XYZ表色系とは何か?~色空間とカラーマネジメントの基礎~ (前編)
- 2024/12/14
2025/01/22 記事タイトル変更。
専門的な内容を含みますが、なにぶん素人がまとめたものですのでいろいろ間違いもあろうかと思われます。ご容赦ください。
色彩やカラーマネジメントの勉強をすると、xy色度図(エックスワイしきどず)という図が出てきます。これは「色の地図」と紹介されますが、なんとも変な図です。横軸がx、縦軸がyとなっており、xとyという2つの数字で、色を表します。
出典:Wikipedia https://en.wikipedia.org/wiki/CIE_1931_color_space
色の付いた馬の蹄(ひづめ)のような形のエリアが「人に見える色」を表すと言うのですが、なぜそんな形なんでしょう。この図はXYZ表色系という仕組みが土台にあるのですが、なぜX、Y、Zという意味不明なアルファベットを使うのか、実に奇妙です。
XYZ表色系は、国際照明委員会(CIE)という照明や色についての国際的なルールを決める組織が1931年に制定した表色系です(CIEには日本も1927年から参加しており、現在も主要メンバーです)。XYZ表色系は、1952年には日本工業規格「JIS Z 8701 色の表示方法」として規格化されました。現在、JISには色に関する規格が多くありますが、これが最初の色に関するJIS規格でした。それで、約100年も前につくられたXYZ表色系が、なんと今も現役バリバリで使われています。現代のコンピューター、カメラ、テレビ、ディスプレイモニターで色を扱うとき、いちばん土台の部分にはいつもXYZ表色系があります。これは凄いことです。
1931年、CIEはRGB表色系とXYZ表色系を同時に制定しました。この2つは実質的に同じ、双子みたいなものと言えます。RGB表色系は実験的基盤であり、XYZ表色系はそこから実用的になるように派生されたものです。まずRGB表色系が、2人のイギリス人研究者の実験と、標準分光視感効率 V(λ) というデータによってつくられました。順を追って説明したいと思います。
CIEが1924年に制定した、標準分光視感効率 V(λ) というものを紹介したいと思います。ひょうじゅんぶんこうしかんこうりつと読みます。標準比視感度(ひょうじゅんひしかんど)という別名(旧名称)で呼ばれることもあります。V(λ) はブイラムダと読みます。これはある意味RGB表色系・XYZ表色系の「先祖」のようなもので、これを語らずにRGB表色系・XYZ表色系は語れないように思います。
標準分光視感効率 V(λ) は、人の感じる光の明るさを数字で表すための「関数」です。関数という聞きなれない言葉が出てきたので、説明しておきたいと思います。関数(かんすう)というのは数学用語で、Function(ファンクション)の訳語となります。関数は、数を入れると、別の数になって出てくる箱です。「数の変換装置」です。
関数は「入力と出力の数の関係」を表すもので、具体的には何らかの数式や数表になります。ちなみに、数学の世界ではよく入力を x(エックス)と書きます。この x は変数(へんすう)と言って、何にでもなれる数字、いろんな数字になれるやつという意味で書く記号です。一方、出力結果は f(x) と書きます。エフエックスと読みます。「x を function という箱に入れた」感じです。f は Function の頭文字です。
光や色の話でも、この関数というやつがちょくちょく出てきます。ただ、f(x) ではなく、ちょっとアレンジされています。まず、入力には x ではなく λ(ラムダ)が使われます。これは波長を表す量記号で、変数として使われます。λ は、"Length"のLにあたるギリシャ文字で、長さ関係のときに使われます。そして、出力結果は f(λ)ではなく、標準分光視感効率の場合は V(λ) と書きます。Vは"Vision", "Visual"のVと思われます(明確な説明は見つけられませんでした)。波長 λ を箱に入れたら、箱から V(λ) という別の数が出てくるイメージです。
標準分光視感効率とは何か?光は電磁波の一種です。約380~780nm(ナノメートル)の範囲の波長の電磁波が可視光である、とよく説明されます。なお、1ナノメートルは1ミリメートルの100万分の1です。
17世紀のニュートンが実験をしたことが有名なのですが、太陽光のようにさまざまな波長を含む白色光はプリズム(三角柱のガラス)を通すことで波長ごとに分かれます。光を波長ごとに分けることを分光(ぶんこう)と言います。分光すると、虹の色が現れます。この色の帯(配列)をスペクトル(spectrum)と呼びます。
スペクトルを見ると、波長の違う光は異なる色に見えることが分かります。短波長は青紫ではじまり、青、水色、緑、黄緑、黄、オレンジと変化していき、最後に長波長では赤になって終わります。スペクトルに見られるような単一波長の光を単色光(monochromatic light)と呼びます。太陽光の白色光というのは、この単色光の集まりなのです。
赤外線はものを温め、紫外線は日焼けをさせることからも、物理エネルギーを持っていることが分かります。しかし、これらは人には見えない波長の電磁波です。いくら大きいエネルギーがあろうと、人にとっては明るさはゼロ、黒、暗闇です。つまり「同じ1ワットというエネルギー」を持つ電磁波でも波長によって人の感じる明るさは違ってくると考えられます。そこで、1ワットのエネルギーを持つ400nmの光はこれくらいの明るさに見える、1ワットのエネルギーを持つ500nmの光はこれくらいの明るさに見える、という度合いを数字で調べておけば、その波長の物理エネルギーを、人の感じる明るさの数字に変換できると考えられます。
また、光の加法混色において、輝度 a の色光と輝度 b の色光の加法混色によって得られる色光の輝度は a + b になる、という数学的な足し算ができると言われます。これはアブニーの法則またはグラスマンの第四法則と呼ばれます。私たちが普段の生活で見る光というのは「たくさんの波長の光の集まり」ですが、波長ごとにいったん分解して、物理エネルギーから波長ごとに輝度を計算してから、最後にぜんぶの波長を足し算すれば、それがその光の輝度ということになります。
さて、以下の数表が、標準分光視感効率 V(λ) です。この表は10nmごと、有効桁数5桁のものですが、もっと細かい数字の表が日本産業規格「JIS Z 8785 測光-CIE物理測光システム」にあります。
参考:池田『色彩工学の基礎』(1980)
この数表をビジュアル化してみます。横軸に波長 λ をとり、縦軸が V(λ) というグラフにします。555nmで最大値「1」をピークに持ち、左右に行くほど下がっていく山形の曲線になります。グラフという見やすい形にしただけで、意味するものは表と同じです。
V(λ) は「波長の関数」です。400を箱に入れたら0.0004という数が出てきて、500を箱に入れたら0.3230が出てくる。「数の変換装置」です。標準分光視感効率 V(λ) は、人の目の最も感度の高いとされる 555nm の波長で「1」という最大値になるように正規化されており、それに対する比率(度合い)となっています。比率なので、この数字自体には単位というものはありません。
これがどうやって出来たかですが、多くの被験者を使った実験データから作られました。人の目の波長ごとの感度、分光感度を調べるために、2つの光を比較するという方法でやりました。基本的な考えはこうです。まず「基準になる光」というのを1つ決めておいて、その横には比較するための単色光(=単一波長の光)をおいて、基準光と同じ明るさに見えるようにエネルギー強度を調整します。たとえば人にとって感じにくい、感度の低い波長の単色光のときは、エネルギー強度をかなり大きくしなければならないということになります。感度は、その逆数で計算できます。今言ったのは直接比較法(direct comparison method)と呼ばれる手法なのですが、これでは違う色どうしで明るさだけを比較して見なければいけないということでなかなか難しく、安定した実験結果を得られなかったそうです。そこで実際には、高速で2つの色を交互に映し出すことによって色を混ぜてしまい、明るさのチラツキが最もなくなるときを同じ明るさと判定する交照法(flicker method)と呼ばれる手法や、基準光を1つに固定するのではなく徐々に変えていき、似た色に見える、近い波長どうしで比較する段階比較法(step-by-step method)という手法を使った実験データが採用されました。
出典:https://www.optica.org/history/biographies/bios/kasson-s--gibson/
CIEが1924年に定めた標準分光視感効率 V(λ) というのは、直接的にはアメリカのカッソン・S・ギブソンとエドワード・ティンダルによる「放射エネルギーの可視性」という1923年の論文が元になっています。ギブソンとティンダルは自分たちでも実験を行いましたが、他の研究者の実験データも比較、分析して取り入れました。ハーバート・ユージーン・アイヴス(1912年)、パーリー・G・ナッティング(1914年)、 コブレンツとエマーソン(1918年)、ハイドとフォーサイスとキャディ(1918年)、プレンティス・リーブス(1918年)、ソウ・マサミチ(1920年)の研究が参考にされました。標準分光視感効率 V(λ) は、全部で250人以上の被験者の実験データが元になっていると考えられ、そこには日本人のデータも含まれているのです。
【メモ】各研究者による論文
・Ives, H. E. (1912). Studies in the photometry of lights of different colours I Spectral luminosity curves obtained by the equality of brightness photometer and flicker photometer under similar conditions. Philosophical Magazine Series 6, 24, 149–188.
・Nutting, P. G. (1914). The visibility of radiation. Transactions of the Illumination Engineering Society, 9, 633–642.
・Coblentz, W. W. Emerson, W. B. (1918). Relative sensibility of the average eye to light of different color and some practical applications. U.S. Bureau of Standards Bulletin, 14, 167.
・Hyde, E. P. Forsythe, W. E. Cady, F. E. (1918). The visibility of radiation. Astrophysics Journal, 48, 65–83.
・Reeves, P. (1918). The Visibility of radiation. Transactions of the Illuminating Engineering Society, 13 (1), 101–109.
・So, M. (1920). On the Visibility of radiation. Proceedings of the Physical and Mathematical Society of Japan Series3, 2, 177–184.
・Gibson, K. S. Tyndall, E. P. T. (1923). Visibility of radiant energy. Scientific Papers of the Bureau of Standards, 19, 131–191.
さて、V(λ) は「波長の関数」ですが、どの波長でも「等しい物理エネルギー」の光を入力するという意味です。400nmの「1ワットのエネルギー」の光、500nmの「1ワットのエネルギー」の光、といった意味合いです。短波長や長波長の端では V(λ) は 0 になります。紫外線や赤外線は「1ワットのエネルギー」を持っていても、0をかけたら0 になる、人には見えない、暗闇ということです。
この V(λ) という関数があれば、光の物理エネルギーを機械で測定して、計算によって人の感じる明るさを数値化できるようになります。まず、光を単色光の集まりであるという考え方をします。分光分布や分光組成といった言葉が使われますが、各波長ごとに個別のエネルギーを持っているということです。
出典:大田『色彩工学 第2版』(2001)
光の量を表す言葉にはいろいろあるのですが、そのひとつである放射束は光のエネルギーを表す量です。これを波長ごとに分けて考え、各単色光ごとの放射束を分光放射束 Φe(λ) W/nm とすると、これを人の感覚を加味した光束 ΦVに変換する公式は以下になります。
出典:篠田・藤枝『色彩工学入門: 定量的な色の理解と活用』(2007)
数式を分解して見ていきたいと思います。Φはファイと読み、物理学では「磁束」などでも使われ「束」のときに使われるようです。ここでは添え字eを"Energy"の意味で付けて放射束、Vを"Vision"の意味で付けて光束を表現する量記号となっています。
細長い「S」みたいなやつ、∫はインテグラルと読む記号で、積分記号です。積分(せきぶん)とは、分けて計算したものを積んで足し合わせるということです。ここでは380~780nmの範囲でやりなさいと書いてあります。最後の dλ(ディーラムダ)は d×λ(ディーかけるラムダ)という意味ではなく dλ でひとつのキーワードです。d は difference 、つまり細かく波長ごとに分けなさいという意味です。∫ と dλ はセットでひとつの意味を成しており、細かく分けて計算して積みなさい、という命令になっているわけですが、では具体的に何をやるのか、というのが ∫ と dλ の間にある Φe(λ) V(λ) です。ある波長 λ における物理エネルギー Φe(λ) と、その波長での V(λ) をかけ算します。最後に波長ごとの計算結果を足し合わせて、人の感覚が加味された光の量へと変換されます。
それから Km というのが出てきてますが、Km = 683 lm/W です。これを最後にかけることで、ルーメンという単位になります。1ワットというエネルギーにつき683ルーメンです。逆に言えば、1/683ワットが1ルーメンと考えることもできます。ワットは、人の感覚はぜんぜん関係のない、エネルギーの量の単位です。一方、ルーメンはカンデラから派生する明るさの量です。カンデラは「キャンドル」と語源が同じで、ろうそくの光から定められた歴史をもつ明るさの単位です。つまり、「683 lm/W」というのは妙にキリの悪い数字ですが、それまで別々の歴史で発展してきていた「物理エネルギー」と「人にとっての明るさ」が、後からこうして数式で繋がった関係で、結果的にたまたま683という数字になったのです。
CIEは、世界中のどの国でも、この V(λ) を使って同じように光の明るさを計算しましょう、と言ったわけです。それが「標準」という意味です。1924年、これは画期的な発明でした。標準分光視感効率は、放射量という(純)物理量を、人の感覚が加味された測光量に変換します。測光量は心理物理量と呼ばれます。測光器という光を測る器械には、V(λ) になるべく似せた仕組みが入っています。
出典:大田『色彩工学 第2版』(2001)
なお、実際には視覚には個人差があるので、V(λ) はあくまで平均的な「架空の人物」のデータであって、個人差を割り切った代表的なものである、という意味合いで、CIE測光標準観測者(CIE standard photometric observer)の分光感度である、という言われ方がされます。分光感度は、実際には一人一人違います。
1924年の標準分光視感効率 V(λ) に続いて、CIEは1931年にRGB表色系・XYZ表色系を制定することになります。測光(photometry)の仕組みができたので、次は測色(colorimetry)の仕組みをつくろうというわけです。この時代、1920年代にはドイツのシュレーディンガー、アメリカのジャッドなどの研究者が論文をいろいろ出していて、光を計測して色を数字で表す方法を確立しようじゃないか、という機運が高まっていたようです。
赤・緑・青という光の三原色による加法混色で、ほぼすべての色をつくることができることは19世紀のヤング、ヘルムホルツ、マクスウェルらの研究で知られていました。波長ごとに単色光を赤・緑・青の数量を表す3つの数に変換する「関数」があれば、「物理エネルギー」から「色」を数値化できそうです。私たちが普段の生活で見る光というのはたくさんの波長の光の集まりですが、波長ごとにいったん分解して、波長ごとにR・G・Bを計算し、最後にぜんぶの波長を足し合わせれば、あらゆる色はR・G・Bで数値化できるというわけです。そこで、実験が必要になります。各波長の単色光(単一波長の光)が、赤・緑・青をどのような割合で加法混色した色と同じ色に見えるか、というのを調べる実験が行われました。
このような実験を等色実験(とうしょくじっけん、color matching experiment)と呼びます。2つの色光を同じにする、等色する実験です。被験者は二分視野(にぶしや、bipartite field)と呼ばれる2分割された隣接する領域で2つの色光を観察し、その色が一致するように装置を調整します。視野のひとつは、テスト刺激の視野です。調べるべき単色光を与えることになります。もう片方の視野は、赤・緑・青の混色で、被験者はこの3つの光の量を加減し、テスト刺激と同じ色に見えるように調整します。
参考:篠田・藤枝 『色彩工学入門: 定量的な色の理解と活用』(2007)
この等色実験は、等色式と呼ぶ数式で表されます。このように書きます。
色光[C] = R[R] + G[G] + B[B]
ここで [ ] は、色刺激であることを示す記号です。このような実験で被験者に与えるものを刺激と呼ぶのですが、色を感じさせる刺激ということで色刺激と呼びます。一方、[ ] の外のアルファベット R、G、B は、その色刺激の量を表す数字です。つまり具体例で例えると、こういう感じの式を書こうとしているわけです。
[ミックスジュース] = 5[リンゴジュース] + 2[ぶどうジュース] + 3[オレンジジュース]
ここで、[R]、[G]、[B] の色刺激は原刺激(げんしげき、primary stimulus)と呼びます。原色、みたいな意味です。原色と読み替えても支障ありません。そしてその原刺激 [R]、[G]、[B] の量を表すR、G、B は三刺激値(さんしげきち、tristimulus values)と呼ばれる数字になります。どんな数字になるかはケースバイケースなので、ここでは変数としてR、G、Bと書いているわけです。
こうなるともう数学の世界ですが、色を「ベクトル」という概念で捉えることができます。ベクトルというのは数学用語で、「向きと大きさを持ったもの」と言われます。まずは2次元のベクトルを確認しましょう。横軸をx、縦軸をyとする座標系で、原点 (0, 0) から横に3、縦に1進んだ座標を (3, 1) と表します。ベクトルは、このように複数の数字の組み合わせを持つ情報を扱うときに便利です。
ベクトルとベクトルは、足し合わせることができます。同じ要素どうしを足し合わせるだけです。(3, 1) と (1, 2) のベクトルの和は (4, 3) になります。
分かりやすさのために矢印を描くこともありますが、実際には矢印は不要で、点で考えることが可能です。x, y = (0, 0) の原点からの距離を表す数ということで考えることができます。
さて、色は3つの数字の組み合わせで表現できるため、3次元のベクトルと考えることができます。ある色は、R, G, Bという3つの軸を持つ座標系において、原点 (0, 0, 0) からの距離、ベクトルで描かれます。ベクトルの「方向」はR・G・Bのバランスなので、色相や彩度を決定します。それに対して、ベクトルの「長さ」は色の明るさという要素を担当します。「方向は同じで長さだけが違う2つのベクトル」は、「色相と彩度が同じで明るさだけが違う色」と考えられます。
参考:篠田・藤枝『色彩工学入門: 定量的な色の理解と活用』(2007)
そして、ベクトルとして考えると、加法混色も座標で表現できます。2つの色光を加法混色して新しいベクトルができます。単純な足し算で、色というものに数学的にアプローチできます。このように色は3次元のベクトル空間で表すことができ、色空間(color space)と呼ばれます。
参考:篠田・藤枝『色彩工学入門: 定量的な色の理解と活用』(2007)
※「色空間」は文脈によっていろんな使われ方がされる言葉ですが、「JIS Z 8105 色に関する用語」の中では「色の幾何学的表示に用いる,通常3次元の空間」と説明されています。
RGB表色系をつくるにあたり、CIEはウィリアム・デビッド・ライトとジョン・ギルドという2人の研究者の等色実験のデータを採用しました。1931年を少し遡って1920年代後半、ライトはイギリスのロンドン大学インペリアル・カレッジで、ギルドはイギリス国立物理研究所(NPL)で、2人は別々に同じような等色実験を行っていました。そのころライトはまだ23歳とかだったみたいです。
出典:大田『色彩工学 第2版』(2001)
【メモ】ライトとギルドの論文
Wright, W. D., A trichromatic colorimeter with spectral primaries. Trans. Opt. Soc. 29, 225-242 (1927-1928).
Wright, W.D., A re-determination of the trichromatic coefficients of the spectral colors. Trans. Opt. Soc. 30, 141-164 (1928-1929).
Wright, W.D., A re-determination of the mixture curves of the spectrum. Trans. Opt. Soc. 31, 201-218 (1929-1930).
Guild, J., The geometrical solution of colour mixture problems. Trans. Opt. Soc. 26, 139- 174 (1924).
Guild, J., A trichromatic colorimeter suitable for standardization work. Trans. Opt. Soc. 27, 106-129 (1925).
Guild, J., The colorimetric properties of the spectrum. Phil. Trans. Roy. Soc. A 230, 149- 187 (1931).
ライトは10人、ギルドは7人の被験者で実験しました。2人の実験は大きな意味ではよく似てましたが、細かいやり方は結構違ったようです。たとえばライトの混色は色光を重ねる同時加法混色でしたが、ギルドは継時加法混色といって高速で赤・緑・青の光を次々に目に送り込み、目の中で混色させるという方法でした。
出典:池田『色彩工学の基礎』(1980)
2人の実験でハッキリ異なるのは、原刺激と三刺激値です。等色式 [C] = R[R] + G[G] + B[B] を思い出しましょう。ここには2つの重要な問題があります。
まず原刺激 [R]、[G]、[B]とは具体的に何なのか?という問題があります。ライトは原刺激に単色光(=単一波長の光)を採用しました。[R] は650nmの光、[G] は530nmの光、[B] は460nmの光としました。一方、ギルドの原刺激は、白熱電球の光から色ガラスフィルターを通してつくった色刺激でした。ギルドの場合は単色光ではないので、[R] が何nmという言い方ができないのです(仮に鮮やかにしていったときに一致するスペクトル波長を主波長と呼び、主波長が630nm、542nm、460nmという言い方はできるようです)。このように原刺激 [R]、[G]、[B]は、研究者によって異なります。100人の研究者がいれば100通りの [R]、[G]、[B] があってもおかしくないのです。どれが正解というものではなく、研究者は自由に選択できます。
そして、もう一つ問題があります。 三刺激値 R・G・B の単位は何なのか?という問題です。三刺激値とは、原刺激 [R]、[G]、[B] の数量を表す数字です。普通に考えれば、輝度(ルーメンなどの測光量)という単位を使えば良さそうに思われます。[R]が何ルーメン、というふうに。もちろんそれも可能ですが、輝度ではR・G・Bの数字に極端な差が出てしまう問題があります。そこで、新しい単位をつくります。それが三刺激値と呼ばれる、色の強さを表す単位です。ここでもライトとギルドは違いました。ギルドは混色したときに白色光と等色する輝度を [R]、[G]、[B] の1に定めましたが、ライトはWDW法という手法で、[R] と [G] を加法混色して582.5nmの単色光と等色する輝度を [R] の1、[G] の1、そして[G] と[B] を加法混色して494nmの単色光と等色する輝度を [G] の1、[B] の1と定めました。さて、2人の実験データが下記になります。
出典:池田『色彩工学の基礎』(1980)
ここで、横軸は波長 λ [nm] です。縦軸は色度座標となっていて、r(λ)、g(λ)、b(λ) と書かれています。アールラムダ、ジーラムダ、ビーラムダと読みます。ここでも「関数」という考え方です。波長 λ を入れると、箱から r(λ)、g(λ)、b(λ) という3つの数が出てくるイメージです。
色度座標(しきどざひょう)とは何でしょうか?色度はR・G・Bの三刺激値の「割合」であり、色の三属性から明度を抜いた、色相と彩度を表すものです。割合(わりあい)って、どういうことでしょう。具体例で確認したいと思います。たとえば、リンゴが5、ミカンが3、バナナが8あります。総数は16。割合は総数で割れば良いので、リンゴ 5÷16=0.31、ミカン 3÷16=0.19、バナナ 8÷16=0.5。全体は 0.31 + 0.19 + 0.5 = 1 になります。全体を1として量を表すのが割合です。色度というのは、リンゴ・ミカン・バナナの代わりにR・G・Bで同じように計算するということです。たとえば「R, G, B = (1, 1, 1)」という色光と「R, G, B = (2, 2, 2)」という色光は、RGBの比率が同じなので、これらは「明るさが違うだけで同じ色」だと考えることができます。であれば総数で割って割合をはじき出し、どちらも同じ r=0.33、g=0.33、b=0.33と表現できます。足したら1になる、割合のr・g・b、これが色度です。ライトもギルドも、単色光と等色する色度 r、g、b を調べたのです。
色度を表すときは小文字で r、g、b と書きます。また、色度というのも3次元空間の座標と考えることができ、色度座標という言い方をするわけです。3次元の色空間で考えると、色度は「単位面」上の座標になります。単位面(unit plane)とは、R, G, B = (1, 0, 0) と (0, 1, 0) と (0, 0, 1) の三点を通る平面を言います。色度は割合なので r+g+b=1ですが、この条件に当てはまる色度座標は必ずこの単位面に来ます。よって、ある色の色度座標 r、g、b は、単位面と色ベクトルとの交点に位置します。また、2つの色の加法混色でできる新しい色は、2つの色度座標を結ぶ直線上に来ます。この特徴は「色度図」にも受け継がれることになります。
参考:篠田・藤枝『色彩工学入門: 定量的な色の理解と活用』(2007)
研究者によって原刺激や三刺激値の単位が違うと、実験データをそのまま比較したり平均したりできません。土台が違うので、数字の意味がぜんぜん違ってくるのです。同じ土台に揃える必要があります。そして、計算によって揃えることができます。どの研究者の原刺激も単色光あるいは単色光の加法混色と考えられますが、その単色光というのもその研究者の実験データの中で数式で記述されるわけですから、代入して計算していけば数値を変換し、他の原刺激にデータを揃えることができます。
CIEは計算によって2人の実験データを同じ条件に揃え、非常によく似ていることを確認し、どちらも信頼できるデータだと判断しました。そして、2人のデータを足して2で割り、平均しました。CIEは1931年、RGB表色系を以下のように定義し発表しました。
1. 原刺激 [R] [G] [B] は R=700nm、G= 546.1nm、B= 435.8nm の単色光とする。
2. 基礎刺激は等エネルギー白色とし、このとき原刺激 [R] [G] [B] の明度係数は測光量の単位で1:4.5907:0.0601 の比率で混色すると等色する。
この意味するところを順番に見ていきたいと思います。1つめ、原刺激の定義です。ライトとギルドの原刺激は違うものでした。研究者が100人いれば100通りの原刺激があり得ます。そこでCIEは国際的な基準として、原刺激を700nm、546.1nm、435.8nmと決定しました。546.1nm、435.8nmは水銀の輝線スペクトルです。水銀灯から分光して取り出しやすく、明るい光で、当時としては入手しやすい光として選ばれました。これはギルドによる提案でした。
2つめは何を言っているのか。基礎刺激と呼ぶ土台を用意して、それによって三刺激値の単位を定義しているのです。[R]が1、[G]が1、[B]が1というふうに数字で量を表すわけですが、その「1」って何なのか、という話です。CIEはその単位を測光量で 1:4.5907:0.0601 というふうに、輝度の比率という数字の関係性によって定めました。なぜ測光量、輝度ではだめなのか?輝度でも可能ですが、色の強さのバランスが悪いのです。人にとって「青」は極めて暗くても色感覚は非常に強い色です。もし赤・緑・青を同じ輝度で混色すると、かなり青が強い色になります。しかし、「赤・緑・青を同じ量にすると白になる」というふうに1単位を揃えると、数字から色を想像しやすくなるとか、色空間や色度図で真ん中に白が来るということで、いろいろ都合が良いのです。CIEは、加法混色したら「すべての波長で等しいエネルギーを持つ白色光」と等色する [R]、[G]、[B] の輝度を「1」と定めました。これについてはライトなどの意見だったそうです。
それにしても [R]、[G]、[B] が 1 : 4.5907 : 0.0601 というのは、すごい比率です。割り勘で例えると、赤城さんが1万円出すとき、緑山さんは4.6万円出し、青木さんは600円しか出さないわけです。赤の4.6倍が緑。赤の0.06倍が青。この数字だけを見ると、とても釣り合いそうにないですが、加法混色すると等エネルギー白色と等色するということは、ちゃんと色の強さとしては釣り合っているわけです。原刺激 [R] の輝度を1としたときに、[G] はその4.5倍、[B] は0.06倍という輝度です。明るさはバラバラですが、色の強さは同じです。白になるのですから。Bは0.06という、非常に暗い光です。「そんな暗いんだったら、もう、いっそ無くてもいいんじゃないの?」って思うかもしれませんが、そういうわけにはいきません。この0.06の [B] の光がなければ、原刺激 [R] と [G] だけでは「白」という色は永遠に作れないのです。
CIEのRGB表色系における三刺激値は以下の計算式で表すことになります。
三刺激値 R = 原刺激 [R] の輝度 ÷ 1
三刺激値 G = 原刺激 [G] の輝度 ÷ 4.5907
三刺激値 B = 原刺激 [B] の輝度 ÷ 0.0601
三刺激値という数値は、計測された光の明るさである輝度ではありません。輝度を明度係数で割り算したことで出てくる、まったく新しい数字です。色の強さを表すために生み出された、新しい数量の単位です。原刺激 [R]、[G]、[B] をたとえば1ずつ、あるいは0.5ずつ、同じ数で混色すると白色になる、そういうふうに「仕組まれた」色専用の単位と言えます。
もちろん原刺激 [R] [G] [B] がそもそも何なのかによって明度係数は異なる数字になります。そこでCIEはまず原刺激を700nm、546.1nm、435.8nmと定め、これらの測光量が 1 : 4.5907 : 0.0601の比率で釣り合う、ということをセットで言って、三刺激値の単位を決めたのです。この明度係数 1 : 4.5907 : 0.0601 という数字も、実験結果にもとづいて決められたそうです。
CIEが原刺激 [R]、[G]、[B] と三刺激値 R、G、B の単位を決定したことで、ライトとギルドの色度座標は計算によって変換され、統合され、1つの表ができました。
参考:池田『色彩工学の基礎』(1980)
約380nm~780nmという可視光の範囲で、色度座標が書かれています。色度なので、どの波長でも必ず r(λ) + g(λ) + b(λ) = 1 です。また、これも一種の「関数」と考えられ、波長 λ を箱に入れると、 r(λ)、g(λ)、b(λ)が出てくるとイメージできます。
ここで、この数表に負(マイナス)の数があることに触れたいと思います。さっき触れませんでしたが、実はライトとギルドのグラフでも負がありました。なぜ負が出てくるのでしょうか。「光の三原色」の加法混色でさまざまな色をつくれるのは常識ですが、すべての色はつくれません。加法混色ではつくれない色、それはスペクトルの色です。スペクトル色は人にとって最も鮮やかな色、それはもうビックリするほどメチャクチャ鮮やかで美しい色で、基本的に混色ではこの鮮やかさは出せません。
原刺激 [R] [G] [B] の混色では、単色光と等色しないのです。そこで、数学の魔法が登場します。たとえばテスト刺激が500nmの単色光だった場合を考えましょう。これと等色するために、[G] と [B] を加法混色させますが、鮮やかさが足らず等色しません。
[G] と [B] では同じにならないからと言って、そこに [R] を足しても逆効果です。[R] を足しても白っぽくなり彩度が下がるばかりで、むしろ望む鮮やかな色から遠ざかっていきます。そこで、逆転の発想です。テスト刺激の方に [R] を足してしまうのです。鮮やかだったスペクトル色は少し白っぽくなって彩度が下がり、2つの色光は等色できるようになります。
このとき等色式は
色光[C] + R[R] = G[G] + B[B]
と書くことになります。左辺を 色光[C] にしたいので、両辺から R[R] を引けば、こうなります。
色光[C] = -R[R] + G[G] + B[B]
なんと、負の数を許容することで、鮮やかすぎる単色光も三刺激値で表現できるようになるのです。このような表現が可能であることは、グラスマンの第三法則で説明されます。もっとも、この瞬間、もはや数学だけの世界です。「マイナスの量の赤」など現実には存在せず、このような実験は不可能です。しかし、数式の上ではこうやって、単色光を三刺激値で表すことができるのです。さきほどの数表を見ると、このような「負」がたくさん出てくることが良く分かります。380nm~435.8nmあたりでは g が負、435.8nm~546.1nmあたりでは r が負、546.1nm~670nmあたりは b が負になっています。スペクトル色は人にとって最も鮮やかな色ですから、そのほとんどは混色では作れず、ほとんどの波長で負が必要なのです(ちなみに原刺激の波長では負が出てきません、原刺激だけで等色するためです)。
ここで、先ほどの単色光の色度座標の数表を、3次元空間で表示します。色度座標は単位面上(r+g+b=1)に位置します。特にR軸において大きく負の領域に突き出しています。また数字が小さすぎるため図では分かりませんが、数表で確認できたように短波長ではG軸で負、長波長ではB軸で負になっています。基礎刺激である等エネルギー白色は、R軸・G軸・B軸から等しい距離のベクトルになります。
参考:池田『色彩工学の基礎』(1980)
ところで、色度は r+g+b=1 なので、r と g だけあれば十分です。b=1-r-g で求められるため、b は省略可能です。そうなると3次元は2次元になります。Bの軸をぺしゃんこにして、平面図で描けます。横軸が r、縦軸が g の「rg色度図」になります。3次元空間は描くのも見るのも大変なので、よく2次元にした色度図が使われます。色度座標を色度図に置いた点を色度点と呼び、単色光色度座標(スペクトル色度座標)の色度点が以下ように置かれます。等エネルギー白色は r, g = 0.33, 0.33 の色度座標になります。
参考:池田『色彩工学の基礎』(1980), 篠田・藤枝『色彩工学入門: 定量的な色の理解と活用』(2007)ほか
単色光の色度点を波長順に結んでいくと曲線ができます。この曲線をスペクトル軌跡(spectral locus)または単色光軌跡と呼びます。
参考:池田『色彩工学の基礎』(1980), 篠田・藤枝『色彩工学入門: 定量的な色の理解と活用』(2007)ほか
また、短波長の端と長波長の端を結ぶ直線は、純紫軌跡(じゅんむらさききせき, purple boundary)や赤紫線(あかむらさきせん, line of purples)と呼ばれます。赤紫という色はスペクトルには存在せず、赤と青(青紫)の混色によってできる色で、純紫軌跡にあります。そして、人の見るすべての色は単色光の加法混色ですから、「すべての色」はスペクトル軌跡と純紫軌跡に囲まれた領域になります。
さて、色度は「色の明るさ」という情報を持っていないので、特定の色を表現するには不十分です。色相・彩度・明度という色の三属性が揃ってようやく色が確定します。明るさという情報は不可欠です。明るさを与える計算を行い、等色関数(color matching function)を得たいと思います。等色関数は、r(λ)、g(λ)、b(λ)と書き、アールバーラムダ、ジーバーラムダ、ビーバーラムダと読みます。等色関数によって、測定される分光エネルギー分布から三刺激値を求められるようになります。
ここで標準分光視感効率 V(λ) の出番となります。これは「波長 λ の光が1ワットのエネルギーだったとき、人に見えるのはこの明るさ」という関数でした。そして今つくろうとしている等色関数も似たようなものです。等しいエネルギーの各波長の光をR・G・Bに変換するのです。三刺激値は輝度を明度係数 1 : 4.5907 : 0.0601 で割ってつくりました。ということは、明度係数をかけ算すれば、輝度に戻るわけで、それが標準分光視感効率 V(λ) と一致するようにすれば良いわけです。つまり、まず、
V(λ) = r(λ) + 4.5907 g(λ) + 0.0601 b(λ)
という関係が書けます。そこから
色度座標は等色関数のr(λ)、g(λ)、b(λ) それぞれを全体で割ったものだという関係から
V(λ) / ( r(λ) + 4.5907 g(λ) + 0.0601 b(λ) ) = r(λ) / (r(λ) + 4.5907 g(λ) + 0.0601 b(λ) ) + 4.5907 g(λ) / ( r(λ) + 4.5907 g(λ) + 0.0601 b(λ) ) + 0.0601 b(λ) / ( r(λ) + 4.5907 g(λ) + 0.0601 b(λ) )
となるわけで、つまり
V(λ) / ( r(λ) + 4.5907 g(λ) + 0.0601 b(λ) ) = r(λ) + 4.5907 g(λ) + 0.0601 b(λ)
を得ます。ここで試しに
m(λ) = r(λ) + g(λ) + b(λ)
と置けば m(λ) は
m(λ) = V(λ) / ( r(λ) + 4.5907 g(λ) + 0.0601 b(λ) )
となります。ここでまた「等色関数の総和で割ったのが色度になる」という関係から
r(λ) = r(λ) / ( r(λ) + g(λ) + b(λ) ) = r(λ) / m(λ)
g(λ) = g(λ) / ( r(λ) + g(λ) + b(λ) ) = g(λ) / m(λ)
b(λ) = b(λ) / ( r(λ) + g(λ) + b(λ) ) = b(λ) / m(λ)
となるわけで、つまり
r(λ) = m(λ) r(λ)
g(λ) = m(λ) g(λ)
b(λ) = m(λ) b(λ)
なんやかんや計算した結果、結論としては等色関数 r(λ)、g(λ)、b(λ) は以下の計算式でr(λ)、g(λ)、b(λ) から変換できることが分かります。
r(λ) = ( V(λ) / ( r(λ) + 4.5907 g(λ) + 0.0601 b(λ) ) ) ×r (λ)
g(λ) = ( V(λ) / ( r(λ) + 4.5907 g(λ) + 0.0601 b(λ) ) ) × g(λ)
b(λ) = ( V(λ) / ( r(λ) + 4.5907 g(λ) + 0.0601 b(λ) ) ) × b(λ)
すべての波長で r(λ)、g(λ)、b(λ) を算出し、以下の表が完成します。
参考:池田『色彩工学の基礎』(1980)
この等色関数 r(λ)、g(λ)、b(λ) の数表をビジュアル化します。横軸を波長 λ [nm]、縦軸をr(λ)、g(λ)、b(λ)にしてグラフにすれば、曲線グラフが描かれます。
出典:池田『色彩工学の基礎』(1980)
数表をグラフという見やすい形にしただけで、意味は同じです。縦軸は「三刺激値」という新しい色の単位です。輝度ではありません。輝度を、明度係数で割ったもの、それを三刺激値と呼ぶ単位にしたのでした。だから、もし輝度で見てみたいというのなら、明度係数を掛けてやれば良いわけです。r(λ) の山はそのままに、g(λ) の山の高さを4.6倍にし、b(λ) の山の高さを0.06倍にすると、3つの山は1つに融合し、標準分光視感効率 V(λ) になります。
思い出してみれば当然です。等色関数をつくるときに、この1行から計算を始めました。
V(λ) = r(λ) + 4.5907 g(λ) + 0.0601 b(λ)
こうしてみと、等色関数 r(λ)、g(λ)、b(λ) には V(λ) の遺伝子がガッチリ組み込まれているのが分かります。V(λ) は祖先のようでもあるし、分身のようでもあります。どの波長の光も同じエネルギーだったときに、555nmでは明るく見えますが、赤外線や紫外線の方の波長に行くほど暗く見え、最終的には見えない光、ゼロになってしまうという話をしました。その V(λ) の特徴は、等色関数にしっかり受け継がれています。どの波長も等しいエネルギーの光を表したものである、という点で、V(λ) と等色関数は共通です。
なお、三刺激値の1単位は等エネルギー白色光と等色するときと定めたことにより、r(λ)、g(λ)、b(λ) の3つの曲線グラフの山の面積は等しくなっています。数表で確認すると、r(λ)、g(λ)、b(λ) それぞれすべての波長を足し算した結果が同じになります。「積分が同じになっている」という言い方ができます。
等色関数を色空間で3次元表示することも可能です。下の図では矢印で等色関数の3次元ベクトル表示をしています。見やすいように大きさを2倍にしてあります。等色関数というのは、等エネルギースペクトルを意味します。このベクトルを伸ばしていったときの単位面との交点が、その色度座標になります。
参考:池田『色彩工学の基礎』(1980)
結局のところ、等色関数とは何かというと、ある光の物理エネルギーを測定したときに、人間の感じる色、明るさも含む色を表す3つの数字に変換するための道具なのです。入力と出力の数の変換装置、「関数」です。波長 λ を入力したら、R・G・Bの数字が出てきます。等色関数は、標準分光視感効率 V(λ) を混ぜ込みながら巧妙な計算によって生みだされました。そして等色関数が出来たことで、物理測色への道が開きます。しかし、ひとつ問題がありました。
後編へつづく
※参考文献・引用文献は後編の末尾に記載。
専門的な内容を含みますが、なにぶん素人がまとめたものですのでいろいろ間違いもあろうかと思われます。ご容赦ください。
色彩やカラーマネジメントの勉強をすると、xy色度図(エックスワイしきどず)という図が出てきます。これは「色の地図」と紹介されますが、なんとも変な図です。横軸がx、縦軸がyとなっており、xとyという2つの数字で、色を表します。
出典:Wikipedia https://en.wikipedia.org/wiki/CIE_1931_color_space
色の付いた馬の蹄(ひづめ)のような形のエリアが「人に見える色」を表すと言うのですが、なぜそんな形なんでしょう。この図はXYZ表色系という仕組みが土台にあるのですが、なぜX、Y、Zという意味不明なアルファベットを使うのか、実に奇妙です。
XYZ表色系は、国際照明委員会(CIE)という照明や色についての国際的なルールを決める組織が1931年に制定した表色系です(CIEには日本も1927年から参加しており、現在も主要メンバーです)。XYZ表色系は、1952年には日本工業規格「JIS Z 8701 色の表示方法」として規格化されました。現在、JISには色に関する規格が多くありますが、これが最初の色に関するJIS規格でした。それで、約100年も前につくられたXYZ表色系が、なんと今も現役バリバリで使われています。現代のコンピューター、カメラ、テレビ、ディスプレイモニターで色を扱うとき、いちばん土台の部分にはいつもXYZ表色系があります。これは凄いことです。
1931年、CIEはRGB表色系とXYZ表色系を同時に制定しました。この2つは実質的に同じ、双子みたいなものと言えます。RGB表色系は実験的基盤であり、XYZ表色系はそこから実用的になるように派生されたものです。まずRGB表色系が、2人のイギリス人研究者の実験と、標準分光視感効率 V(λ) というデータによってつくられました。順を追って説明したいと思います。
1. 標準分光視感効率
CIEが1924年に制定した、標準分光視感効率 V(λ) というものを紹介したいと思います。ひょうじゅんぶんこうしかんこうりつと読みます。標準比視感度(ひょうじゅんひしかんど)という別名(旧名称)で呼ばれることもあります。V(λ) はブイラムダと読みます。これはある意味RGB表色系・XYZ表色系の「先祖」のようなもので、これを語らずにRGB表色系・XYZ表色系は語れないように思います。
標準分光視感効率 V(λ) は、人の感じる光の明るさを数字で表すための「関数」です。関数という聞きなれない言葉が出てきたので、説明しておきたいと思います。関数(かんすう)というのは数学用語で、Function(ファンクション)の訳語となります。関数は、数を入れると、別の数になって出てくる箱です。「数の変換装置」です。
関数は「入力と出力の数の関係」を表すもので、具体的には何らかの数式や数表になります。ちなみに、数学の世界ではよく入力を x(エックス)と書きます。この x は変数(へんすう)と言って、何にでもなれる数字、いろんな数字になれるやつという意味で書く記号です。一方、出力結果は f(x) と書きます。エフエックスと読みます。「x を function という箱に入れた」感じです。f は Function の頭文字です。
光や色の話でも、この関数というやつがちょくちょく出てきます。ただ、f(x) ではなく、ちょっとアレンジされています。まず、入力には x ではなく λ(ラムダ)が使われます。これは波長を表す量記号で、変数として使われます。λ は、"Length"のLにあたるギリシャ文字で、長さ関係のときに使われます。そして、出力結果は f(λ)ではなく、標準分光視感効率の場合は V(λ) と書きます。Vは"Vision", "Visual"のVと思われます(明確な説明は見つけられませんでした)。波長 λ を箱に入れたら、箱から V(λ) という別の数が出てくるイメージです。
標準分光視感効率とは何か?光は電磁波の一種です。約380~780nm(ナノメートル)の範囲の波長の電磁波が可視光である、とよく説明されます。なお、1ナノメートルは1ミリメートルの100万分の1です。
17世紀のニュートンが実験をしたことが有名なのですが、太陽光のようにさまざまな波長を含む白色光はプリズム(三角柱のガラス)を通すことで波長ごとに分かれます。光を波長ごとに分けることを分光(ぶんこう)と言います。分光すると、虹の色が現れます。この色の帯(配列)をスペクトル(spectrum)と呼びます。
スペクトルを見ると、波長の違う光は異なる色に見えることが分かります。短波長は青紫ではじまり、青、水色、緑、黄緑、黄、オレンジと変化していき、最後に長波長では赤になって終わります。スペクトルに見られるような単一波長の光を単色光(monochromatic light)と呼びます。太陽光の白色光というのは、この単色光の集まりなのです。
赤外線はものを温め、紫外線は日焼けをさせることからも、物理エネルギーを持っていることが分かります。しかし、これらは人には見えない波長の電磁波です。いくら大きいエネルギーがあろうと、人にとっては明るさはゼロ、黒、暗闇です。つまり「同じ1ワットというエネルギー」を持つ電磁波でも波長によって人の感じる明るさは違ってくると考えられます。そこで、1ワットのエネルギーを持つ400nmの光はこれくらいの明るさに見える、1ワットのエネルギーを持つ500nmの光はこれくらいの明るさに見える、という度合いを数字で調べておけば、その波長の物理エネルギーを、人の感じる明るさの数字に変換できると考えられます。
また、光の加法混色において、輝度 a の色光と輝度 b の色光の加法混色によって得られる色光の輝度は a + b になる、という数学的な足し算ができると言われます。これはアブニーの法則またはグラスマンの第四法則と呼ばれます。私たちが普段の生活で見る光というのは「たくさんの波長の光の集まり」ですが、波長ごとにいったん分解して、物理エネルギーから波長ごとに輝度を計算してから、最後にぜんぶの波長を足し算すれば、それがその光の輝度ということになります。
さて、以下の数表が、標準分光視感効率 V(λ) です。この表は10nmごと、有効桁数5桁のものですが、もっと細かい数字の表が日本産業規格「JIS Z 8785 測光-CIE物理測光システム」にあります。
参考:池田『色彩工学の基礎』(1980)
この数表をビジュアル化してみます。横軸に波長 λ をとり、縦軸が V(λ) というグラフにします。555nmで最大値「1」をピークに持ち、左右に行くほど下がっていく山形の曲線になります。グラフという見やすい形にしただけで、意味するものは表と同じです。
V(λ) は「波長の関数」です。400を箱に入れたら0.0004という数が出てきて、500を箱に入れたら0.3230が出てくる。「数の変換装置」です。標準分光視感効率 V(λ) は、人の目の最も感度の高いとされる 555nm の波長で「1」という最大値になるように正規化されており、それに対する比率(度合い)となっています。比率なので、この数字自体には単位というものはありません。
これがどうやって出来たかですが、多くの被験者を使った実験データから作られました。人の目の波長ごとの感度、分光感度を調べるために、2つの光を比較するという方法でやりました。基本的な考えはこうです。まず「基準になる光」というのを1つ決めておいて、その横には比較するための単色光(=単一波長の光)をおいて、基準光と同じ明るさに見えるようにエネルギー強度を調整します。たとえば人にとって感じにくい、感度の低い波長の単色光のときは、エネルギー強度をかなり大きくしなければならないということになります。感度は、その逆数で計算できます。今言ったのは直接比較法(direct comparison method)と呼ばれる手法なのですが、これでは違う色どうしで明るさだけを比較して見なければいけないということでなかなか難しく、安定した実験結果を得られなかったそうです。そこで実際には、高速で2つの色を交互に映し出すことによって色を混ぜてしまい、明るさのチラツキが最もなくなるときを同じ明るさと判定する交照法(flicker method)と呼ばれる手法や、基準光を1つに固定するのではなく徐々に変えていき、似た色に見える、近い波長どうしで比較する段階比較法(step-by-step method)という手法を使った実験データが採用されました。
出典:https://www.optica.org/history/biographies/bios/kasson-s--gibson/
CIEが1924年に定めた標準分光視感効率 V(λ) というのは、直接的にはアメリカのカッソン・S・ギブソンとエドワード・ティンダルによる「放射エネルギーの可視性」という1923年の論文が元になっています。ギブソンとティンダルは自分たちでも実験を行いましたが、他の研究者の実験データも比較、分析して取り入れました。ハーバート・ユージーン・アイヴス(1912年)、パーリー・G・ナッティング(1914年)、 コブレンツとエマーソン(1918年)、ハイドとフォーサイスとキャディ(1918年)、プレンティス・リーブス(1918年)、ソウ・マサミチ(1920年)の研究が参考にされました。標準分光視感効率 V(λ) は、全部で250人以上の被験者の実験データが元になっていると考えられ、そこには日本人のデータも含まれているのです。
【メモ】各研究者による論文
・Ives, H. E. (1912). Studies in the photometry of lights of different colours I Spectral luminosity curves obtained by the equality of brightness photometer and flicker photometer under similar conditions. Philosophical Magazine Series 6, 24, 149–188.
・Nutting, P. G. (1914). The visibility of radiation. Transactions of the Illumination Engineering Society, 9, 633–642.
・Coblentz, W. W. Emerson, W. B. (1918). Relative sensibility of the average eye to light of different color and some practical applications. U.S. Bureau of Standards Bulletin, 14, 167.
・Hyde, E. P. Forsythe, W. E. Cady, F. E. (1918). The visibility of radiation. Astrophysics Journal, 48, 65–83.
・Reeves, P. (1918). The Visibility of radiation. Transactions of the Illuminating Engineering Society, 13 (1), 101–109.
・So, M. (1920). On the Visibility of radiation. Proceedings of the Physical and Mathematical Society of Japan Series3, 2, 177–184.
・Gibson, K. S. Tyndall, E. P. T. (1923). Visibility of radiant energy. Scientific Papers of the Bureau of Standards, 19, 131–191.
さて、V(λ) は「波長の関数」ですが、どの波長でも「等しい物理エネルギー」の光を入力するという意味です。400nmの「1ワットのエネルギー」の光、500nmの「1ワットのエネルギー」の光、といった意味合いです。短波長や長波長の端では V(λ) は 0 になります。紫外線や赤外線は「1ワットのエネルギー」を持っていても、0をかけたら0 になる、人には見えない、暗闇ということです。
この V(λ) という関数があれば、光の物理エネルギーを機械で測定して、計算によって人の感じる明るさを数値化できるようになります。まず、光を単色光の集まりであるという考え方をします。分光分布や分光組成といった言葉が使われますが、各波長ごとに個別のエネルギーを持っているということです。
出典:大田『色彩工学 第2版』(2001)
光の量を表す言葉にはいろいろあるのですが、そのひとつである放射束は光のエネルギーを表す量です。これを波長ごとに分けて考え、各単色光ごとの放射束を分光放射束 Φe(λ) W/nm とすると、これを人の感覚を加味した光束 ΦVに変換する公式は以下になります。
出典:篠田・藤枝『色彩工学入門: 定量的な色の理解と活用』(2007)
数式を分解して見ていきたいと思います。Φはファイと読み、物理学では「磁束」などでも使われ「束」のときに使われるようです。ここでは添え字eを"Energy"の意味で付けて放射束、Vを"Vision"の意味で付けて光束を表現する量記号となっています。
細長い「S」みたいなやつ、∫はインテグラルと読む記号で、積分記号です。積分(せきぶん)とは、分けて計算したものを積んで足し合わせるということです。ここでは380~780nmの範囲でやりなさいと書いてあります。最後の dλ(ディーラムダ)は d×λ(ディーかけるラムダ)という意味ではなく dλ でひとつのキーワードです。d は difference 、つまり細かく波長ごとに分けなさいという意味です。∫ と dλ はセットでひとつの意味を成しており、細かく分けて計算して積みなさい、という命令になっているわけですが、では具体的に何をやるのか、というのが ∫ と dλ の間にある Φe(λ) V(λ) です。ある波長 λ における物理エネルギー Φe(λ) と、その波長での V(λ) をかけ算します。最後に波長ごとの計算結果を足し合わせて、人の感覚が加味された光の量へと変換されます。
それから Km というのが出てきてますが、Km = 683 lm/W です。これを最後にかけることで、ルーメンという単位になります。1ワットというエネルギーにつき683ルーメンです。逆に言えば、1/683ワットが1ルーメンと考えることもできます。ワットは、人の感覚はぜんぜん関係のない、エネルギーの量の単位です。一方、ルーメンはカンデラから派生する明るさの量です。カンデラは「キャンドル」と語源が同じで、ろうそくの光から定められた歴史をもつ明るさの単位です。つまり、「683 lm/W」というのは妙にキリの悪い数字ですが、それまで別々の歴史で発展してきていた「物理エネルギー」と「人にとっての明るさ」が、後からこうして数式で繋がった関係で、結果的にたまたま683という数字になったのです。
CIEは、世界中のどの国でも、この V(λ) を使って同じように光の明るさを計算しましょう、と言ったわけです。それが「標準」という意味です。1924年、これは画期的な発明でした。標準分光視感効率は、放射量という(純)物理量を、人の感覚が加味された測光量に変換します。測光量は心理物理量と呼ばれます。測光器という光を測る器械には、V(λ) になるべく似せた仕組みが入っています。
出典:大田『色彩工学 第2版』(2001)
なお、実際には視覚には個人差があるので、V(λ) はあくまで平均的な「架空の人物」のデータであって、個人差を割り切った代表的なものである、という意味合いで、CIE測光標準観測者(CIE standard photometric observer)の分光感度である、という言われ方がされます。分光感度は、実際には一人一人違います。
2. 等色実験の考え方
1924年の標準分光視感効率 V(λ) に続いて、CIEは1931年にRGB表色系・XYZ表色系を制定することになります。測光(photometry)の仕組みができたので、次は測色(colorimetry)の仕組みをつくろうというわけです。この時代、1920年代にはドイツのシュレーディンガー、アメリカのジャッドなどの研究者が論文をいろいろ出していて、光を計測して色を数字で表す方法を確立しようじゃないか、という機運が高まっていたようです。
赤・緑・青という光の三原色による加法混色で、ほぼすべての色をつくることができることは19世紀のヤング、ヘルムホルツ、マクスウェルらの研究で知られていました。波長ごとに単色光を赤・緑・青の数量を表す3つの数に変換する「関数」があれば、「物理エネルギー」から「色」を数値化できそうです。私たちが普段の生活で見る光というのはたくさんの波長の光の集まりですが、波長ごとにいったん分解して、波長ごとにR・G・Bを計算し、最後にぜんぶの波長を足し合わせれば、あらゆる色はR・G・Bで数値化できるというわけです。そこで、実験が必要になります。各波長の単色光(単一波長の光)が、赤・緑・青をどのような割合で加法混色した色と同じ色に見えるか、というのを調べる実験が行われました。
このような実験を等色実験(とうしょくじっけん、color matching experiment)と呼びます。2つの色光を同じにする、等色する実験です。被験者は二分視野(にぶしや、bipartite field)と呼ばれる2分割された隣接する領域で2つの色光を観察し、その色が一致するように装置を調整します。視野のひとつは、テスト刺激の視野です。調べるべき単色光を与えることになります。もう片方の視野は、赤・緑・青の混色で、被験者はこの3つの光の量を加減し、テスト刺激と同じ色に見えるように調整します。
参考:篠田・藤枝 『色彩工学入門: 定量的な色の理解と活用』(2007)
この等色実験は、等色式と呼ぶ数式で表されます。このように書きます。
色光[C] = R[R] + G[G] + B[B]
ここで [ ] は、色刺激であることを示す記号です。このような実験で被験者に与えるものを刺激と呼ぶのですが、色を感じさせる刺激ということで色刺激と呼びます。一方、[ ] の外のアルファベット R、G、B は、その色刺激の量を表す数字です。つまり具体例で例えると、こういう感じの式を書こうとしているわけです。
[ミックスジュース] = 5[リンゴジュース] + 2[ぶどうジュース] + 3[オレンジジュース]
ここで、[R]、[G]、[B] の色刺激は原刺激(げんしげき、primary stimulus)と呼びます。原色、みたいな意味です。原色と読み替えても支障ありません。そしてその原刺激 [R]、[G]、[B] の量を表すR、G、B は三刺激値(さんしげきち、tristimulus values)と呼ばれる数字になります。どんな数字になるかはケースバイケースなので、ここでは変数としてR、G、Bと書いているわけです。
3. 色ベクトルという考え方
こうなるともう数学の世界ですが、色を「ベクトル」という概念で捉えることができます。ベクトルというのは数学用語で、「向きと大きさを持ったもの」と言われます。まずは2次元のベクトルを確認しましょう。横軸をx、縦軸をyとする座標系で、原点 (0, 0) から横に3、縦に1進んだ座標を (3, 1) と表します。ベクトルは、このように複数の数字の組み合わせを持つ情報を扱うときに便利です。
ベクトルとベクトルは、足し合わせることができます。同じ要素どうしを足し合わせるだけです。(3, 1) と (1, 2) のベクトルの和は (4, 3) になります。
分かりやすさのために矢印を描くこともありますが、実際には矢印は不要で、点で考えることが可能です。x, y = (0, 0) の原点からの距離を表す数ということで考えることができます。
さて、色は3つの数字の組み合わせで表現できるため、3次元のベクトルと考えることができます。ある色は、R, G, Bという3つの軸を持つ座標系において、原点 (0, 0, 0) からの距離、ベクトルで描かれます。ベクトルの「方向」はR・G・Bのバランスなので、色相や彩度を決定します。それに対して、ベクトルの「長さ」は色の明るさという要素を担当します。「方向は同じで長さだけが違う2つのベクトル」は、「色相と彩度が同じで明るさだけが違う色」と考えられます。
参考:篠田・藤枝『色彩工学入門: 定量的な色の理解と活用』(2007)
そして、ベクトルとして考えると、加法混色も座標で表現できます。2つの色光を加法混色して新しいベクトルができます。単純な足し算で、色というものに数学的にアプローチできます。このように色は3次元のベクトル空間で表すことができ、色空間(color space)と呼ばれます。
参考:篠田・藤枝『色彩工学入門: 定量的な色の理解と活用』(2007)
※「色空間」は文脈によっていろんな使われ方がされる言葉ですが、「JIS Z 8105 色に関する用語」の中では「色の幾何学的表示に用いる,通常3次元の空間」と説明されています。
4. ライトとギルドの等色実験
RGB表色系をつくるにあたり、CIEはウィリアム・デビッド・ライトとジョン・ギルドという2人の研究者の等色実験のデータを採用しました。1931年を少し遡って1920年代後半、ライトはイギリスのロンドン大学インペリアル・カレッジで、ギルドはイギリス国立物理研究所(NPL)で、2人は別々に同じような等色実験を行っていました。そのころライトはまだ23歳とかだったみたいです。
出典:大田『色彩工学 第2版』(2001)
【メモ】ライトとギルドの論文
Wright, W. D., A trichromatic colorimeter with spectral primaries. Trans. Opt. Soc. 29, 225-242 (1927-1928).
Wright, W.D., A re-determination of the trichromatic coefficients of the spectral colors. Trans. Opt. Soc. 30, 141-164 (1928-1929).
Wright, W.D., A re-determination of the mixture curves of the spectrum. Trans. Opt. Soc. 31, 201-218 (1929-1930).
Guild, J., The geometrical solution of colour mixture problems. Trans. Opt. Soc. 26, 139- 174 (1924).
Guild, J., A trichromatic colorimeter suitable for standardization work. Trans. Opt. Soc. 27, 106-129 (1925).
Guild, J., The colorimetric properties of the spectrum. Phil. Trans. Roy. Soc. A 230, 149- 187 (1931).
ライトは10人、ギルドは7人の被験者で実験しました。2人の実験は大きな意味ではよく似てましたが、細かいやり方は結構違ったようです。たとえばライトの混色は色光を重ねる同時加法混色でしたが、ギルドは継時加法混色といって高速で赤・緑・青の光を次々に目に送り込み、目の中で混色させるという方法でした。
出典:池田『色彩工学の基礎』(1980)
2人の実験でハッキリ異なるのは、原刺激と三刺激値です。等色式 [C] = R[R] + G[G] + B[B] を思い出しましょう。ここには2つの重要な問題があります。
まず原刺激 [R]、[G]、[B]とは具体的に何なのか?という問題があります。ライトは原刺激に単色光(=単一波長の光)を採用しました。[R] は650nmの光、[G] は530nmの光、[B] は460nmの光としました。一方、ギルドの原刺激は、白熱電球の光から色ガラスフィルターを通してつくった色刺激でした。ギルドの場合は単色光ではないので、[R] が何nmという言い方ができないのです(仮に鮮やかにしていったときに一致するスペクトル波長を主波長と呼び、主波長が630nm、542nm、460nmという言い方はできるようです)。このように原刺激 [R]、[G]、[B]は、研究者によって異なります。100人の研究者がいれば100通りの [R]、[G]、[B] があってもおかしくないのです。どれが正解というものではなく、研究者は自由に選択できます。
そして、もう一つ問題があります。 三刺激値 R・G・B の単位は何なのか?という問題です。三刺激値とは、原刺激 [R]、[G]、[B] の数量を表す数字です。普通に考えれば、輝度(ルーメンなどの測光量)という単位を使えば良さそうに思われます。[R]が何ルーメン、というふうに。もちろんそれも可能ですが、輝度ではR・G・Bの数字に極端な差が出てしまう問題があります。そこで、新しい単位をつくります。それが三刺激値と呼ばれる、色の強さを表す単位です。ここでもライトとギルドは違いました。ギルドは混色したときに白色光と等色する輝度を [R]、[G]、[B] の1に定めましたが、ライトはWDW法という手法で、[R] と [G] を加法混色して582.5nmの単色光と等色する輝度を [R] の1、[G] の1、そして[G] と[B] を加法混色して494nmの単色光と等色する輝度を [G] の1、[B] の1と定めました。さて、2人の実験データが下記になります。
出典:池田『色彩工学の基礎』(1980)
ここで、横軸は波長 λ [nm] です。縦軸は色度座標となっていて、r(λ)、g(λ)、b(λ) と書かれています。アールラムダ、ジーラムダ、ビーラムダと読みます。ここでも「関数」という考え方です。波長 λ を入れると、箱から r(λ)、g(λ)、b(λ) という3つの数が出てくるイメージです。
色度座標(しきどざひょう)とは何でしょうか?色度はR・G・Bの三刺激値の「割合」であり、色の三属性から明度を抜いた、色相と彩度を表すものです。割合(わりあい)って、どういうことでしょう。具体例で確認したいと思います。たとえば、リンゴが5、ミカンが3、バナナが8あります。総数は16。割合は総数で割れば良いので、リンゴ 5÷16=0.31、ミカン 3÷16=0.19、バナナ 8÷16=0.5。全体は 0.31 + 0.19 + 0.5 = 1 になります。全体を1として量を表すのが割合です。色度というのは、リンゴ・ミカン・バナナの代わりにR・G・Bで同じように計算するということです。たとえば「R, G, B = (1, 1, 1)」という色光と「R, G, B = (2, 2, 2)」という色光は、RGBの比率が同じなので、これらは「明るさが違うだけで同じ色」だと考えることができます。であれば総数で割って割合をはじき出し、どちらも同じ r=0.33、g=0.33、b=0.33と表現できます。足したら1になる、割合のr・g・b、これが色度です。ライトもギルドも、単色光と等色する色度 r、g、b を調べたのです。
色度を表すときは小文字で r、g、b と書きます。また、色度というのも3次元空間の座標と考えることができ、色度座標という言い方をするわけです。3次元の色空間で考えると、色度は「単位面」上の座標になります。単位面(unit plane)とは、R, G, B = (1, 0, 0) と (0, 1, 0) と (0, 0, 1) の三点を通る平面を言います。色度は割合なので r+g+b=1ですが、この条件に当てはまる色度座標は必ずこの単位面に来ます。よって、ある色の色度座標 r、g、b は、単位面と色ベクトルとの交点に位置します。また、2つの色の加法混色でできる新しい色は、2つの色度座標を結ぶ直線上に来ます。この特徴は「色度図」にも受け継がれることになります。
参考:篠田・藤枝『色彩工学入門: 定量的な色の理解と活用』(2007)
5. CIEは原刺激とその単位を定義した
研究者によって原刺激や三刺激値の単位が違うと、実験データをそのまま比較したり平均したりできません。土台が違うので、数字の意味がぜんぜん違ってくるのです。同じ土台に揃える必要があります。そして、計算によって揃えることができます。どの研究者の原刺激も単色光あるいは単色光の加法混色と考えられますが、その単色光というのもその研究者の実験データの中で数式で記述されるわけですから、代入して計算していけば数値を変換し、他の原刺激にデータを揃えることができます。
CIEは計算によって2人の実験データを同じ条件に揃え、非常によく似ていることを確認し、どちらも信頼できるデータだと判断しました。そして、2人のデータを足して2で割り、平均しました。CIEは1931年、RGB表色系を以下のように定義し発表しました。
1. 原刺激 [R] [G] [B] は R=700nm、G= 546.1nm、B= 435.8nm の単色光とする。
2. 基礎刺激は等エネルギー白色とし、このとき原刺激 [R] [G] [B] の明度係数は測光量の単位で1:4.5907:0.0601 の比率で混色すると等色する。
この意味するところを順番に見ていきたいと思います。1つめ、原刺激の定義です。ライトとギルドの原刺激は違うものでした。研究者が100人いれば100通りの原刺激があり得ます。そこでCIEは国際的な基準として、原刺激を700nm、546.1nm、435.8nmと決定しました。546.1nm、435.8nmは水銀の輝線スペクトルです。水銀灯から分光して取り出しやすく、明るい光で、当時としては入手しやすい光として選ばれました。これはギルドによる提案でした。
2つめは何を言っているのか。基礎刺激と呼ぶ土台を用意して、それによって三刺激値の単位を定義しているのです。[R]が1、[G]が1、[B]が1というふうに数字で量を表すわけですが、その「1」って何なのか、という話です。CIEはその単位を測光量で 1:4.5907:0.0601 というふうに、輝度の比率という数字の関係性によって定めました。なぜ測光量、輝度ではだめなのか?輝度でも可能ですが、色の強さのバランスが悪いのです。人にとって「青」は極めて暗くても色感覚は非常に強い色です。もし赤・緑・青を同じ輝度で混色すると、かなり青が強い色になります。しかし、「赤・緑・青を同じ量にすると白になる」というふうに1単位を揃えると、数字から色を想像しやすくなるとか、色空間や色度図で真ん中に白が来るということで、いろいろ都合が良いのです。CIEは、加法混色したら「すべての波長で等しいエネルギーを持つ白色光」と等色する [R]、[G]、[B] の輝度を「1」と定めました。これについてはライトなどの意見だったそうです。
それにしても [R]、[G]、[B] が 1 : 4.5907 : 0.0601 というのは、すごい比率です。割り勘で例えると、赤城さんが1万円出すとき、緑山さんは4.6万円出し、青木さんは600円しか出さないわけです。赤の4.6倍が緑。赤の0.06倍が青。この数字だけを見ると、とても釣り合いそうにないですが、加法混色すると等エネルギー白色と等色するということは、ちゃんと色の強さとしては釣り合っているわけです。原刺激 [R] の輝度を1としたときに、[G] はその4.5倍、[B] は0.06倍という輝度です。明るさはバラバラですが、色の強さは同じです。白になるのですから。Bは0.06という、非常に暗い光です。「そんな暗いんだったら、もう、いっそ無くてもいいんじゃないの?」って思うかもしれませんが、そういうわけにはいきません。この0.06の [B] の光がなければ、原刺激 [R] と [G] だけでは「白」という色は永遠に作れないのです。
CIEのRGB表色系における三刺激値は以下の計算式で表すことになります。
三刺激値 R = 原刺激 [R] の輝度 ÷ 1
三刺激値 G = 原刺激 [G] の輝度 ÷ 4.5907
三刺激値 B = 原刺激 [B] の輝度 ÷ 0.0601
三刺激値という数値は、計測された光の明るさである輝度ではありません。輝度を明度係数で割り算したことで出てくる、まったく新しい数字です。色の強さを表すために生み出された、新しい数量の単位です。原刺激 [R]、[G]、[B] をたとえば1ずつ、あるいは0.5ずつ、同じ数で混色すると白色になる、そういうふうに「仕組まれた」色専用の単位と言えます。
もちろん原刺激 [R] [G] [B] がそもそも何なのかによって明度係数は異なる数字になります。そこでCIEはまず原刺激を700nm、546.1nm、435.8nmと定め、これらの測光量が 1 : 4.5907 : 0.0601の比率で釣り合う、ということをセットで言って、三刺激値の単位を決めたのです。この明度係数 1 : 4.5907 : 0.0601 という数字も、実験結果にもとづいて決められたそうです。
6. まず色度座標ができた
CIEが原刺激 [R]、[G]、[B] と三刺激値 R、G、B の単位を決定したことで、ライトとギルドの色度座標は計算によって変換され、統合され、1つの表ができました。
参考:池田『色彩工学の基礎』(1980)
約380nm~780nmという可視光の範囲で、色度座標が書かれています。色度なので、どの波長でも必ず r(λ) + g(λ) + b(λ) = 1 です。また、これも一種の「関数」と考えられ、波長 λ を箱に入れると、 r(λ)、g(λ)、b(λ)が出てくるとイメージできます。
ここで、この数表に負(マイナス)の数があることに触れたいと思います。さっき触れませんでしたが、実はライトとギルドのグラフでも負がありました。なぜ負が出てくるのでしょうか。「光の三原色」の加法混色でさまざまな色をつくれるのは常識ですが、すべての色はつくれません。加法混色ではつくれない色、それはスペクトルの色です。スペクトル色は人にとって最も鮮やかな色、それはもうビックリするほどメチャクチャ鮮やかで美しい色で、基本的に混色ではこの鮮やかさは出せません。
原刺激 [R] [G] [B] の混色では、単色光と等色しないのです。そこで、数学の魔法が登場します。たとえばテスト刺激が500nmの単色光だった場合を考えましょう。これと等色するために、[G] と [B] を加法混色させますが、鮮やかさが足らず等色しません。
[G] と [B] では同じにならないからと言って、そこに [R] を足しても逆効果です。[R] を足しても白っぽくなり彩度が下がるばかりで、むしろ望む鮮やかな色から遠ざかっていきます。そこで、逆転の発想です。テスト刺激の方に [R] を足してしまうのです。鮮やかだったスペクトル色は少し白っぽくなって彩度が下がり、2つの色光は等色できるようになります。
このとき等色式は
色光[C] + R[R] = G[G] + B[B]
と書くことになります。左辺を 色光[C] にしたいので、両辺から R[R] を引けば、こうなります。
色光[C] = -R[R] + G[G] + B[B]
なんと、負の数を許容することで、鮮やかすぎる単色光も三刺激値で表現できるようになるのです。このような表現が可能であることは、グラスマンの第三法則で説明されます。もっとも、この瞬間、もはや数学だけの世界です。「マイナスの量の赤」など現実には存在せず、このような実験は不可能です。しかし、数式の上ではこうやって、単色光を三刺激値で表すことができるのです。さきほどの数表を見ると、このような「負」がたくさん出てくることが良く分かります。380nm~435.8nmあたりでは g が負、435.8nm~546.1nmあたりでは r が負、546.1nm~670nmあたりは b が負になっています。スペクトル色は人にとって最も鮮やかな色ですから、そのほとんどは混色では作れず、ほとんどの波長で負が必要なのです(ちなみに原刺激の波長では負が出てきません、原刺激だけで等色するためです)。
ここで、先ほどの単色光の色度座標の数表を、3次元空間で表示します。色度座標は単位面上(r+g+b=1)に位置します。特にR軸において大きく負の領域に突き出しています。また数字が小さすぎるため図では分かりませんが、数表で確認できたように短波長ではG軸で負、長波長ではB軸で負になっています。基礎刺激である等エネルギー白色は、R軸・G軸・B軸から等しい距離のベクトルになります。
参考:池田『色彩工学の基礎』(1980)
ところで、色度は r+g+b=1 なので、r と g だけあれば十分です。b=1-r-g で求められるため、b は省略可能です。そうなると3次元は2次元になります。Bの軸をぺしゃんこにして、平面図で描けます。横軸が r、縦軸が g の「rg色度図」になります。3次元空間は描くのも見るのも大変なので、よく2次元にした色度図が使われます。色度座標を色度図に置いた点を色度点と呼び、単色光色度座標(スペクトル色度座標)の色度点が以下ように置かれます。等エネルギー白色は r, g = 0.33, 0.33 の色度座標になります。
参考:池田『色彩工学の基礎』(1980), 篠田・藤枝『色彩工学入門: 定量的な色の理解と活用』(2007)ほか
単色光の色度点を波長順に結んでいくと曲線ができます。この曲線をスペクトル軌跡(spectral locus)または単色光軌跡と呼びます。
参考:池田『色彩工学の基礎』(1980), 篠田・藤枝『色彩工学入門: 定量的な色の理解と活用』(2007)ほか
また、短波長の端と長波長の端を結ぶ直線は、純紫軌跡(じゅんむらさききせき, purple boundary)や赤紫線(あかむらさきせん, line of purples)と呼ばれます。赤紫という色はスペクトルには存在せず、赤と青(青紫)の混色によってできる色で、純紫軌跡にあります。そして、人の見るすべての色は単色光の加法混色ですから、「すべての色」はスペクトル軌跡と純紫軌跡に囲まれた領域になります。
7. RGB表色系の完成
さて、色度は「色の明るさ」という情報を持っていないので、特定の色を表現するには不十分です。色相・彩度・明度という色の三属性が揃ってようやく色が確定します。明るさという情報は不可欠です。明るさを与える計算を行い、等色関数(color matching function)を得たいと思います。等色関数は、r(λ)、g(λ)、b(λ)と書き、アールバーラムダ、ジーバーラムダ、ビーバーラムダと読みます。等色関数によって、測定される分光エネルギー分布から三刺激値を求められるようになります。
ここで標準分光視感効率 V(λ) の出番となります。これは「波長 λ の光が1ワットのエネルギーだったとき、人に見えるのはこの明るさ」という関数でした。そして今つくろうとしている等色関数も似たようなものです。等しいエネルギーの各波長の光をR・G・Bに変換するのです。三刺激値は輝度を明度係数 1 : 4.5907 : 0.0601 で割ってつくりました。ということは、明度係数をかけ算すれば、輝度に戻るわけで、それが標準分光視感効率 V(λ) と一致するようにすれば良いわけです。つまり、まず、
V(λ) = r(λ) + 4.5907 g(λ) + 0.0601 b(λ)
という関係が書けます。そこから
色度座標は等色関数のr(λ)、g(λ)、b(λ) それぞれを全体で割ったものだという関係から
V(λ) / ( r(λ) + 4.5907 g(λ) + 0.0601 b(λ) ) = r(λ) / (r(λ) + 4.5907 g(λ) + 0.0601 b(λ) ) + 4.5907 g(λ) / ( r(λ) + 4.5907 g(λ) + 0.0601 b(λ) ) + 0.0601 b(λ) / ( r(λ) + 4.5907 g(λ) + 0.0601 b(λ) )
となるわけで、つまり
V(λ) / ( r(λ) + 4.5907 g(λ) + 0.0601 b(λ) ) = r(λ) + 4.5907 g(λ) + 0.0601 b(λ)
を得ます。ここで試しに
m(λ) = r(λ) + g(λ) + b(λ)
と置けば m(λ) は
m(λ) = V(λ) / ( r(λ) + 4.5907 g(λ) + 0.0601 b(λ) )
となります。ここでまた「等色関数の総和で割ったのが色度になる」という関係から
r(λ) = r(λ) / ( r(λ) + g(λ) + b(λ) ) = r(λ) / m(λ)
g(λ) = g(λ) / ( r(λ) + g(λ) + b(λ) ) = g(λ) / m(λ)
b(λ) = b(λ) / ( r(λ) + g(λ) + b(λ) ) = b(λ) / m(λ)
となるわけで、つまり
r(λ) = m(λ) r(λ)
g(λ) = m(λ) g(λ)
b(λ) = m(λ) b(λ)
なんやかんや計算した結果、結論としては等色関数 r(λ)、g(λ)、b(λ) は以下の計算式でr(λ)、g(λ)、b(λ) から変換できることが分かります。
r(λ) = ( V(λ) / ( r(λ) + 4.5907 g(λ) + 0.0601 b(λ) ) ) ×r (λ)
g(λ) = ( V(λ) / ( r(λ) + 4.5907 g(λ) + 0.0601 b(λ) ) ) × g(λ)
b(λ) = ( V(λ) / ( r(λ) + 4.5907 g(λ) + 0.0601 b(λ) ) ) × b(λ)
すべての波長で r(λ)、g(λ)、b(λ) を算出し、以下の表が完成します。
参考:池田『色彩工学の基礎』(1980)
この等色関数 r(λ)、g(λ)、b(λ) の数表をビジュアル化します。横軸を波長 λ [nm]、縦軸をr(λ)、g(λ)、b(λ)にしてグラフにすれば、曲線グラフが描かれます。
出典:池田『色彩工学の基礎』(1980)
数表をグラフという見やすい形にしただけで、意味は同じです。縦軸は「三刺激値」という新しい色の単位です。輝度ではありません。輝度を、明度係数で割ったもの、それを三刺激値と呼ぶ単位にしたのでした。だから、もし輝度で見てみたいというのなら、明度係数を掛けてやれば良いわけです。r(λ) の山はそのままに、g(λ) の山の高さを4.6倍にし、b(λ) の山の高さを0.06倍にすると、3つの山は1つに融合し、標準分光視感効率 V(λ) になります。
思い出してみれば当然です。等色関数をつくるときに、この1行から計算を始めました。
V(λ) = r(λ) + 4.5907 g(λ) + 0.0601 b(λ)
こうしてみと、等色関数 r(λ)、g(λ)、b(λ) には V(λ) の遺伝子がガッチリ組み込まれているのが分かります。V(λ) は祖先のようでもあるし、分身のようでもあります。どの波長の光も同じエネルギーだったときに、555nmでは明るく見えますが、赤外線や紫外線の方の波長に行くほど暗く見え、最終的には見えない光、ゼロになってしまうという話をしました。その V(λ) の特徴は、等色関数にしっかり受け継がれています。どの波長も等しいエネルギーの光を表したものである、という点で、V(λ) と等色関数は共通です。
なお、三刺激値の1単位は等エネルギー白色光と等色するときと定めたことにより、r(λ)、g(λ)、b(λ) の3つの曲線グラフの山の面積は等しくなっています。数表で確認すると、r(λ)、g(λ)、b(λ) それぞれすべての波長を足し算した結果が同じになります。「積分が同じになっている」という言い方ができます。
等色関数を色空間で3次元表示することも可能です。下の図では矢印で等色関数の3次元ベクトル表示をしています。見やすいように大きさを2倍にしてあります。等色関数というのは、等エネルギースペクトルを意味します。このベクトルを伸ばしていったときの単位面との交点が、その色度座標になります。
参考:池田『色彩工学の基礎』(1980)
結局のところ、等色関数とは何かというと、ある光の物理エネルギーを測定したときに、人間の感じる色、明るさも含む色を表す3つの数字に変換するための道具なのです。入力と出力の数の変換装置、「関数」です。波長 λ を入力したら、R・G・Bの数字が出てきます。等色関数は、標準分光視感効率 V(λ) を混ぜ込みながら巧妙な計算によって生みだされました。そして等色関数が出来たことで、物理測色への道が開きます。しかし、ひとつ問題がありました。
後編へつづく
※参考文献・引用文献は後編の末尾に記載。
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