小泉首相の靖国参拝。個人的信条によるものとは言いつつも、毎年毅然と参拝を続けることで「靖国」を取り巻く情勢がかくも変わるものなんですね。そのことを日本人に教えた、いや思い出させたという功績は大きいと思います。
参拝への賛否はどうあれ、これは外国が口出しする性質のものではない、という意識も生まれています。あの朝日と共同の世論調査で、それぞれ「参拝支持」が「不支持」を上回ったのですから。
事前調査では「不支持」が勝っていたことを思えば、参拝後に世論が一変したこの傾向は、中国や韓国の粘着かつ不必要な干渉が大きく貢献していることは明らかです。
香港紙『明報』(2005/10/19)がこの調査結果に「日本人の意見は分かれている」としか書けなかったのはさぞや悔しかったでしょう(笑)。中国国内メディアも扱いに困っている様子がうかがえます。「参拝支持/不支持」のところは解説なしで目立たせずに流して、内閣支持率が微減したことを際立たせていたり。ご苦労様です。
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一方で中国や韓国といった基地外国家に対し、敢然と年1回の参拝を継続することで「譲れないものは譲れないのだ」という日本の姿勢を毅然と貫き、それを理解させたことも非常に重要だと思います。
これは「靖国」の件だけではないでしょう。中国や韓国が苦々しく受け入れるしかなかったのと同時に、日本あるいは日本人として毅然とした姿勢で信念を貫くことの大事さを私たちも学んだのです。後から振り返れば、これがある意味において戦後日本の転換点になるのかも知れません。それをリアルタイムに体験することができた私たちは幸運だと思います。
『人民日報』(2005/10/18)は評論員文章(論説委員による重要記事ようなもの)で靖国参拝について、
「これは人類の良知と国際的正義への挑戦だ」
とカッコよく書いていましたけど、反右派闘争、大躍進、その反動による全国的飢餓、そして文化大革命と続く中共政権の歩みこそ「人類の良知」を踏みにじる行為ではなかったでしょうか。
寸鉄を帯びぬ自国民に対し、戦車まで投入して流血の武力弾圧を行った1989年の天安門事件は正しく国際的正義への挑戦であり、その証拠に西側諸国から経済制裁を喰らっています。
……ともあれ、過去60年近く戦争と魔女裁判ばかりやって、いまなお一党独裁に軍拡一直線の軍国主義国家には言われたくはないですね。
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つい話が逸れました。要するに中国は華々しい論評が党中央の機関紙を飾ったりしたものの、所詮は口だけ。それもかなり抑制されており騒然たる雰囲気は生まれていません。
報復措置マダー?(AA略)というところですが、政府のリアクションとしては外相会談の先送りしかできませんでした。キャンセルではなく延期なのです。小泉首相の靖国参拝という中共政権にとっての大事件に対し、「それだけ?」とこちらが聞き返したくなるショボさではありませんか。口だけなのです。やろうと思えば王毅・駐日大使(腹話術の人形)を本国に呼び戻すことだってできるのに。
もちろんいま強硬策に出るのはリスクが高すぎる、という国内事情もある訳ですが、結局のところそれも利害調整や政治制度改革を無視した野方図な改革開放政策のツケであり、また一党独裁制のごく自然な帰結ともいえます。
ちょっと乱暴な物言いになりますが、靖国参拝で流れるような外相会談なら別にやらなくてもいいでしょう。
懸案の東シナ海ガス田紛争への影響がどうの、という向きもあるでしょうが、別に中国の許可が必要な訳でもなし、日本は日本の主張に則って試掘すればいいのです。ただ再三強調しているように、不測の事態に備えて自衛隊や海上保安庁がちゃんと働ける環境を整えてほしいのです。日本が試掘に動くことで不都合を感じれば、中国の方から接触してくるか、あるいは調停者が出てくるでしょう。
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どうも雑談めいてしまっていますが、これは「靖国」に関する中国側のリアクションが余りに少ないからです。ええもうネタ切れです。「中国民間保釣聯合会」などが北京の日本大使館前で「なんちゃってデモ」をやったことは前回ふれました。それが中国国内メディアで全く報じられていないことも書きました。
それに続く話題も「糞青」(自称愛国者の反日教徒)や「珍獣」(プロ化した糞青)になるのですが、やはり反日サイトの総本山格で北京での「なんちゃってデモ」にも参加した「愛国者同盟網」における中心的メンバー・虞海沢が昨日(10月19日)午後、上海の日本総領事館へのデモを実施しようとして警官に連行されました(当夜に釈放)。
●香港紙『星島日報』(2005/10/20)
http://www.singtao.com/yesterday/chi/1020eo02.html
一方で上海市の焦揚・報道官は昨日の定例記者会見において、現時点では市当局にデモの申請が出されてはいないと表明。反日気運が再び高まりつつある市民に対して冷静さを保ち、未許可デモに参加したりしないよう呼びかけています。「靖国問題」については、
「中国政府はすでに日本側に対し強い抗議を行っている。上海市党委員会と市政府は中央政府の立場を擁護するものである」
とのこと。「強い抗議」ですか(笑)。その「強い抗議」が余りにみすぼらしいから市民のフラストレーションがたまっているのかも知れませんよ。「反日気運」とは言い条、弱腰な中国政府にも鉾先は向いていると思いますが、如何でしょう。日本サイドにすれば外相会談が流れるのは織り込み済みでしょうけど、それを察することなく快哉を叫んでいるのなら大平楽ですね。
香港の親中紙『大公報』(2005/10/20)
http://www.takungpao.com/news/05/10/20/ZM-472557.htm
なお、糞青関連では広州市で抗議活動をやろうとした「広東愛国者志願網」に昨日警察の手が入り、掲示板が活動停止状態とのことです。
●広東愛国者志願論壇
http://www.gd918.org/x/index.asp
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実際のところ、中国国内では「靖国参拝」への直接的対応は外相会談を流すことで一段落しているように思います。現在はすでに「靖国参拝」に刺激された党上層部の暗闘、といった段階に入っているのではないでしょうか。これは先日閉幕した五中全会(党第16期第5次全体会議)以前から続いているものですが、「靖国参拝」で新たな要素が加わった部分もあるかと思います。
まず感じるのは「胡錦涛君、大丈夫?」ということです。それを象徴する出来事が2つ起きていますね。まずは北京の「なんちゃってデモ」、これをやらせたのに中国国内のメディアは一切報じていません。中途半端です。私も合点がいかないのですが、アンチ胡錦涛で団結した諸派連合や対日強硬派に配慮した一種のガス抜きでしょうか。「中国民間保釣連合会」や「愛国者同盟網」の「飼い主」が胡錦涛総書記に配慮された側にいるのだろうとは思います。ただガス抜きにしてもこの扱いはかなり中途半端な気がしますけど……。
もうひとつは前回紹介した江沢民出現報道です。こういう異常な報道が新華社から流れてしまうこと自体、胡錦涛の脇の甘さを露呈しているように思います。同時に、曹剛川・中央軍事委副主席(国防部長を兼務)や中央軍事委のメンバー2人が江沢民に従っていたことで、胡錦涛が制服組を掌握し切れていないことも示唆していますね。
軍部が小泉首相の靖国参拝に相当ムカついていることは、人民解放軍の機関紙『解放日報』がこれを厳しく批判した署名論評をわざわざ掲載したことでも明らかです。
http://www.chinamil.com.cn/site1/xwpdxw/2005-10/19/content_319527.htm
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しかし目下のところ、胡錦涛はこれ以上事態を複雑にしたくはないでしょう。終始自分のペースで事が運べたとは言い難い「五中全会」ではありますが、そこで採択された胡錦涛オリジナルの「調和社会の実現」や、独自色を打ち出した「十一五」(第11次五カ年規格)に一意専心、邁進したい。
そんなときに「靖国」の余波が国内に及んで反日騒動が再燃するのは困りますし、軍部に東シナ海ガス田紛争の現場近くなどで再び示威行動のような武断的アクションに出られても困る。そこで胡錦涛は少なくともいま暫くは大人しくしているよう軍部を必死に説得しているのではないでしょうか。あるいは、それに対する軍部の反発が「江沢民報道」という形で表れたのかも知れません。
その折も折、温家宝首相が10月8日、「五中全会」の最終日に「十一五」についての説明を行った、という記事が「新華網」などに出ました。昨日のことです。
http://news.xinhuanet.com/politics/2005-10/19/content_3648236.htm
これは「五中全会公報」などとは比較にならないほど長文なので私はまだ読んでいませんが、香港紙によると各地方政府、すなわち全体より地元の利益を優先しようとする全国の「諸侯」に対し、中央政府に服従するよう警告した内容のもののようです。
●『星島日報』(2005/10/20)
http://www.singtao.com/yesterday/chi/1020eo03.html
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もともと基盤が強いとはいえない胡錦涛政権ですが、「靖国参拝」によって軍主流派との関係が微妙になるのではないかという懸念が出てきました。その「靖国」にしても、今回はメディアによる大がかりな反発キャンペーンを発動することも控えるほどです。国民を無用に刺激することを恐れている。むろんそれは現在の社会状況を反映したものです。そこまできてしまった、ということなのでしょう。
中国側に動きがなければ、「靖国」ネタはこれで打ち止めということになるかと思います。呆気ないようでもありますが、いまの中共政権にとってはこれが精一杯、ということでしょう。今後は旧正月前までの期間、「調和社会」という空虚なスローガンが「人民内部の矛盾」によってどれだけ暴かれるかに注目したいところです。
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