「ビーム社との統合はサントリーが真のグローバルメーカーになるための試金石だった。本当に困難で厳しい挑戦の連続だった」

 サントリーホールディングス(HD)の新浪剛史社長は12日、都内で開いた社長交代の記者会見で在任10年間を振り返ってこう語った。サントリーHDでは2025年3月25日付で創業家出身の鳥井信宏副社長が社長に昇格する。新浪社長は代表権のある会長となり、今後は海外展開に注力する。

 新浪氏が社長に就任したのは、佐治信忠会長兼社長(当時)が米蒸留酒大手ビーム(現サントリー・グローバル・スピリッツ)買収をまとめた直後の14年10月に遡る。

一世一代の大勝負を託される

 「一世一代の大勝負」(佐治会長)で会社の命運を握る買収だった。北米で知名度が高いビームを起点に世界展開を進める考えで、相乗効果を期待する声は多かった。

 だが、当時のレートで約1兆6500億円にも上った巨額買収で債務負担は大幅に増加。買収価格もビームのEBITDA(利払い・税引き・償却前利益)の20倍超だったため割高とも指摘された。市場では不安が根強く、サントリーHDの発行体格付けは格下げが相次いだ。

 そんな折に、国際感覚などを買われて社長に就任したのが、三菱商事を経て当時ローソン会長だった新浪氏だった。(参考記事:新浪氏の連載 「新浪剛史の『一水私見』」)

 海外企業の買収では、その後の統合で苦戦するケースが多い。日本流を押し付ければ反発を招く一方、距離を置きすぎれば相乗効果が生まれない。ビームのような大手が相手では特にその傾向が顕著で、サントリーHDも大きな抵抗に遭った。

 「我々の方が世界を知っている。サントリーは口を挟まないでくれ」。当時のビーム経営陣からはこんな声もあったという。買収後の社名を「ビームサントリー」とし、ビームを前に置いたのも同社社員たちに配慮した面もあった。

 サントリー流の考えや仕事をどう理解してもらえばいいのか――。悩んだ新浪氏が15年に始めたのが「サントリー大学」という人材育成プログラムだ。佐治会長や鳥井副社長といった創業家が講師となり「やってみなはれ」の精神を直にビーム社員に伝えた。

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