株価急騰を背景に、エヌビディアの待遇は業界トップクラスに躍り出た。人材争奪戦で優位に立ち、インテルなど競合からの転職者が絶えない。独自調査で、トップ技術者が2015年比で3.5倍に急増したことが分かった。
世界中のAI(人工知能)開発企業がエヌビディア製のGPU(画像処理半導体)を入手しようと躍起になる中、テック業界では「もう一つの争奪戦」が繰り広げられている。AI人材の奪い合いだ。
戦いに勝ち抜くため、各社は数年来、給与をはじめとする待遇を引き上げ続けている。米半導体メーカー数社の採用に関わるヘッドハンターは現状をこう説明する。「腕の立つエンジニアを採用するのに、5年前は年収15万ドル(約2250万円)のオファーで十分だった。今は20万~25万ドル(3000万~3750万円)もざらにある」
ソフトウエアエンジニアも半導体エンジニアも水準は変わらないという。ざっと日系半導体関連企業の3~4倍が必要となる計算だ。
この人材獲得競争でもエヌビディアは優位に立っている。「2014年の米フェイスブック(現メタ)をほうふつとさせる人気ぶりだ」。米シリコンバレーに本社を置く採用支援会社の幹部はこう語る。
14年のフェイスブックはモバイル広告が大幅に伸びてSNS事業で一人勝ちの状態だった。応募数が急増して「採用面接の枠を取ることさえ難しい状態だった」(採用支援会社幹部)。エヌビディアは応募数や採用倍率を公表していないが、「日本も米国も伸びているのは確か」(日本代表兼米国本社副社長の大崎真孝氏)と認める。
では、エヌビディアに転職しているのはどんな人材なのか。本誌がビジネスSNSのリンクトインを分析すると、半導体関連などの競合他社から人材が大量になだれ込んでいる様子が明らかになった。
中でも米インテルから約3300人がエヌビディアに転職しており、まさに草刈り場。逆にエヌビディアからインテルへの転職者は687人にとどまり、力関係は明白だ。インテルは業績不振が続いており、24年8月には全従業員の15%に当たる1万5000人以上のレイオフ(一時解雇)を実施すると発表した。

例えば、インテルが研究開発拠点を縮小する見込みのイスラエルでは、レイオフが数百人規模になると米メディアは報じている。本誌がリンクトインでイスラエルにおける転職状況を調べたところ、24年8月以降、インテルからエヌビディアへ少なくとも28人が転職した可能性が高いことが分かった。レイオフに伴うエヌビディアへの移籍が世界各地で発生していると見られる。
インテルのほか、米AMDや米クアルコム、米アップル、米グーグルなどの巨大テック企業からも1000人規模で転職している。いずれもエヌビディアへの流入超だ。
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