日経ビジネスの7月1日号で「年収1000万円世帯の憂鬱」という特集を組んだ。世帯年収が1000万円前後の家庭を取材していく中で分かったのは、彼らの多くが家計に不安を抱えていることだった。
サラリーマン社会の「勝ち組」ととらえられることも多い層だが、イメージされるほど彼らは余裕を持って生活しているわけではない。むしろ、老後の資金や教育費を捻出するために、節約にひた走ろうとしている。記事ではそんな彼らの姿を紹介した。
今回の特集を組むに当たり、日経ビジネスは年収1000万円層の心理をより定量的に知るためにアンケートを実施した。年収1000万円クラスの求人を主に取り扱う転職サイト「ビズリーチ」の協力を得て、同サービスの会員に消費意欲などを聞き取った。
特集の中では紙幅の関係もあり、世帯年収が850万~1250万円未満の約600人の回答結果だけに絞って結果を掲載した。だが、実はアンケート自体は単独の年収が750万円以上の人を対象としており、回答者の総数は約1700人。せっかくなので、今回は誌面では紹介しきれなかったアンケート結果について、もう少し紹介しようと思う。
半数が「1500万円でも足りない」
「今後2人の子供を育てると仮定した場合、年収1000万円は親子4人が余裕を持って暮らすのに十分な額だと思うか」
この質問の結果は本誌でも紹介したが、約1700人の回答者全員を対象にすると、「思う」または「少し思う」の合計が39.1%という結果が出た。残りの60.9%は「あまり思わない」または「思わない」という人で、半数以上が「1000万円は親子4人が何の心配もなく暮らせる額ではない」と思っていることが分かった。
質問文の「余裕を持って」という表現の定義がないため、結果に曖昧さはあるが、年収1000万円といえば平均的な給与所得の倍以上にあたる。それでも足りないものなのか。「十分とは思わない」「あまり思わない」という人に、その理由も尋ねてみた。
圧倒的に多かったのは「老後に必要な蓄えを考えると足りない」という回答で、65%が理由に挙げた。物価が高く、何かと出費が膨らみがちな「東京など大都市では足りない」という人も49.4%いた。勤労世帯が都市部に集中していることから考えれば、現役時代の都市部での生活コストが家計を圧迫し、十分に老後に備えられない構図が見える。
では逆に、「世帯年収がどの程度あれば、親子4人が余裕を持って暮らせると考えられるのか」。その結果は下記の通りだ。
「1200万~1500万円あれば」とした人は全体の48.1%。残りの半分強の人は、それでも足りないと考えている。
1500万円以上の年収となると、相当にハードルは高い。国税庁の「民間給与実態統計調査(2011年分)」によると、1年間勤務した給与所得者のうち、1500万円を超える所得を得た人は1%しかいない。
夫婦合わせて1500万円を得ようと考える場合でも、その約半分にあたる700万円を超える所得がある女性は2.7%しかいない。500万円超でみても女性の9.2%だ。1000万円超~1500万円以下の男性が4.5%なので、男女の組み合わせとしてはかなり狭き門となりそうだ。
「十分」と思える所得を得るのが難しいならば、家計にメリハリをつける以外に方法はない。要するに節約だ。
世帯年収が850万円~1250万円未満の約600人に、「今後支出を抑えたいと考える項目」を複数回答可で尋ねたところ、次のグラフに示す結果が出た。
3割以上の人が支出を抑えたいとしたのが「光熱費」と「通信費」だ。家計の中で支出の大きな割合を占めるものではないが、日々の生活の中で削りやすい部分への節約意識はやはり高い。
次いで挙げられたのは「外食費」。「世間の水準よりも多く使っている」という意識は多くの1000万円層が持っているようで、削る余地も感じている。
ただ、仕事で遅くなることが多かったり、周囲とのつき合いがあったりすることから「なかなか削れない」という声も多い。贅沢と言ってしまえばそれまでだが、社内などで同じ給与水準の人たちに囲まれていると、自分だけ極端な節約はしづらいという心理は理解できなくもない。
お金をかけたいのは教育費より旅行
面白いのは、「自動車およびその燃料代」と「家電製品や家具など耐久消費財に対する支出」はともに2割以上の人が抑制項目に挙げた一方で、「旅行代」が11.3%にとどまったことだ。生活に必要でないはずの「旅行」に対する支出は確保したいという意識は、「モノ」よりも「コト」という消費意欲の変化を如実に表している。
反対に、「今後、もっとお金を使ってもいいと考える項目」も聞いた。ここでも「モノよりコト」という傾向は変わらず、「旅行代」は33.2%の人が挙げてトップ。一方で「自動車およびその燃料代」と「家電製品や家具など耐久消費財に対する支出」は1割に届かなかった。
なんと旅行を挙げた人の割合は、家庭の聖域たる「教育費」の27.0%をも上回った。先ほどの「今後支出を抑えたい項目」では「教育費」を挙げた人は5.5%で、「旅行代」のわずか半分。教育に関する投資を抑えたいと考える人は少ないが、積極的にお金をかけていきたい度合いで言えば旅行代を下回ることになる。
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