前回に引き続き大学絡みのニュースなんですが、今回は卒業後の話です。大学ネタに関しては素材が豊富で、どれから手をつけようか迷うほどです。
日本でも報道されたニュースもあります。
●就職率に水増し疑惑 中国、大学生の就職難で(共同通信)
http://flash24.kyodo.co.jp/?MID=MRO&PG=STORY&NGID=intl&NWID=2005022201001607
で、本当はこの記事を遡上にと考えていたんですけど、「就職難」つながりで資料を集めていたらもっと面白いものがあったので、今回はそちらの方を。
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●大卒者に激増する「傍老族」、富の偏在という歪んだ社会を象徴
http://finance.sina.com.cn/xiaofei/shenghuo/20050222/10061373572.shtml
前回、中国の大学で貧乏学生と金持ち学生の二極分化が進行していると紹介しましたが、これは金持ち学生の話です。
●蝶よ花よと育てられた「小皇帝」(一人っ子)世代
●親に経済的余裕がある
●潤沢な仕送りに頼って贅沢三昧の大学生活
●でも大学新卒者は就職難!
……という流れになれば、必ず出てきそうなものじゃないですか。ええ、果たせるかな出てきましたよ。ニートです。特に大都市圏で増えているようです。
それでは記事をかいつまんで……と思ったのですが、内容が濃くなかなか読みごたえのある面白い記事だったので全訳してみました。例によって翻訳の精度は期待しないで下さい。
元ネタは今日の『市場報』(2005/02/22)、これを新浪網が即日転載したものです。
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●大卒者に激増する「傍老族」、富の偏在という歪んだ社会を象徴
(『市場報』2005/02/22)
就業圧力の増大は数多くの富裕層の大学生を家でブラブラさせるようになった。挑戦することを恐れ、社会から脱落してしまうこの一群「傍老族」がいま、懸念されるようになりつつある。
■就職難と就職忌避
旧正月が終わり、大学4年生による就職活動のピークがまた巡ってきた。ここ数年、大学卒業者数が増加の一途をたどるにつれ、就職難が多くの新卒者にとって頭を悩ませる問題となっている。だが多くの学生が就職難を嘆く一方で、仕事に就こうとしない卒業生の数が密やかに増えている。大学時代の専攻を深めようとする一部の学生を除けば、相当数の学生が家でブラブラすることを選び、就職しようとする意欲を持たずにいる。衣食住は全て親頼みだ。
こうした一群の出現に少なからずの経済学者や社会学者が関心を持ち、この現象を社会的資源を浪費させ、同時に社会の負担を増加させるものだとみた。そして、この一群に対して「傍老族」(親に寄りかかる者たち)という呼び名が生まれた。
就職して2年になる大卒者の話によると、彼女の在学当時の同級生の間でも仕事に就かないという現象が一般的で、卒業後2年を経てもなお無職のままだという。こうした同級生たちについてこの女性は、
「あれは仕事がみつからないんじゃなくて、みんな社会人になりたくないってこと。親の方も経済的に余裕があるから、急いで仕事に就く必要もないし。中には親に言われて何かの課程に参加したり、外国語や別の専門を学んでいる人もいるけど、これは充電みたいなものでしょ」
同窓生の見方に比べて、親の気持ちは随分違うようだ。ある「傍老族」の母親は息子について心配で仕方がないといった様子で語る。
「うちの息子は卒業してから一日中ブラブラしているんですよ。いくつか仕事を試してみたんですけど、あれが不満だこれが不満だで。いまは毎日インターネットをするか長電話するか、それでなければ外に遊びに出かけてますよ。同じクラスの子たちが社会人になって1年ちょっと、みんな頑張っているのに……。本当に心配なんですけど、息子は一向に慌てる様子もなくて」
■就職浪人のケースも
「傍老族」はここ数年増加する傾向にあり、特に北京や上海などの大都市ではこの現象が顕著になっている。いくつかの大学の就業指導センターにあたってみたところ、今年の新卒者のうち就職先を確保した学生は70%。残り30%の学生のうち、少なくとも1割の学生がしばらく就職活動をしない意向だという。
しかし一部の大学の在学生たちは、現在大学側が発表している就業率はある程度水増しされたものだと証言している。学校側は新卒者の就職率には神経質になっており、就職先のない学生はは大学の意向で雇用契約(訳者注・形式だけ)を結んで、あとは家でゴロゴロしているというのだ。このケースも含めれば、「傍老族」が新卒者に占める割合はより高いものとなる。
中国人民大学労働人事学院の2004年における新卒者約120名のうち、就職しなかった者は18名。このうち何人かは出国する予定(訳者注・留学など)だが、しばらく就職活動を行うつもりが全くない者も何人かいる。「何年か待てば仕事も探しやすくなる筈」というのが「傍老族」の一般的な考え方のようだ。
だが雇用する側は、「傍老族」という特殊な一群について厳しい見方をしている。
「『傍老族』なんて要らないですよ」
とは、某社の孫社長。会社側が求人に際して第一に敬遠するのが、新卒時に就職活動に力を入れない、自由で散漫なこの種の大卒者だという。
北京地下鉄科学研究所の人事部門に勤める董氏は、
「そういう卒業生は就職活動に対する積極さに欠けていて、就職しても楽ばかりしたがって苦労を嫌う」
と話す。大学4年生は早くから就職に備えておくべきで、充電期間なんて言っている人は自分に自信がないだけ、というのが董氏の見方だ。また、ある程度働いたら留学する計画で、腰かけのつもりで就職しようとする者もいるが、そういう人を採用すれば、会社に人的コスト面での損失をもたらすだろう、とも指摘している。
■背景には富の偏在という歪んだ経済成長
「傍老族」とて、いつまでも親に頼っていられる訳ではない。北京市朝陽区人材交流センターの陳氏は、数年後にはこの一群がいくつかに枝分かれするだろうと予測する。一部の「傍老族」は留学に出され、あるいは親の力で就職する。そのどちらでもない者は、長期間社会から離れてしまっているため、仕事を探そうにも思うような就職先は見つからないだろう、というものだ。
少なからずの学者は、「傍老族」という現象が出現した主な原因は、収入格差が広がるばかりの、富が偏在するという歪んだ成長にあるとみている。恵まれた家に育った若者は働かなくても衣食住に不安を感じることがなく、しかも小さいころから贅沢三昧で育てられ、それに慣れてしまっている。就職したとしてもその収入では従来通りの消費生活を維持するには足りない。それならいっそ、ということで親のスネをかじり続ける。これについて中国社会科学院社会学研究所の樊平・研究員は、
「『傍老族』はたいてい経済的条件のいい家庭に育っているから、両親の稼ぎに頼っても衣食に困らない生活を続けることができる。社会の中で一部の人の富が急速に成長し、その家庭あるいは家族のライフスタイルに影響を与えるまでになっている。『傍老族』現象はそれを示すものだ」
と指摘。「こういう人たちは仕事に就くか、就かないでいるかを選択する機会、条件そして資産がある」とした。
一方で別の見方をする専門家もいる。「就職しない大学生」という現象には就職難と大学側の学生募集枠拡大という背景もあるので、大袈裟に騒ぐべきではない、というものだ。
中国人民大学労働人事学院の易定紅・副教授は、「傍老族」の出現とその層の拡大はごく正常な現象だとする。一般に有名校の学生は仕事条件に対する期待感と要求が高めで、特に本科生の募集枠が拡大されて以降、就職市場における求人数が新卒者の需要に追い付かなくなっている。このため、恵まれた家庭に育った学生が仕事に就かないケースも増えているのだという。
ではもし働かないままの生活を続けていく「傍老族」が出ればどうなるのだろうか?樊研究員の見方は次のようなものだ。
「もし家庭の経済的状況が変化するか、子供の躾に対する親の考え方に変化が起きれば、『傍老族』も自分から、あるいはやむを得ず、社会での競争や生存するための環境に適応しようとするようになる」
樊研究員はまた、そのことが社会の不安定要因を増やすことにはならないが、そういう家庭では価値観についての考え方の違いが際立ち、激しくぶつかり合うようなこともあるだろうとの考えを示した。
http://finance.sina.com.cn/xiaofei/shenghuo/20050222/10061373572.shtml
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とうとうニートまで出てきました。記事の指摘する通り、富の偏在、拡大する一方の貧富の差が最大の背景でしょう。大学の募集枠拡大に求人数が追い付かず、構造的就職難を生んでいるのも原因、という指摘もあり、色々考えさせられます。
ひとつだけ記事に不足を言うとしたら、数字があまり出てこないところでしょうか。可処分所得がどのくらいの家庭になると「傍老族」を養えるのか、そのあたりへのアプローチが欲しかったところです。……でもまあ新現象を取り上げた記事ですから贅沢を言うのはやめて、経済学者・社会学者の研究発表を待つことにしましょう。
「傍老族」が就職すればたぶんパラサイト・シングルになりそうですね。いま風の言葉を使えば「傍老打工仔」てな感じでしょうか。「打工仔」は広東語ですけど、「新華網」あたりでも普通に使われているので北京語に定着したようです(ああ嘆かわしい)。
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それにしてもニートが出現するのですから驚きですね。中国も豊かになったものです。ごく一部だけは。
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