「素人による中国観察」などという看板を掲げながら、この数カ月ばかりヲチらしい作業を何もしていないことを恥じ入る次第です。
きっかけは「あんぐり」と呆れてしまったことによるものでした。中国都市部の民度が退行しているのを感じたからです。
私の手触りでいうと、20年前に比べて価値観が硬直化してきている一方、当局による煽りや騙しに対する免疫が著しく低下しつつあるのです。もうただこの一事のみ。
基本的には江沢民が始めた愛国主義教育の「成果」ともいえるものですから、中国は現在も免疫力なしの新世代を続々と量産中。民度を落とす教育政策というのも何やら末期的です。
価値観の硬直化というのは、例えば政治面なら、「都市部住民の代弁者」といえるほど地盤を拡大しつつあるネット世論からは、何事も、
「愛國無罪」
「漢奸・賣國賊」(売国奴)
の二色刷りで片をつけてしまうような息苦しさを覚えます。
ついでにメディアにも一般論として言及しておくと、新聞雑誌の数が増えたりネットという新媒体の出現などもあり、表面的には以前よりずっと多様化しているようにみえます。
が、仔細に眺めてみると1980年代後半に比べ、当局に潰されかねない際どい報道・評論を行う尖鋭的なもの、良心的なもの、斬新なもの、イキのいいものが格段に減っています。
見た目は色とりどりなのですが、口にしてみるとみんな似たような味。なーんだツマンネ、といったところです。
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……ヲチから遠のいている言い訳をしているのですが(笑)、いや笑い事ではなく体調不良も実は大きな原因のひとつです。今年の中国は1月から物価高だ毒餃子だ大雪害だとネタ満載だったので健康面には不安が常にあり、ドクターストップがかかって自宅療養する破目になったりしました。
それでもチベット問題などが起きて、じっとしていられず勝手に原隊復帰してヲチを再開したら聖火リレーだ愛国無罪だ長野だフリーチベットだ四川大震災だと大事件が続いたので休む間もなし。おまけにフリチベのOFF会やデモにまで参加したりする始末で、とうとう消耗してしまったようです。
北京五輪が近づいてきて上記「あんぐり」となりヲチ夏休み状態に入りました。五輪開催中は多少手を抜いていても大丈夫だろう、と多寡をくくっていた側面もあったのですが、ヲチを楽しむ気持ちがチト薄れた、というのが第一。実はそれよりも「三病息災」が「四病」に増えて一時期入院させられたりして、改めてドクターストップをかけられたまま現在に至っている、というのが本当のところなんですけど。
ヲチ自体は、私にとってこの上ない娯楽で心気を休めるものなので医者どもから文句も出ませんしモーマンタイなのです。ただしそのために行う記事集めというのが実は相当な力仕事で、何せ自分なりに納得できるまで徹底してやりますから時間と体力に負担がかかります。
しかもこれらはあくまでも余暇であって、基本的にはもちろん本業副業が最優先。その本業副業の上に記事集めが乗っかって、今年のように度が過ぎると医者から謹慎処分を喰うといった体たらくです。
おかげで最近は更新頻度も落ちていますし、内容も大雑把なものしか書くことができません。北京五輪が終わればそろそろ政治の季節だろう、ということで私の方はウズウズし始めているものの、目下のところ指をくわえて遠くから眺めているような状態。最近は政治・経済・社会のいずれもが明らかに香ばしくなりつつあるので内心,忸怩たるものがあります。
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不動産市場はバブル状態だとか違うとか、経済過熱の気配があるとかないとか、どのくらいのレベルで「軟着陸」(ソフトランディング)できるか、などという議論が行われていた2003年~2004年のころが随分昔のように思えます。
現在はみなさん御存知の通り、株価は上海証券取引所の平均指数でいうと2000ptsを割り込みかねない状況で、これは昨年10月に最高値を更新した時期のほぼ3分の1という水準。しかしそもそも6000ptsの大台に届いたのは5年に1度開催される「十七大」(第17期党大会)の御祝儀相場ってことでは?とみる向きもあり、
「それなら北京五輪の時期にやはり御祝儀で一度は持ち直す筈」
という、中国特有の習わしに則した観測が大真面目に行われたりもしました。ところが意外にも株価は五輪が始まっても続落続落また続落。……以前、
●怖いのは暴落ではなく逆ギレ。(2007/11/10)
というエントリーを書きましたが、早くもこれが現実の事件となっています。株価ではなく不動産価格の下落が発端なのですが、一時は「官民衝突から大規模な都市暴動へ!」になりかけました。
●出資金戻らず住民騒ぐ 中国湖南省(MSN産経ニュース 2008/09/05/10:35)
http://sankei.jp.msn.com/world/china/080905/chn0809051034000-n1.htm
中国湖南省吉首市で3、4両日、高利で違法に資金を集めていた不動産会社が約束通りに資金を返還しないとして、出資者の住民ら多数が集団で地元政府に仲介を求めて騒ぎ、交通機関が一時混乱する事態となった。新華社など中国メディアが伝えた。
香港の人権団体、中国人権民主化運動情報センターによると、集まった住民らは約1万人に上り、排除しようとした警察官側との衝突で50人以上が負傷したという。中国側報道は9人が強制排除されたが死傷者は出ていないとしている。
地元では住民らを対象にした違法な資金集めが続いてきたが、うち数社が今年6月ごろから返還に行き詰まっていた。人権団体側は、地元政府が今月3日、不動産会社の資産を凍結すると発表、出資者がパニック状態になり暴動が起きたとしている。(共同)
この事件は新華社による報道のタイミングや扱い方、また治安部隊の投入具合など検証すべき点がいくつかあり、そもそもまずは「中国におけるバブルのはじけ方」の一典型として重視し珍重すべき素材なのですが、如何せん謹慎中の身ゆえ私は大人しくしていなくてはいけません。
ただ「大雑把」という言葉に安んじて指摘するとすれば、これまたチラつく「官」の影、ということです。今回の事件は役人が手柄欲しさにデベロッパーをそそのかして始めたもので、役人自身もこの事業で私腹を肥やしてきました。
ところがバブル崩壊の匂いを嗅ぎ付けたのか旬は過ぎたとみたのか、その役人どもが最近、出資金&利息を一斉に回収した。……との噂が流れたことが発端となって、一般市民の間にパニックが発生。
現在の中国において最も危険な「官vs民」フラグが立ちやすい構図といえます。
しかも、似たようなことが別の都市で行われていても何ら不思議ではありませんし、他でもやっているとすれば恐らく同じように出資金の多寡はあれども一般市民を巻き込む広範なものでしょう。
いったん破綻すれば、というより「破綻近し」の噂が流れるだけで都市暴動に発展しかねない危うさを内包しています。もちろん、いじくる対象が不動産ではなく株という可能性も。
全国各地で火の手が上がりかねない、ということです。とりあえずその一番手は大事にならずに当局が総力を挙げて防いだ、ということになるでしょう。再燃する可能性も、あるのですけど。
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マクロ経済の動向については、もはや「過熱か否か」ではなく「過熱状態」を前提とした上でインフレ懸念が論じられる段階に入りました。結局またなのかなー、という気がしないでもありません。
以前の中国経済はほぼ5年周期で「過熱→引き締め→再加速→過熱」といったプロセスを繰り返していたものですが、ここでいう「引き締め」というのは行政も介入して力づくで押さえ込んでの「硬着陸」(ハードランディング)。力づくゆえに党中央の権力闘争に発展して、失脚者が出るケースもありました。
いま現在の中国の経済状況は、以前なら「引き締め」に転じる一歩手前まで来ていると私はみていますが、危機的な事態に対する切れ味鋭い措置が講じられている気配はありません。むろん、対策を打ち出す段階ではないと党中央が現状を楽観視しているとは考えにくいです。
手を打ちたくても打たせないよう暗躍している強力な政治勢力が存在しているか、実は措置を講じてはいるものの現場レベルではそれが有名無実化されているか、のどちらかではないかと思います。これは経済政策という話題ながら、実質的には政治の問題ですね。
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その政治についていうと、中国における事実上の最高意思決定機関は党中央政治局常務委員会です。胡錦涛や温家宝をはじめとするこの組織のメンバーが地方視察などをやり始めると「そろそろだな」ということになります。「三中全会」(党第17期中央委員会第三次全体会議)の開催間近か、ということです。
経済に対する党中央の措置についてはその前に根回しをほぼ終えてひな形が完成し、「三中全会」で大方向が示されるのではないかと。それに引き続き温家宝が中央政府である国務院の会議を主宰して具体的内容を打ち出す形になります。
要するに、「三中全会」が間近いという気配が漂って来ない、この重要会議がなかなか開催されない……のであれば中で割れている可能性があり、時間が経てば経つほど必要な対策を打つ時機を失することとなります。経済問題だけでなく、上述したような「怖いのは暴落ではなく逆ギレ」という深刻な社会問題が都市単位で発生しかねません。
兆候を探るという意味では、新華社のメインニュースで現在北京で開催中のパラリンピックがCPIやPPI統計速報を脇に追いやって大きく扱われているようではダメです。党高官の視察報道がチラホラと出るようになれば政治の季節到来、ということになるかと思います。
まあ、現状に照らしていえば中国経済のハードランディングは不可避ではないでしょうか。胴体着陸は確実。あとは炎上するか機体が損壊するかという程度問題になるでしょう。……もっとも、胴体着陸を「ソフトランディングに成功」と強弁する大本営発表になるかも知れませんね。
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★★★これ、なかなかイイです★★★
近くでコーヒーを飲むついでに買って読んだら意外に勉強になりました。