
ここで、拡大して見るとちょっと問題があります。エッジが固すぎる(シャープすぎる)ように見えます。
4. エッジにブラーを適用します。わずかにボカすことによって、合成の「なじみ」が良くなります。
エッジブレンディングは、このように前景と背景を合成した「後に」ブラーを適用するやり方です。背景ピクセルと前景ピクセルがお互いに混ざり合うことで、よりいっそう「なじみ」が良くなるからです。
エッジにだけブラーを適用するには、エッジマット(Edge matte)と呼ばれる素材をつくる必要があります。その名前の通りですが「エッジ部分のマット」です。このような素材です。
ロン・ブリンクマン氏による著書『デジタル合成基礎講座』では、エッジマットを以下のように説明しています。
エッジマットの作り方はソフトウェアによってさまざまですが、どのソフトでもできそうな方法を紹介しておきます。前景のマットを少しぼかし、「アルファが0%でも100%でもないピクセル」を抽出する、というものです。
1. 前景のマットがあります。
2. 前景のマットを少しボカします。ここでは5ピクセルのブラーを適用しています。
3. このボケたマットに対して、山形のカーブで階調を変化させます。
この山形のカーブは、「元が0%なら0%、元が50%なら100%、元が100%なら0%に変更する」という意味で、この結果、エッジマットが得られます。
カーブはほとんどのコンポジットソフトに用意されている機能なので、覚えておくと便利です。カーブの使い方は別記事[Photoshop & AE 初心者にオススメしたい3つの便利な色調補正機能]に書きました。このやり方を知っておけば、たいていのソフトでエッジマットをつくることができます。
もしカーブがない場合でも、たぶん大丈夫です。「マットをぼかしてレベルを調整する」という処理をすれば、「太ったマット」と「痩せたマット」をそれぞれつくることができます。太ったマットから痩せたマットを引けば、エッジマットを作成できます。
もっとも、ソフトによってはエッジを抽出する機能が用意されているので、そちらを使った方が便利かもしれません。例として、After EffectsとNUKEでやる方法を紹介します。
After Effectsでエッジブレンディングを行う方法もいろいろありますが、ここではマーク・クリスティアンセン氏の著書『After Effects CS4 スタジオテクニック プロが教える効果的なビジュアルエフェクトとコンポジット』に記載されている方法を紹介したいと思います。
1. 前景のマットに[チャンネルシフト]エフェクトを適用し、[アルファを取り込む]を"フルオン"、3つのカラーチャンネルをすべて"アルファ"にします。
2. [輪郭検出]エフェクトを適用し、[反転]にチェックします。
3. [最大/最小]エフェクトを適用、操作は最大、チャンネルをカラーに設定します。半径の値を上げるとエッジマットを太らせることができます。
4. [ブラー(滑らか)]エフェクトを適用し、マットを適度にボカします。エッジマットの完成です。
このように作成したエッジマットを調整レイヤーのルミナンスキーマットに利用します。調整レイヤーにブラー(滑らか)エフェクトを適用し、エッジブレンディングを行います。
Nukeでは[EdgeDetect]ノードを使うと、Alphaチャンネルのエッジを抽出できます。
[Blur]ノードの"mask"インプットにこのエッジマットを入力すれば、エッジブレンディングが可能です。
他には、エッジ部分だけにブラーを適用する[EdgeBlur]ノードを使う方法もあります。Shizlogさんの[合成Tips: edge blurは合成の後]という記事で紹介されています。
最後にちょっと補足します。エッジブレンディングは便利なテクニックではありますが、「やればやるほど自然になる」とか、「やっておけば必ずうまくいく」という魔法ではありません。やることによって、むしろ不自然になる場合もあると思います。ブラーの量や、ブラーを実行する幅が重要です。エッジブレンディングがうまく機能しているか注意してください。
エッジブレンディングとは?
エッジブレンディングについては、スティーブ・ライト氏の著書 『ノードベースのデジタルコンポジット コンポジターのための理論と手法』で以下のように説明されています。
「エッジブレンディング」という、最終合成後に前景オブジェクトのエッジを背景プレートにブレンドさせる方法によって、ルックを向上させることができます。この手法を使用すると、合成されるオブジェクトのエッジがとても自然なものになり、シーンに溶け込むようになります。もちろん、エッジをどの程度ブレンドするかを決めるには繊細でアーティスティックな判断が必要とされます。しかし、この手法はほぼすべての合成で役立つものであり、特に映画ではその効果を発揮します。
-スティーブ・ライト『ノードベースのデジタルコンポジット コンポジターのための理論と手法』-
エッジブレンディングが実際にどのような効果かというと、まずは見てもらった方が早そうです。
1. 背景(Background)を用意します。
2. 前景(Foreground)を用意します。
3. 合成します。
ここで、拡大して見るとちょっと問題があります。エッジが固すぎる(シャープすぎる)ように見えます。
4. エッジにブラーを適用します。わずかにボカすことによって、合成の「なじみ」が良くなります。
エッジブレンディングは、このように前景と背景を合成した「後に」ブラーを適用するやり方です。背景ピクセルと前景ピクセルがお互いに混ざり合うことで、よりいっそう「なじみ」が良くなるからです。
エッジマットをつくる
エッジにだけブラーを適用するには、エッジマット(Edge matte)と呼ばれる素材をつくる必要があります。その名前の通りですが「エッジ部分のマット」です。このような素材です。
ロン・ブリンクマン氏による著書『デジタル合成基礎講座』では、エッジマットを以下のように説明しています。
これはエレメントのエッジに対してのみ値があり、それ以外の部分は透明なマットです。(略)エッジマットはさまざまな理由から有用であると言えます。(略)レイヤー化が終了した後に効果を適用する場合でも、エッジマットを用いる状況もあるでしょう。例えば、前景と背景を一緒に結合した後で、エッジをわずかにぼかす場合に有効活用できます。
-ロン・ブリンクマン『デジタル合成基礎講座』-
エッジマットの作り方はソフトウェアによってさまざまですが、どのソフトでもできそうな方法を紹介しておきます。前景のマットを少しぼかし、「アルファが0%でも100%でもないピクセル」を抽出する、というものです。
1. 前景のマットがあります。
2. 前景のマットを少しボカします。ここでは5ピクセルのブラーを適用しています。
3. このボケたマットに対して、山形のカーブで階調を変化させます。
この山形のカーブは、「元が0%なら0%、元が50%なら100%、元が100%なら0%に変更する」という意味で、この結果、エッジマットが得られます。
カーブはほとんどのコンポジットソフトに用意されている機能なので、覚えておくと便利です。カーブの使い方は別記事[Photoshop & AE 初心者にオススメしたい3つの便利な色調補正機能]に書きました。このやり方を知っておけば、たいていのソフトでエッジマットをつくることができます。
もしカーブがない場合でも、たぶん大丈夫です。「マットをぼかしてレベルを調整する」という処理をすれば、「太ったマット」と「痩せたマット」をそれぞれつくることができます。太ったマットから痩せたマットを引けば、エッジマットを作成できます。
もっとも、ソフトによってはエッジを抽出する機能が用意されているので、そちらを使った方が便利かもしれません。例として、After EffectsとNUKEでやる方法を紹介します。
Adobe After Effectsでエッジブレンディングを行う場合
エッジマットは、背景と前景にまとめてブラーを適用したり、強度と彩度を背景に一致させるために使用できます。
-マーク・クリスティアンセン『After Effects CS4 スタジオテクニック プロが教える効果的なビジュアルエフェクトとコンポジット』-
After Effectsでエッジブレンディングを行う方法もいろいろありますが、ここではマーク・クリスティアンセン氏の著書『After Effects CS4 スタジオテクニック プロが教える効果的なビジュアルエフェクトとコンポジット』に記載されている方法を紹介したいと思います。
1. 前景のマットに[チャンネルシフト]エフェクトを適用し、[アルファを取り込む]を"フルオン"、3つのカラーチャンネルをすべて"アルファ"にします。
2. [輪郭検出]エフェクトを適用し、[反転]にチェックします。
3. [最大/最小]エフェクトを適用、操作は最大、チャンネルをカラーに設定します。半径の値を上げるとエッジマットを太らせることができます。
4. [ブラー(滑らか)]エフェクトを適用し、マットを適度にボカします。エッジマットの完成です。
このように作成したエッジマットを調整レイヤーのルミナンスキーマットに利用します。調整レイヤーにブラー(滑らか)エフェクトを適用し、エッジブレンディングを行います。
Nukeでエッジブレンディングを行う場合
Nukeでは[EdgeDetect]ノードを使うと、Alphaチャンネルのエッジを抽出できます。
[Blur]ノードの"mask"インプットにこのエッジマットを入力すれば、エッジブレンディングが可能です。
他には、エッジ部分だけにブラーを適用する[EdgeBlur]ノードを使う方法もあります。Shizlogさんの[合成Tips: edge blurは合成の後]という記事で紹介されています。
おわりに
最後にちょっと補足します。エッジブレンディングは便利なテクニックではありますが、「やればやるほど自然になる」とか、「やっておけば必ずうまくいく」という魔法ではありません。やることによって、むしろ不自然になる場合もあると思います。ブラーの量や、ブラーを実行する幅が重要です。エッジブレンディングがうまく機能しているか注意してください。
参考文献
1. Wright, Steve. Digital Compositing for Film And Video Third Edition. Focal Press, 2010. (スティーブ・ライト, Bスプラウト訳. 『ノードベースのデジタルコンポジット -コンポジターのための理論と手法-』. ボーンデジタル, 2012, p.99.)
2. Brinkmann, Ron. The Art and Science of Digital Compositing. Morgan Kaufmann, 1999. (ロン・ブリンクマン, 中村達也・中本浩訳. 『デジタル合成基礎講座』. ボーンデジタル, 2004, p.86.)
3. Christiansen, Mark. Adobe After Effects CS4 Visual Effects and Compositing Studio Techniques. Adobe Press, 2008. (マーク・クリスティアンセン, Bスプラウト訳. 『After Effects CS4 スタジオテクニック プロが教える効果的なビジュアルエフェクトとコンポジット』. ボーンデジタル, 2009, p.208-209.)
1. Wright, Steve. Digital Compositing for Film And Video Third Edition. Focal Press, 2010. (スティーブ・ライト, Bスプラウト訳. 『ノードベースのデジタルコンポジット -コンポジターのための理論と手法-』. ボーンデジタル, 2012, p.99.)
2. Brinkmann, Ron. The Art and Science of Digital Compositing. Morgan Kaufmann, 1999. (ロン・ブリンクマン, 中村達也・中本浩訳. 『デジタル合成基礎講座』. ボーンデジタル, 2004, p.86.)
3. Christiansen, Mark. Adobe After Effects CS4 Visual Effects and Compositing Studio Techniques. Adobe Press, 2008. (マーク・クリスティアンセン, Bスプラウト訳. 『After Effects CS4 スタジオテクニック プロが教える効果的なビジュアルエフェクトとコンポジット』. ボーンデジタル, 2009, p.208-209.)
- 関連記事
-
- エッジに残る色を解決するテクニック・10選 (2024/03/24)
- VFXと色収差 (2023/10/04)
- アディティブキーヤーとは何か?(そしてアダプティブデスピルとは?) (2023/04/22)
- 「ライトラップ」という合成テクニック (2019/01/09)
- VFX用・合成用の映像素材集まとめ (2018/07/05)
- 動画合成でマスクを切るときのコツ (2018/06/20)
- 実写合成のチェックリスト (2018/03/06)
- 合成のなじみを良くする「エッジブレンディング」のテクニック (2017/04/11)
- グローは最後に合成すべし (2016/08/20)
- VFX制作のコンポジット作業で注意すべき10項目 (2016/07/01)
- 影を合成するテクニック (2015/12/13)
- 画面の見映えを良くする配色のテクニック (2015/08/22)
- グロー表現のクオリティーを高める3つのポイント (2015/07/25)
- 分かる!リニアワークフローのコンポジット (2015/06/13)
- リアルな実写合成(VFX)にはノイズ除去が重要 (2015/05/15)