ディー・エヌ・エー(DeNA)の守安功社長は7日、根拠の不明確な記事を載せた医療関連のキュレーションサイト(情報まとめサイト)「WELQ」に端を発する一連の問題で謝罪会見を開いた。これに先立って、日経ビジネスは守安社長のロングインタビューを実施した。

 女性ファッション関連のメディア「MERY」の休止と第三者委員会の設置を決めた5日深夜。東京・渋谷の複合ビル「ヒカリエ」に入居するDeNA本社の社長室に、憔悴しきった様子の守安功社長がいた。

 世の中の批判の広がりなど、状況は刻々と変わり、連日、深夜までスタッフらと対応策に追われる日々。翌々日に控えた7日の記者会見に向け、内容を練っている最中だった。「まだ決まっていないことが多々ある」「記者会見までに事情が変わるかもしれない」。そう言っていた守安社長だが、この日のインタビューで語ったことは、3時間に及んだ記者会見で語った内容と齟齬はない。ただ記者会見では現れなかった、守安社長の思いやディテールが詰まっていた。(聞き手は井上理)

※7日の会見の一問一答はこちら

日経ビジネスのインタビューに応じたDeNAの守安功社長。憔悴した様子だった(撮影:的野弘路、以下同)
日経ビジネスのインタビューに応じたDeNAの守安功社長。憔悴した様子だった(撮影:的野弘路、以下同)

まず、10あったキュレーションサイトの読者や広告主に対して、率直にどのような気持ちですか。

守安:喜んで使っていただいていた方も多くいらしたので、利用者、読者の皆さまには本当に申し訳ないと思っています。広告主さんに関しましても、突然、サイトを休止し、しかも掲載中の広告があるものを休止するということは、これはあり得ないことです。今回こういう状況ですので、まだ私が直接、代理店さんや広告主さんに謝罪することができていませんが、本当に多くの方にご迷惑をおかけしたと反省をしています。

DeNAの情報サイトをめぐる主な動き
DeNAの情報サイトをめぐる主な動き

まず、11月29日に今回の騒動の発端となったヘルスケア・医療関連のサイト「WELQ」の全記事を非公開とし、続いて12月1日にはインテリア関連の「iemo」、旅行関連の「Find Travel」など8サイトを非公開としました。しかし、女性ファッション関連の「MERY」だけは運営体制が異なり問題がないとして続けていましたが、これも結局は休止することとなり、最終的にDeNAが運営する全10サイトが休止となりました。この経緯と理由をお聞かせください。

守安:MERYとそれ以外の9つの媒体は運営の体制が異なり、オフィスも違う。記事の作り方も異なり、マニュアルも今回、外に出たようなものとは違うため、(WELQに加えて8サイトを休止した)12月1日のタイミングでは大丈夫だろうと判断していました。

 外部のライターさん向けのマニュアルに、リライトを助長していると取られかねない内容があるというのを私が知ったのは、バズフィードさんの記事が初めてで、あれが一番、心が傷んだといいますか、マズイと思いました。WELQ以外の8媒体について、詳細はまだ、検証しきれていません。ただ、少なくとも、似たようなプロセスで記事を発注していたため、問題がある記事が混ざっている可能性があるということで、12月1日に計9サイトの休止を決めました。

 その時点で、9サイトとは運営が異なるMERYに確認したところ、「(MERYについては)そういうことは100%ありません」ということでしたので、1日の段階では休止をしなくても大丈夫だと判断しました。

 ただ、本当に全部が白かというとそうではないということで、かなり安全に、怪しいだろうという記事についてはすべて、一旦、非公開にする措置をとるとは聞いていました。結果、全体の8割程の記事が非公開となりました。

後手後手にまわったのは「私の判断ミス」

記事の8割が削除されたということは、MERYにも、リライトや画像の無断利用など、問題があったという認識なのでしょうか?

守安:記事内容について完全に白だと言えないもの、少しでもグレーが疑われるものは、念のため、大胆に削除した、と聞いています。どういう基準なのかは、現場が混乱しながらやっているので、正直、把握できていません。

 ただ、世の中の普通の人からしたら、「そんなに消すということは怪しい」というふうに映ってしまうのは当然です。内部的には、9サイトとは別の事情があっても、なかなか説明がつきません。これでは、世の中の方に納得していただけないだろうなと認識を改め、MERYも休止にすることにしたというわけです。

 先立って、この土日(12月3~4日)の2日間、かなり長い時間をかけて取締役会を行いました。そこで話し合われたことは、まずは第三者委員会を設置し、なぜこういうことが起きたのか、どういう背景で起きたのか、きっちりとした検証が必要ですねと。それが、私の体質も含めたマネジメントなのか、そもそもの企業文化なのか、管理部門が不十分なのか、きっちりと突き詰めていただきましょうと。

 同時に、そうした検証を、MERYを存続したままでやっていいのかどうかという議論もしました。今、残っているMERYの記事については、かなりクリーンなはずなのですが、その認識も不十分かもしれません。

 侃々諤々の議論の末、自分たちは問題がないと思っていても、それが社会に認めていただけるかどうかは別であり、一旦ここは、すべてを下げた方がいいのではないか。MERYも含めて、外部の目できっちりと検証していただいた方がいい、という結論に至りました。

かなり段階的に対策を講じており、後手後手にまわった印象が拭えません。

守安:日々刻々といろんな報道が出たり、新たな指摘をいただいたりする中で、その都度、社長として相当に難しい判断を思い切ってやってきたつもりでした。WELQ以外の8サイトを落とした時も、そうです。

 ただし、結果論として、段階的に全10サイトの休止に至ってしまったというのは、ひとえに私の判断ミスと言わざるを得ません。もっと早いタイミングで9媒体、10媒体を落とすべきだったという意味で、判断が甘かったと反省しております。後手後手だ、と言われても仕方がないと思っています。

9サイトを休止した際のプレスリリースで、守安さんは「私自身、モラルに反していないという考えを持つことができませんでした」と綴っています。具体的に、何がモラルに反していたのでしょうか。

守安:広報的にどうかは置いておき、私の言葉でご説明しますと、まず、WELQの医療記事については後付けで監修しようということで、すでに動いていました。今夏には「監修はやるべきだよね」と現場に言っており、「はい、やります」というやり取りがあったのですが、大号令というわけではありません。なかなか監修を引き受けてくださる方が見つからなかったのか、現場が動くことができていなかったのか、わかりませんが、結果として実行に移すことができていませんでした。

 この点について、後からの監修でもいいと考えていた私の認識が甘かった。医療に関する記事を扱うことについて、モラルに欠けていたと反省しております。

 さらに、記事制作のマニュアルです。これは、恥ずかしながら、バズフィードさんの記事で初めて知りました。「あっ」と思いました。細かい表現は別として、そこには著作権は守って、コピーはダメですよと書いてあります。ただ、こういうふうにやれば大丈夫ですよ、とすり抜け方を教えているようにも取られかねない文言もありました。リライトを推奨しているようにも取られかねない。これは問題だと思いました。

 モラルがもっとあれば、もっと厳しい対応や体制作りができていたはずです。そのことについても認識が甘かったと反省しています。

名ばかりの「キュレーション」

キュレーションサイトということですが、実際には「編集部が作成した記事」「一般ユーザーが投稿した記事」「クラウドソーシングなどを通じて外部ライターに委託した記事」「記事広告など広告主や広告代理店が作成した記事」の4種類が混在していました。このうち、主に問題となったのはクラウドソーシングを通じた外部ライターの記事ですが、何割くらいあったのでしょうか。

守安:詳細は把握はしてませんが、かなり大きな割合です(編集部注:7日の記者会見で、MERY以外の9媒体については6~9割の記事がクラウドソーシング経由、WELQは9割と明かした)。ただし、MERYに関してはクラウドソーシングの割合は低く(編集部注:1割程度)、社員やアルバイト、インターンが書いた記事が大半という認識です。

業務で作られた記事の集合体は単なるメディアであり、一般のユーザーが自由に投稿できる「キュレーションプラットフォーム」とは言わない、という指摘もあります。

守安:定義は難しいですよね。私の認識では、キュレーションとは、インターネット上のいろんなコンテンツをテーマに沿って寄せ集めることで価値が上がっていくもの、だと思っていますので、作り方云々、ということではないと思っています。

お金を払って安価に大量に記事を作る手法に依存していたことが、今回の炎上につながったわけですが、この手法をどう思いますか。

守安:だからこそ、信頼性や著作権などの問題がないかどうか、編集のチェックが問われていた、あるいは、問われているのだと思っています。そこができていなかったというのは、反省しています。クラウドソーシングを使うのであれば、きちんと編集チェックをすべきでした。

 ただ、クラウドソーシングであっても編集チェックがあれば信頼のおけるメディアになれるのかもしれませんし、それは不可能だ、プロのライターでないと成立しない、ということかもしれません。私は編集のプロではないので現段階で断言することはできませんが、どういうプロセスであれば、信頼のおけるメディアになれるのかどうかも含めて、今後、考えていかなければならないと思っています。

素人かプロか、という以前に、コストが問題の根なのではないでしょうか。「2000文字1000円」という単価で外部ライターに記事を発注していたということですが、1000円は一般的なアルバイトの時給程度です。これでは粗製乱造につながっても仕方がありません。

7日の記者会見に臨んだ守安社長。急きょ、創業者でもある南場智子取締役会長(右)も参加した
7日の記者会見に臨んだ守安社長。急きょ、創業者でもある南場智子取締役会長(右)も参加した

守安:最初に「好きな人は書くんです」とキュレーションメディアの説明を受けました。ブログを書いている人は無料で書いている。クックパッドでも無料で書いている。そこに少しお金を支払うことで、もっと書いてくれるようになると。なので、安いことについては問題がないと思っていたんですね。

 ただ、結果としてこうなってしまいました。好きなことに対して若干のインセンティブがもらえる、という手法であれば、いい方向に向かうのかもしれません。「YouTube」などでも成立しています。一方で、単なる仕事として発注し、量産しようとすると、こういうふうになってしまうのかもしれない。ビジネスとして成り立つのかどうかも含めて、第三者委員会で検証してもらいたいと思っています。

一部では、文章を若干、改変する「リライトツール」や、ネット上から自動収集して記事を作る「Bot」の利用が、外部ライターの一部にあったのではないか、との指摘もあります。

守安:そうしたツールの存在は知っていました。当然ながら、そのようなものを使って記事を作ることは一律、禁止していました。なぜかというと、コピーしたようなサイトは、グーグルからブロックされてしまうからです。グーグルからブロックされていない以上は、そういったツールは使われていないと思っています。

 ただし、本当にライターの方が使っていないかどうか、私たちはチェックする術が今のところないので、断言はできません。そうしたことも、第三者委員会の調査のスコープに入るのかもしれません。

「グーグルが喜ぶ部分への比重を高めすぎた」

WELQについては「ガン」「腰痛」「死にたい」など、あらゆる検索キーワードで上位に表示されるよう最適化する「SEO(検索エンジン最適化)」についても批判が集まりました。

守安:僕はSEOが好きなんです。昔、(DeNAが運営していたオークションサイトの)ビッダーズでSEOを実施し、トラフィックを上げた実績があるので、効果的だというのは身にしみて知っています。SEO自体、悪いものだとは思っていません。

 ただ、効果的なSEOを重視したことで、ユーザーに向いて記事を作ることとのバランスを間違えたのではないか、という反省はあります。言い換えれば、ユーザーが喜ぶコンテンツと、グーグルが喜ぶコンテンツと、それがイコールならいいのですが、そうとは限らない。グーグルが喜ぶ部分への比重を高めすぎた。そこで、ひずみが出てしまったという可能性はあります。

WELQでは、人の健康にかかわるコンテンツだったために問題視されました。病気などで困っている人々に、いい加減な記事を読ませ、広告収入につなげようとしたのは、倫理的に問題があるという指摘です。

守安:きちんと監修されたコンテンツであれば、SEOをしていても問題はなかったと思います。監修やエビデンス(証拠)がない記事をSEOしていたことが問題だったという認識です。実際に、監修された医療情報をSEOで最適化している医療情報専門サイトやメディアは多数あります。

「死にたい」も問題ない?

守安:これも、誘導先のコンテンツが問題でした。そういう人を救おうという信念やポリシーをもった記事であればよかったのですが、最終的には転職を斡旋する広告につながっていったということで、コンテンツと広告の中身に問題があったことは事実です。そういうセンシティブなキーワードに関しては、倫理的なことも含めて、もっと編集チェックを強化すべきだったと思っています。

低コストで大量生産したコンテンツをSEOするという効率的なメディア作りを追求した結果、DeNAはブランドや企業価値を毀損するという結果になりました。この手法をDeNAに持ち込んだのは主に「iemo」です。2014年に、「MERY」も含めて2つのメディアをDeNAが50億円で買収した当時から、著作権の問題は指摘されていましたし、買収額が高すぎるとの声もありました。こうなった今、当時の買収判断をどう思いますか。

守安:買収額については精査をした結果です。iemoはインテリア、ファッションはMERYということで、この手法はほかのジャンルにも広がるよねと。食や旅行が空いているよねと。まさに今、(複数のキュレーションサイトのプラットフォームである)「DeNAパレット」としてやっているような大きなビジネス戦略を描いた上での買収ですし、金額も妥当だと判断しました。今でもそう思っています。

 コンテンツの中身に関しては、もともとグレーだよねという認識でいました。ただし、黒か白かなかなか線がひきにくい。判断しにくい。ですから、完全に白にしていかなければいけないと思っていました。

 一方で、スタートアップの良さもあるわけです。我々はゲーム事業の業績が下がる中で、無料通話アプリの「Comm」をやったり、音楽配信アプリの「Groovy」をやったり、けっこうなコストをかけて新規事業に挑戦しましたが、ことごとく失敗しました。以前は「モバゲー」を初めとしてうまく立ち上げができていましたが、大企業になるにつれ、この数年間はうまくできていないという事実がありました。

 かたや、「メルカリ」や「スマートニュース」といったスタートアップ企業が成長している。その中で、キュレーション事業が始まり、(買収後に)グレーから白にしていかなければいけないと思う一方で、成長も維持しなければならないという思いがありました。スタートアップの良さも残さなければ、当社に買収されずに独自に成長した方がよかった、となりかねない。今思えば、そのバランスの取り方を間違えたというのが、私の反省です。

WELQの再開は「難しいという認識」

ゲーム事業が落ち込む中、次の新たな柱を早期に作り、マネタイズしなければいけないという「焦り」もあったのでは?

守安:それは、プレッシャーはあります。これだけゲーム事業が下がっている中で焦りやプレッシャーがないと言えば嘘になります。その中でバランスを失い、やり方が間違っていたことがあったのかもしれません。

iemoをDeNAに売却した村田マリ氏は、その後、DeNAの執行役員になり、キュレーション事業のトップとしてWELQも含めた9サイトの成長をけん引しました。彼女の責任について、どうお考えですか。

守安:現場で何があったのか、かなりの部分がわかっていませんので、そこも含めて、第三者委員会の結論を待ちたいと思います。今の段階で、誰に責任があるとは明言ができない。責任の所在は誰にあるのか、しいて一人挙げろと言われたら、それは社長である私です。

休止中のサイトは、第三者委員会の調査を経て、編集チェック体制を見直した上で、再開という運びになると思いますが、医療とインテリアでは、チェックのやり方も厳しさも異なります。

守安:第三者委員会の結論を待たないと何とも言えませんが、医療分野に関してはかなりの難易度があり、なかなか再開のハードルは高いといいますか、実態としては難しいなという認識でいます。

キュレーション事業全体から撤退するという選択肢はありますか?

守安:これも第三者委員会次第で、どうなるのかわかりませんが、私自身は続けたいと思っています。挑戦はしていきたい。そして、やるなら皆さんから信頼されるいいメディアにしていく、ということです。

会社として、今後こうしていきたい、という思いは?

守安:今、いろいろなところで、DeNA全体が、モラルのない企業風土だと書かれています。それは、本当に社員にも提携先にも申し訳がないと思っていますし、そうでないところを見せて、なんとか変えていきたいと思っています。

ご自身の進退について、どうお考えでしょうか。

守安:世間の信頼を取り戻すために全力を傾けたいと思っています。そして、改めるべきところは改めたい。経営者である私自身に何かしらの問題があるのかもしれません。ちょっと数字によりすぎているのかもしれない。社会的意義やユーザーの喜びといった部分とのバランスが悪いのかもしれない。

 そして、そうした問題を止められないのであれば、内部のガバナンスや管理体制に不備があるのかもしれません。それらをすべて、改めたい。その上で、もっと強い会社へとしていきたいと思います。

「会社として生まれ変わる」

利用者数や収益などの数字を追い求める結果、モラルや法令をおざなりにするという点で、今回の件は、かつてソーシャルゲーム事業で起こった「コンプガチャ」問題や、独占禁止法の排除措置命令を受けた「囲い込み」問題などを彷彿とさせます。当時の反省や教訓は生かされなかったのでしょうか。

守安:そうですね。だからこそ、本当に変われるのかどうかが問われているのだと思っています。本気で変わります。

 この土日に取締役会をやり、南場(智子取締役会長)とも、「これを契機に本当に会社として生まれ変わらないといけないよね」「こういう過ちは二度とおかしたらいけないよね」という話をしました。これを契機に本当に会社として生まれ変わらないといけない。私は、まだ変われると信じています。

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