暑いです。いよいよ夏本番ですね。「中共人」たちにとってこの夏は、秋に重要会議「五中全会」を控えた権力闘争の季節ということになります。
重要会議といっても人事に関しては一種のセレモニーであって、その大勢は開催までに決まっているものです。「権力闘争」が禍々しい表現であるなら、まあ複数の政治勢力による主導権争い、といったところでしょうか。
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もう少し寝かせて……と思っていたんですが、暑いんでもう使っちゃいましょう。前回のコメント欄で「Unknown」さん御指摘の、反体制系ニュースサイト「大紀元」が掲載した記事。その前半部は昨日付(7月20日)の香港紙『蘋果日報』に出ていた「盡論中國」という最近スタートしたコラムを転載したものです。
●浙江省で農民騒乱が続発、「太子党」習近平の前途はどうなる?(大紀元b5)
http://www.epochtimes.com/b5/5/7/20/n991775.htm
「太子党」は中国語ですが、「太子」とはプリンスのこと。つまり先代が中共の有力者クラスだった「二世」の連中で、いまや若手格ないし中堅クラスに育ったその面々が、党内において一派を形成しているということです。10年以上チナヲチから離れていた私にとっては、へぇーへぇーへぇー、てなもんです。そんな派閥が出来上がっているとは知りませんでした。
だいたい習近平なんて耳にしてもピンと来ません。その父親で中共の元老格であり、全人代(全国人民代表大会)常務委員会副委員長などを歴任した習仲勲なら懐かしい名前なんですけど。
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それはともかく、この日の『蘋果日報』(2005/07/20)は前回紹介した浙江省新昌県の「21世紀型暴動」(土地強制収用拒否などの従来型ではなく、環境汚染に憤激して立ち上がるというパターン)を大々的に取り上げていて、関連記事を5本並べるという気合の入れ方でした。
で、その最後の5番目に登場するのが「大紀元」に転載された上記「盡論中國」で、今回は習近平を俎上に載せているためトリを務めることになったのでしょう。……とは、習近平の現在のポストが浙江省党委員会書記、つまり浙江省のトップなのです。
「それにしても、こういう公害騒動は規模の大小こそあれ、恐らく中国のかなりの地域で発生していると思われるのですが、なぜか浙江省のニュースばかりが拾い上げられ、大きく扱われてしまっているのはどうしたことでしょう」
……と前回私は書きましたが、要するに画水鎮(2005/04/10)、煤山鎮(2005/06/26)、そして今回の新昌県(2005/07/17)という浙江省での暴動3連発が習近平の出世に響くものかどうか、それを「盡論中國」が談じているのです。
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中共の派閥の存在とか権力闘争といったものは、表面化しないだけに色々憶測なり邪推なりができて楽しいものです。香港の政論誌に人物・派閥相関図みたいなものが掲載されたりもします。今回の「盡論中國」はそれに近い作業を行ってくれています。かいつまんで訳しますと、
●温家宝・首相は任期満了後、続投するつもりがないと噂されている。つまり首相のポストが空くことになる。
●その椅子をめぐって胡錦涛・総書記直系の「団派」(胡錦涛の出身母体である共青団=共産主義青年団系の人脈)と習近平ら「太子党」が暗闘している。
●首相の後継人事を巡る争いは、その大筋が決まる次期党大会(2007年)まで続くとみられる。習近平はその有力候補の一人。
●ライバルとしては「団派」の李克強(遼寧省党委書記)や李源潮(江蘇省党委書記)、それに同じ「太子党」の王岐山(北京市長)、兪正聲(湖北省党委書記)、薄煕来(商務部長)らがいる。
●問題は「農民暴動3連発」が習近平の経歴にとって傷となるかどうか。
●暴動が起きてしまったことに着目するとマイナスのようにもみえるが、習近平は3回起きた暴動を3回とも武装警察や防暴警察(機動隊)で鎮圧している。チベットで発生した騒乱を武力鎮圧したのが一大飛躍のきっかけとなった胡錦涛の前例を思えば、あながちマイナスとばかりもいえないが、さて……。
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このコラム、結論づける部分が煮え切らないのは、ひとつには次期首相人事を論ずるには時期尚早で情報不足ということがあるでしょう。
それにしても温家宝は続投しないという噂があるのですか。それが事実なら、実は胡錦涛を追い出して総書記の座に就くつもりだったりして(笑)。
あるいは、胡錦涛を失脚させて温家宝を担ごう、その方が万事やりやすい……と考えている政治勢力がいるのかも知れません。
まあ与太話はこのくらいにして、現実の動きを振り返ってみることにしましょう。
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この半年の中共上層部は、胡錦涛系の「主流派」(と一応呼んでおきます)に対し、対外強硬派を核とし、そこに地方のボスやアンチ胡錦涛勢力などが結集した「抵抗勢力」が揺さぶりをかける、といった主導権争いで終始した観があります。
「主流派」と「抵抗勢力」の争いは、例えば「反日」に対する温度差に表れていましたね。ネット署名(日本の常任理事国入り反対)などで「ほどよい反日」を目指した胡錦涛らに対し、「抵抗勢力」は「反日」を煽りに煽って、ネット署名を街頭署名活動に、さらにはデモにまで発展させることに成功しました。
ところが煽り過ぎてプチ暴動が発生してしまい、気が付けば週末ごとに全国各地でデモなどの活動が実施される危険な状況に。「反日」を主題に集まった民衆がいつの間にか中共政権に鉾先を向けていた……という可能性も十分予測される社会状況(反日とは無関係に暴動が発生している)です。
そうなると、綱引きをしていた両派とも「中共人」の集まりであることを最優先します。中共政権の存続が大前提。それを崩される訳にはいきませんから、双方ともここで慌てて刀を収め、とりあえず手打ちを行ってヒートアップしていた「反日」気運の沈静化に努めました。当時のメディアの掌握状況からみて、この「手打ち」が行われた時点では胡錦涛ら「主流派」の優勢勝ちだったように思います。
ただ、あくまでも優勢勝ちです。「抵抗勢力」も力を大きく削がれたりした訳ではありませんから、機を捉えて巻き返しに出ます。それについては当ブログもリアルタイムで追いかけましたが、結局訪日した呉儀・副首相が小泉首相との会談をドタキャンして繰り上げ帰国した前後が分水嶺で、そのあとは「抵抗勢力」、特に対外強硬派が他の分野はともかく、台湾問題や対日・対米外交においては主導権を握っているようにみえます。
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一例として、朱成虎・少将の物議を醸した発言が挙げられます。
「米国が中国の主権の及ぶ場所(台湾や中国の艦艇や航空機を含む)を攻撃すれば、中国は西安から東を全て潰される覚悟で核兵器による反撃を行う」
とかいう話でしたか、大体そういう趣旨だったかと思います。この発言には米国が当然ながら強く反発し、中共当局も外交部が「あれは個人的発言」とフォローしたりしていましたが、つまるところ放言だったとしても、それを許容する空気が党上層部や軍内部にあった、ということでしょう。
香港の親中紙である『香港文匯報』、親中紙だけに中共に不利となる報道は一切やらない新聞ですが、同紙も朱成虎発言をすぐに報じていました。
ちょうどあれです。以前なら一発レッドで辞任に追い込まれる筈の「放言」を繰り返す中山・文科相が一向にクビになる気配がない。それと同じことです。主導権が移った気配は日本との摩擦面での硬質な対応だけでなく、そういう事象からも感じとることができると思います。
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実のところ朱成虎発言にしても、軍内部、若手将校から将官クラスに至るまで、共鳴する向きが少なくなかったのではないのでしょうか。胡錦涛は党中央軍事委員会主席として形式的には軍権を握っているものの、そういう如何にも軍人らしい、硬直的な思考・行動に走りがちな「危険な連中」を手なずけていかなければならず、それができなければ奪われたイニシアチブを取り戻すこともできません。
で、姑息ながら実戦経験のない江沢民が軍部を手なずけるために行った手法を真似ることになります。大校(大佐)は少将に、少将は中将にという「昇進」あるいは「ポスト昇格」の大盤振る舞いで恩に着せようというものです。建軍節(8月1日)が間近いという絶好のタイミングでもあります。
実例はいくらでもあります。例えば南京軍区。『香港文匯報』(※1)によれば、台湾への武力侵攻時には主戦力となるであろう第31軍の司令官をかつて務め、現在は同軍区参謀長の座にある趙克石少将が中将に昇進し、第31軍の李長才・政治委員は同軍区政治部主任に昇格。前任者の高武生はこれに伴って同軍区副政治委員に昇格しています。このほか7月14日に同軍区で行われた昇進式典では12名の将校が少将に昇進しています。
広州軍区でも同様の式典が開かれ、軍区参謀長の房峰輝・少将が中将に昇進したのをはじめ、韓偉、楊星球ら6名が大校から少将へと階級が改まっています。
公安(警察)と人民解放軍に両属する武装警察(武警)になるともっと派手です。これも『香港文匯報』(※2)の報道に拠ったものですが、息中朝(武警部隊副司令員)、霍毅(武警部隊参謀長)、秦懐保(武警部隊政治部主任)という3人の少将が中将に昇進したほか、合計23名を一挙に少将へと昇格させています。
『香港文匯報』は消息筋の話として、「八一建軍節」を前に軍部でもさらなる昇進人事が行われる可能性があると報じています。香港における親中紙筆頭格である同紙の消息筋ですから、きっとその通りになるのでしょう。
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話題があちこちに飛んでしまいましたが、要するに「中共人」たちの「熱い夏」がやってきたということです。上述した軍・武警の昇格人事は多少の例外もあるでしょうが、基本的には胡錦涛ら「主流派」の巻き返し、と捉えていいのではないかと思います。
「熱い夏」は、同時に「キナ臭い夏」になるかも知れません。抗日なんたら60周年に「八・一五靖国参拝」(期待)が絡んで、デモなどの形で再び「反日」が政争の具となる可能性があります。一方でそれとは全く無関係に、都市暴動や農民暴動、それに労働争議などが相次ぐことでしょう。
さらに最後に無理を承知で押し込みますが(汗)、昨日(7月20日)発表された今年上半期における中国のGDP成長率は9.5%増。本来の目標値が8%で、緩やかに減速しつつ経済を「軟着陸」(ソフトランディング)させるというシナリオだった筈です。それなのに9.5%増というのは恐らく「逆・水増し」、つまり数字を膨らませているのではなく、実際は2桁成長ぐらいなのを9.5%まで抑えて発表しているのかも知れません。
「9.5%増」が真実でもいいのです。目標値に比べればまだ走り過ぎており、これは中央政府(国務院)によるマクロコントロールが十分に機能していないことの表れといっていいでしょう。それは取りも直さず、中央の統制力の低下を示すものでもあります。
「諸侯」と表現されるほど割拠志向の強い各地方政府は、一応中央に遠慮する素振りを示しつつも、実際には今なお開発(GDP成長率の追求)に血道を上げているのでしょうか。……昨年から全く改善されていない失業率(今年上半期は4.2%)なども含め、これもまた歴史劇を賑わせる要因のひとつとなることでしょう。
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【※1】http://www.wenweipo.com/news.phtml?news_id=CH0507200012&cat=002CH
【※2】http://www.wenweipo.com/news.phtml?news_id=CH0507190024&cat=002CH
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