ここのところ、偉い人の失言を糾弾する原稿ばかり書いている気がする。

 本来、私は、この種の仕事を好まない。
 そもそも、誰かの発言の一部を引用して、その言葉の不穏当さや不適切さを言い立てるタイプの言説は、「重箱の隅をつつく」感じがして、見栄えがよくないからだ。

 だから、私は、たとえば、閣僚なり経営者なり芸能人なりが、うっかりもらした片言隻句に雑誌やテレビのレポーターが群がって騒いでいる図を見ると、

「あんな仕事はしたくないものだ」

 と感じる。

「まるで、弱ったヌーを見つけたハゲタカじゃないか」

 と思うからだ。

 ただ、今年になってから断続的にもたらされている政府関係者の失言は、座り慣れないポストに浮かれた閣僚が思わず漏らした不適切な本音や、脇の甘い議員がTPOをわきまえきれずに放ったジョークとは性質が違う。

 もう少し根の深いものだ。
 森さんや麻生さんが時々やらかす失言は、それはそれで困った逸脱ではあるものの、要はご本人の資質に帰することのできるものだ。

 が、ここしばらく続いている政府関係者による不規則発言は、より深刻な病根に根ざしている。
 失言自体は、症状に過ぎないとさえ言える。

 問題の深刻さは、「失言」を漏らした当事者が、自身の言葉を「失言」と考えていないところに現れている。
 彼らは、

「メディアが発言を切り取って問題化しているだけだ」
「記者が繰り出してくる罠みたいな質問にひっかかったに過ぎない」
「国際社会(あるいは海外プレスや当事国)が誤解しているだけの話だ」
「真意が伝わっていない」
「言葉足らずだった」
「説明不足だった」

 という感じの弁解を繰り返す。
 現実にも、たぶんその通りに考えている。

「うるせえな。つまんねえ揚げ足とってんじゃねえよ」

 ぐらいに。

 彼らは、どのケースでも、自分たちの現実認識や歴史観が間違っていたというふうには考えていない。

 当然の流れとして、海外メディアや国際社会の側も、当該の発言を、単なる「失言」とは見なしてくれなくなってきている。彼らは、昨年来途切れることなく続いている政府関係者の不適切発言を、日本政府および日本の社会の中に内在する「本音」ないしは、「隠れた願望」であるというふうに解釈して、その見方に沿った記事を配信しはじめている。

 事態は、厄介な局面に立ち至っている。
 安倍さんが気づいてくれていると良いのだが。

 まあ、気づいたのだとして、これまでにやってきた路線を変更できるのかどうかは、また別の話で、もしかしたら、私たちの政府は、事態が悪化すればするほど、かえって意地を張る流れに乗って行くのかもしれない。
 とすると、これは、「いつか来た道」だ。

 常套句だと思うかもしれないが、常套句が常套句になったのは、それだけ説得力のある言葉だからでもある。
 なので、もう一度常套句を繰り返しておく(おっとこれも重複表現だな)。

 私は、この道が、いつか来た道であるという感覚を拭い去ることができずにいる。
 これから行く道が、いつか来た道であるような事態の進行の仕方を、歴史家は「愚行」と呼んでいる。

 私は、昨年来続いている、政府関係者の「失言」を、ただの失言だとは思っていない。
 むしろ、この先に続く「愚行」の到来を知らせる、先触れだと思っている。
 いまから10年なり20年が経過した頃、その時代の若者は、

「2010年代の日本人って、バカだったのかなあ」

 と言っているかもしれない。
 先に答えておく。
 若者よ。2010年代の私たちは、愚かな人間たちに先導されていた。
 できれば、ドブに落ちた犬を責めないであげてほしい。 

 最近の例では、石破茂自民党幹事長が、プーチン大統領を擁護する発言をしている。
 自民党のサイトにある全文から、その箇所を引用しよう。都合の良いところだけ抜き出さなかったので少し長くなるが了解いただきたい。全文はこちらから読める。

《ロシアが国会において、全会一致で介入というものを支持した。大統領がそのように提案をし、それを支持したということは、ウクライナにおける自国民保護ということなのであって、それは日本流に言えば、邦人救出というお話ですから、仮に動乱、騒擾状態によって、自国の国民が危難に遭遇するようなことがあるとすれば、それを救出するためというのは、武力の行使とか、武力介入という言葉とは少しニュアンスを異にするのではないだろうかなという感じがいたしております。》

 現今の国際情勢の中で、ロシアのクリミアへの軍事介入を擁護することが、どういう意味を持つのかについて、石破氏は、熟慮したのだろうか。仮に、熟慮の上の発言だったのだとすると、石破氏は、わが国の政府が、この先、ウクライナ問題に関して、EU諸国やアメリカとは一線を画した方針でコトに臨む旨を明言したことになる。

 大問題だ。
 というよりも、一大スキャンダルである。

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