ファミリービジネス(同族企業)研究をライフワークとする、星野リゾート代表の星野佳路氏と「後継社長の育成」及び「バトンタッチ」について考える。「理想的な実例」として、ジャパネットたかたの創業者、髙田明氏と、明氏の長男で2代目社長の髙田旭人氏(ジャパネットホールディングス社長兼CEO)の2人にインタビューを重ねてきた(第1回第2回は旭人氏に、第3回は明氏に、それぞれ話を聞いた)。ジャパネットに入社した息子の旭人氏が反発したとき、父のいる長崎の本社から離し、福岡に赴任させた。明氏に、どんな意図があったのか。

(編集・構成/小野田鶴)

星野佳路氏(以下、星野氏):息子の旭人さんがジャパネットに入社して、親子の意見の違いが見えてきたとき、旭人さんがお父さまと離れる「福岡の7年」をつくられました。これが、ジャパネットの事業承継において素晴らしい点だと、私は考えています。

 佐世保の本社と物理的に離れるだけでなく、組織としても分けて、コールセンターを旭人さんに任された。それは、髙田さんの経営判断だと思うのですが、そこに何か意図があったのですか。ある特定の分野について、自分はあまり細かいことを言わずに、好きにやらせて育てようというような。

髙田明氏(以下、明氏):そういう計画性は、私にはないんですよ。コールセンターをつくったのは、毎年100億円、200億円の単位で売り上げが上がっていった時期で、これはもうコールセンターをしっかりさせなくてはいけないと思っただけです。お客様の目線で考えたら、私らがテレビで商品をどう紹介しようと、最初にコンタクトするのはコールセンターです。その応対品質を落としてしまっては、会社として信頼されるブランドをつくっていけないという考えはすごくありました。そういうときに「じゃあ、僕が行く」と彼が手を挙げて行ってくれました。ちなみに、福岡で彼が住んでいる部屋に私が入ったことは1回もないです。

星野氏:その距離感が旭人さんにとってよかったのだと、おっしゃっていました。

明氏:それはそうかもしれませんね。

星野氏:しかし、髙田さんが今おっしゃったように、コールセンターは事業の拡大にすごく重要なのに、それを息子さんに任せたというのは、やっぱり組織を一つ任せて成長させようという意図があったように、私には思えるのですが。

明氏:いや、それは正直あまりないですよ。ほら、私は本当、いいかげんですから。

星野氏:いやいや。

明氏:報告を受ければ、素晴らしいね、というくらいで。福岡で彼が、顧客満足度だけでなく、従業員満足度も測ると言い出したと聞いて、「えっ、そこまでやるの?」と驚くといった具合です。他社から見学に来た人がびっくりするくらいの仕組みをIT(情報技術)でつくっているというのもすごいと思いましたね。ずるい言い方かもしれないけれど、私にとってみたら、大事なところを担ってくれる人がそこにいて、それがたまたま息子だったんです。

 星野さんはアニメとか漫画とか、詳しい方ですか。

星野氏:いや、今のアニメや漫画はあまり見ていないので。子どもの頃はたくさん見ましたが。

星野リゾートの東京オフィスと、髙田明氏のいる長崎県佐世保市をオンラインでつないで対談した(写真=菊池一郎)
星野リゾートの東京オフィスと、髙田明氏のいる長崎県佐世保市をオンラインでつないで対談した(写真=菊池一郎)

明氏:私もそうです。76歳になって、このごろは妻とYouTubeを見たりするんですけれど、ここ35年くらいの歌謡曲などは全く知らないんですよ。仕事ばかりしていましたから。政治や経済の本は興味があって多少読んでいましたが、アニメも知らないし、歌も知らない。自分でもあきれてしまいますが、目の前の仕事に没頭してしまう、そういう人間なんです。

 だから、息子がコールセンターをやってくれるというなら、助かるし、物流が大変になって愛知県の春日井に物流センターをつくったときも、これを誰に任せたらいいかと思っていたら「僕が行く」って言うから、それなら助かると思って任せたんです。そうしたら、どれも立派にやり遂げる。そういう流れで、私の中で息子に対する評価が上がっていったわけです。

星野氏:しかし、コールセンターにしても、物流センターにしても、最初からうまくいくわけがないと私は思うのです。そうなるとどうしても、経営トップとしては口を出したくなるものです。けれど、旭人さんの話を伺うと、意外にずっと任せてもらえたとおっしゃる。だから、お父さまのほうに、ある程度の時間を決めて、口を出さずにいようという意図があったのかもしれないと想像したのですが、いかがでしょうか。

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