上海阿姐のgooブログ

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中国語版ミュージカル「オペラ座の怪人」2023年5月上海大劇院で開演

2023年05月31日 | エンタメの日記
いま上海で中国語版ミュージカル「オペラ座の怪人」が上演されています。2023年5月2日から6月4日まで上海大劇院で40回上演された後、中国全土の都市を巡演し、年内に約200回上演される予定です。
ミュージカル「オペラ座の怪人」(アンドリュー・ロイド・ウェバー作)の中国人キャストによる中国語版。中国語タイトル「劇院魅影」(剧院魅影) 2023年5月2日から6月4日まで上海大劇院で上演。
 

中国語版「オペラ座の怪人」は2018年にプロジェクトが発足し、英国の制作スタッフの指導のもと、楽曲、歌詞、演出、セット、衣装など原版に忠実に作られたとされています。
「オペラ座の怪人」は巨大なシャンデリア、大きな階段など豪華な舞台セットが有名で、一定の規模と設備を備えた劇場でなければ上演できないと言われています。上海大劇院は3階建て、1631席の劇場です。上海公演終了後、深セン、佛山、広州、アモイ、南京、杭州、北京、長沙、成都、重慶を巡演しますが、巡演先でも3階建ての大きな劇場が選ばれており、いつの間にか中国各地に大劇場が建設されていることに驚きます。

~メインの3役はトリプルキャスト~
「オペラ座の怪人」(上海公演)はファントム、クリスティーヌ、ラウル子爵の3役がトリプルキャストで上演されました。
ファントム:阿云嘎(アユンガ)、劉令飛、何亮辰
クリスティーヌ: 楊陳秀一、潘杭苇、林韶
ラウル子爵:趙超凡、馬添龍、李宸希

固定の組合せが3パターンあるわけではなく、3役×トリプルキャストのシャッフルです。
私が観た組み合せは、ファントム:劉令飛、クリスティーヌ:潘杭苇、ラウル子爵:李宸希でした。


~中国のファントム・「魅影」~
「ファントム」は中国語では「魅影」と訳されています。上海公演で「魅影」を演じたのは阿云嘎(アユンガ)、劉令飛、何亮辰です。

阿云嘎(アユンガ):1989年生まれ、内モンゴル省オルドス出身。北京舞踏学院ミュージカル学科卒業。名前と容貌から少数民族(モンゴル族)であることが容易に分かります。2018年に大ヒットした声楽バラエティ「声入人心1」に参加し大人気に。番組成功の功労者の1人であると同時に中国ミュージカルのメジャー化に大きく貢献しました。現在中国で最も有名で最も集客力のあるミュージカル俳優です。


劉令飛(リウ・リンフェイ) 1985年生まれ、上海出身。上海音楽学院ミュージカル学科卒業。上海ミュージカル界を代表するベテランスター俳優。「声入人心1」「声入人心2」「愛楽之都」などの声楽バラエティ番組に出たことはありません。いわゆるテレビメディアにはあまり出ない舞台人です。

何亮辰 1992年生まれ、四川出身、声楽バラエティ番組「声入人心2」に参加。四川音楽学院、ジェノヴァ音楽院ニコロ・パガニーニで学ぶ。イタリアでオペラの舞台に立った経験がある。身長は186cmと言われています。配役選考段階ではファントム役とラウル子爵の二役の選考に参加していたけれど、最終的にファントムに選ばれたそうです。

ヒロイン・クリスティーヌを演じる3名(楊陳秀一、潘杭苇、林韶)は声楽・オペラ畑の歌手で、まったく知らない人たちでした。普段の商業ミュージカルで名前を見たことがない人たちばかりです。

~チケットと客層~

「オペラ座の怪人」中国語版のチケットは、他のミュージカルや演劇と比べてかなり高額に設定されています。
1階席:1280元(約25600円)、1080元(約21600円)、880元(約17600円) 2階席:680元(約13600円) 3階席:480元(約9600円)、280元(約5600円)
(5月2日〜5月4日の4公演はプレビュー公演で、880元、680元、580元、480元、380元、280元)
席種は細かく分かれていますが、席数が多く比較的取りやすいのが1080元(約21600円)のチケットです。

8月に帝国劇場で上演されるミュージカル「ムーラン・ルージュ」のチケットが高いと言われていますが、現在の為替レートで計算すると、東京「ムーラン・ルージュ」よりも上海「オペラ座の怪人」の方がチケット価格が2~3割高い計算になります。
「オペラ座の怪人」は超メジャータイトルだけあり客層の幅が広かったです。
小学生くらいの子どを連れて来ている人や、カップル、若い男性同士のグループ、中高年の夫婦などさまざまで劇場は賑やかでした。
チケットは安くありませんが、1年に1回くらいしかミュージカルを観ない、もしくはこれまで1度もミュージカルを観たことがないのであれば、「オペラ座の怪人」を観るために2万円くらい払うだろうなと思います。
「トレンド体験」として観劇する人が多いためか、盗撮や観劇中の私語が多く、マナーが良いとはいえませんでした。


~キャストスケジュール未発表でチケットを発売~

「オペラ座の怪人」中国語版の上演日程が発表されたのは2022年12月26日のことでした。
その頃中国はコロナ大流行中で、まだ多くの人がコロナから回復しておらず、先のことなどあまり考える余裕がありませんでした。
そんなとき、主催者は「2023年5月2日から6月4日まで上海大劇院で中国語版「オペラ座の怪人」を上演します。チケットは12月30日から発売します。」と宣言しました。
その時点でキャストは明かされていませんでした。

主役のファントムに関しては、前からキャスト予想が出回っており、チケット発売日である12月30日に正式にキャストが発表されました。
しかし、どの日程を誰が演じるかのスケジュールは発表されず、ファントム以外のキャストは名前も明かされませんでした。
キャストも分からないのにこんな高額のチケットを誰が買うんだ?と戸惑いの声が上がりましたが、「オペラ座の怪人」のネームバリューは絶大で、意外にもチケットは勢い良く売れていきました。

クリスティーヌ役はキャストが誰かまったく分からないままチケットが発売になりました。
これは、中国の商業ミュージカルが男性俳優ファンに依存していることの表れとも言えます。中国ミュージカル界には「スター俳優」はいますが、「スター女優」はいまのところいないと思います。ただし、女優は総じて実力派です。男性俳優よりも生存競争が厳しく、スポットが当たるチャンスも少ないです。

結局、キャストスケジュールはいつまでたっても発表されず、発表されたのは開演の1週間前・4月28日(金)でした。
しかも、翌週分のキャストスケジュールしか発表されず、毎週金曜日に翌週のスケジュールを発表するという前代未聞の方式がとられました。
このやり方にファンは当然文句を言いますが、文句を言ってもチケットはどんどん売れていきます。
メインキャストを発表せずにチケットを発売するのはクラウドファンディングと同じじゃないかと相当非難されていましたが、結果的にいうと、このやり方はダフ屋の排除に一役買ったともいえます。また、単価の高いチケットをまんべんなく売りさばくことにも成功し、上海公演は全公演ほぼ完売でした。

ファントムは阿云嘎(アユンガ)、劉令飛、何亮辰のトリプルキャストですが、圧倒的に集客力があるのが阿云嘎(アユンガ)です。
一般知名度が突出しているので、単純に「アユンガが見たい」と思う人が多いのです。
事前にキャストスケジュールを発表するという普通のやり方だと、人気キャストの公演が激戦となり、ダフ屋に頼ることになります。
しかし、ギリギリまでキャストが明かされないので、客は諦めて当てずっぽうで買うしかなく、トリプルキャストなので当てずっぽうでも3公演買えば見たいキャストに当たるかもという気持ちになります。
結果的に、これまでダフ屋に流れていたお金が人気がやや落ちるキャストの公演に流れ込み、主催者にとっては良い循環が生まれたともいえます。
もちろん「オペラ座の怪人」という超メジャー作品であるからこそできたことです。
また、幕が上がってからの評判も良く、チケットはどんどん入手難になるので、観客も「とにかくチケットを確保しておいてよかった」という気持ちに落ち着きます。

劇場内に設置された阿云嘎(アユンガ)とのフォトスポット


カーテンコール。俳優が出てくるだけです。舞台セットも撤去されており、普段の中国ミュージカルによくある長くて豪華なカーテンコールはありません。


衣装や舞台セットは本当に美しく豪華でした。
主役から脇役に至るまで、歌唱力は申し分ないです。全体的に役者さんの背が高いので、豪華な衣装もよく映えます。
原版の演出に沿っているのか、中国ミュージカルには珍しいロングキスシーンもありました。
ただ、演技の面では役者同士の感情的なぶつかり合いが不足していると感じます。極端な言い方をすると、舞台の上にすごく歌が上手い他人同士が並んでいると感じるときがあります。

ゼロコロナ政策が終了し、上海では海外招聘ミュージカルの公演が復活しています。現在上海文化広場ではフランス版「ロミオとジュリエット」が上演中で、この後、仏版「レミゼラブル」、仏版「ノートルダム・ド・パリ」、英ミュージカル「マチルダ」などが2023年中に上演される予定です。
コロナの前は蜷川幸雄「ムサシ」が上海で上演されたこともありました(2018年3月)。また、ネルケプランニングの2.5次元ミュージカルは頻繁に上海公演を組み込んでいました。
もっと過去に遡れば、宝塚が上海や北京に来たこともあります。もし「スパイ・ファミリー」や「王家の紋章」などが上海で上演されればさぞかし盛り上がるだろうと思います。

なお、中国では日本の小説を原作とする作品が多数舞台化されています。
中国で人気の東野圭吾作品は「白夜行」「ナミヤ雑貨店の奇蹟」「放課後」「祈りの幕が下りる時」「回廊亭殺人事件」など数えきれないほど沢山舞台化されています。今年は「容疑者Xの献身」もミュージカル化される予定です。このほか、「嫌われ松子の一生」(原作:山田宗樹)や「マジック・アワー」(三谷幸喜)も中国で舞台化されます。
コメント (8)
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中国映画『宇宙探索編集部』~『流転の地球2』の裏で作られた秀逸なローカルSFファンタジー

2023年05月16日 | エンタメの日記
4月1日に中国劇場公開された映画『宇宙探索編集部』が非常に面白かったです。劇場公開前に国内外の映画祭で上映されており、多数の賞を受賞しています。1990年生まれの若手監督・脚本家により作られたセンスの良い中国映画です。
『宇宙探索編集部』(Journey to the West) 公開日:2023年4月1日 118分
監督:孔大山 監修:郭帆  主演:楊皓宇、艾麗婭、王一通、蒋奇明、盛晨晨


~あらすじ~
唐志軍は1980年代に創刊された科学雑誌『宇宙探索』の編集長。何十年も変わらないスタイルの雑誌は完全に時代遅れであるが、唐志軍は「地球以外にも文明世界は必ず存在する」と固く信じ、異星人からのメッセージを待ち続けている。雑誌社は経営に行き詰まり、精神病院の慰問の仕事なども受けているが大した収入にはならない。そんな中、唐志軍は旧型テレビのノイズ、四川の山間部の町で目撃された火の玉から異星人の接触を直感する。唐志軍は同僚、“読者”とともに北京の編集部を離れ、異星人の痕跡を追うため四川に向かう。

雑誌「宇宙探索」の編集長・唐志軍。「宇宙の専門家」として生きているが、まともな資金や設備はなく権威もない。ひたすら宇宙の力を信じ続けている。


唐志軍を演じた楊皓宇は舞台出身の俳優。1974年生まれで中年役を演じる年齢になってからドラマ・映画への出演が増えた実力派。

物語の鍵を握る謎めいた少年・孫一通。頭に持病があり前触れなく倒れるためか、調理用の鍋をかぶっている。唐志軍はその鍋が異星人からのメッセージを受取る役割を果たしていると思っている。山奥の村役場でラジオ放送を担当し、四川訛りで自作の詩を詠む。


孫一通役に扮した王一通(ワン・イートン)は映像作家(監督)で本作の脚本も担っています。
王一通:四川出身。西南大学新聞伝媒学院卒業。監督としてショートフィルムを多数制作。「宇宙探索編集部」では主要キャストで出演するとともに脚本も担う。郭帆監督の「流転の地球2」に出演している。本業は監督ですが、俳優として十分通用する眼力の持ち主。

映画の英語タイトルは「Journey to the West」(西方への旅)です。「宇宙探索」の編集部がある北京からみると四川は西側に位置し、四川は中国の西部に属します。撮影地は四川省の宜宾(イービン)、楽山、雅安、涼山地区などで、中国少数民族の一つ彝族(イ族)の文字が書かれた看板や民族衣装を着た地元民が出てくるシーンがあり、涼山のどこかであることが明確に分かります。
中国の場合、ドラマよりもこの種の実写映画の方が現実に近い風景が登場します。
ただし、実際には田舎だからといって素朴とは限らず、荒涼とした山奥でもスマホやWiFiの電波は届き、住民たちは現実的でドライです。


監督・孔大山(コン・ダーシャン)
四川伝媒学院卒業後、北京電影学院大学院に進む。在学中からショートフィルムを制作。
過去に公表されたプロフィールによると1990年生まれで今年33歳です。長編映画では「宇宙探索編集部」が初監督作品。
在学中に制作したショートフィルムをきっかけに映画監督郭帆と知り合い、郭帆監督作品「流転の地球2」(2023年1月公開)に補助監督・出演者として参加。

監修・郭帆(グオファン)
郭帆(グオファン)自身も1980年生まれの若い映画監督ですが、中国映画界で商業的に大成功を収めたヒットメーカーです。
代表作は中国SF大作映画「流転の地球」(2019年公開)、「流転の地球2」(2023年公開)。「流転の地球」は日本字幕付でNetflix配信中。
「宇宙探索編集部」では郭帆が監修を担い、本人役で出演もしています。
主要登場人物がわずか5名の映画ですが、カメラワーク、編集、特殊効果などは非常に洗練されており、監修者である郭帆がバックアップしているとみられます。
郭帆は本人役で出演。映画の小道具に使うために編集部に長年保管されていた年代物の宇宙服を安値で買取っていく。現実とフィクションがクロスオーバーするカメオ出演。


~興行収入~
「宇宙探索編集部」の興行収入は5月16日の時点で6667万元(日本円約12億円)です。
4月1日に公開されたばかりですが、5月9日から動画サイトでの配信が始まりました。劇場公開から1ヵ月余りで配信に踏み切るのはタイミングとしては早い方です。中国では「ロングラン」で収益を伸ばすというモデルは成立しにくく、早い段階で配信が始まります。

興行収入6667万元というのは、中国映画の興行収入としては微妙な数字です。
公開日が近接する他の作品と興行収入を比較すると、次のようになります(5月16日時点の累計)。
「忠犬ハチ公」(中国実写版)3月31日公開 2.87億元(約54億円)
「宇宙探索編集部」4月1日公開 6667万元(約12億円)
「名探偵コナン劇場版 ベイカー街の亡霊」4月4日公開 5643億元(約10億円)
「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」4月5日公開 1.64億元(約31億円)

興行収入を比較すると、同時期に公開された「名探偵コナン劇場版 ベイカー街の亡霊」とほぼ同じレベルです。
しかし、「ベイカー街の亡霊」は20年前に作られたアニメ映画の復刻上映で、それと同じレベルというのは喜ばしい成績とは思えません。
(コナンがすごすぎるとも言えますが・・・)
ですが、別の見方をすると、「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」の約半分の数字に達しています。
観衆の心理としては、評価が定まっているものには気前良くお金を払っても、未知のものには慎重になるので、新人監督のオリジナル実写映画が興行的に難しいのはどの国でも同じだと思います。

「宇宙探索編集部」はロッテルダム映画祭、香港映画祭、北京映画祭などで評価されており、もし日本で開催される映画祭に「アジア映画」として招待上映されれば歓迎されると思います。いわゆる映画祭向きの映画です。
中国映画には珍しく「生活保護」というキーワードが出てきたり、向精神薬の服用に関するシーンが出てきますが、いずれも洗練されたカメラワークの中でさらっと描かれています。
俳優陣の演技の上手さと哲学的で文芸性のある脚本によって、秀逸なファンタジー映画に仕上げられています。
北京から成都、四川省の山間部に入ってまた北京に戻るというリアルな世界軸で物語が進みますが、現実社会に対する風刺や批判的なメッセージはありません。同時に、国の主流価値観を提唱するような表現もありません。
「宇宙探索編集部」は「監督が撮りたい映画を撮っている」と感じられる数少ない中国映画で、全編を通じて宇宙と人類に対する夢とロマンに満ちた作品です。


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「すずめの戸締まり」「SLAM DUNK」日本アニメ映画の快挙と中国映画の不調

2023年05月07日 | エンタメの日記
2023年春、新海誠監督の「すずめの戸締まり」、スラムダンク映画版「THE FIRST SLAM DUNK」が中国でも公開され大ヒットしています。
「すずめの戸締まり」は5月7日現在興行収入約8億元(日本円約160億円)で、中国で劇場公開された日本映画の中で歴代最高額を記録しています。
これまでの歴代トップは2016年に公開された「君の名は。」の5.76億元でした。

4月20日に中国劇場公開された「スラムダンク」の興行収入は現在6.16億元(日本円約120億円)で健闘しています。
公開初日である4月20日(木)0時から始まる「初日最速上映」には沢山の観客が訪れ、世間を賑わせました。
中国では映画公開日の0時ちょうどに「初日最速上映」をスケジューリングする習慣があります。上海、北京、広州など都市部の映画館で多く行われます。
スラムダンクの場合、この「初日最速上映」があったのは、平日水曜日の夜12時でした。観客のほとんどが30代、40代前半の社会人で、まだ水曜日で明日は会社があるのに彼らの“青春”の象徴であるスラムダンクのため、真夜中の映画館に集結し各スクリーンを満席にしたことは社会ニュースにもなりました。
ただ、公開前の中国メディアの予測では、「スラムダンク」は「6億元は当然、10億元を狙える」と言われていました。
「初日最速上演」が盛り上がりすぎたこと、鑑賞マナーが良くないという問題もあり、リピート客は多くないという印象です。

「THE FIRST SLAM DUNK」(中国タイトル『灌籃高手』)2023年4月20日中国劇場公開。上海ではシネコンが入っているショッピングモールなどで派手な宣伝が行われました。






「すずめの戸締まり」は当初の予測を上回る成績を上げており、中国での新海誠映画の認知度と人気の高さが表れています。
「すずめの戸締まり」(中国タイトル『鈴芽之旅』)2023年3月24日中国劇場公開。中国公開に合わせて新海誠監督が訪中し、北京や上海での先行上映会に参加しています。


「すずめの戸締まり」も「スラムダンク」も日本映画としては記録を塗り替える大ヒットでです。
しかし、中国映画市場の規模は大雑把にいうと日本の約5倍です。
日本でいう記録的大ヒット「200億円超え」のポジションに立つには、中国では1000億円(約50億元)を超えなければなりません。
実際、2023年春節に公開された張芸謀監督作品「満江紅」は45.44億元、SF大作映画「流転の地球2」は40.28億元を記録しています。
「すずめの戸締まり」「スラムダンク」は日本アニメ映画としては快挙ですが、8億元、6億元という数字は、中国の映画市場規模の基準からすると、それほどの数字でもないといえます。
にもかかわらず、「日本アニメ映画が大健闘」という印象を持たれています。それは、中国映画が不調だからだと思います。
3月頃からの傾向として、中国映画の興行成績が全体的に伸びなくなっています。
いままでなら、話題性があってある程度面白い映画であれば、自然にお客さんが来て10億元(約200億円)くらい超えるのは珍しくありませんでした。
ところが、春節休みが終わり、仕事や学校が通常のペースで回りだす3月頃になると、街に人出は完全に戻っているものの、映画興行成績は振るわなくなってきました。
もうひとついうと、中国映画だけではなく、米国映画も不調です。
いま日本でヒットしている「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」(2023年4月5日中国公開)は中国ではまったく振るいませんでした。
他にも、中国人が大好きなはずのMARVEL映画「ガーディアンズ・オブ・ザ・ギャラクシー Vol. 3」(2023年5月5日中国公開)も客足があまり伸びません。
ただし、興行成績が振るわないからといって、作品が悪いとは限りません。実際、作品に対する悪評が聞こえてくるわけではないです。
ただ、「いままでなら簡単に売れていたものがあまり売れなくなった。」という現象が中国の映画市場でも起きています。しかも、コロナ規制から完全に自由になったいま。これは、消費嗜好自体が変化しているのかもしれないし、全体的な景気低迷の影響を受けているのかもしれません。
この1、2年、中国の映画のチケット料金が微妙に値上がりし、割高感が出てきました(中国の映画チケット料金は日本のような統一料金制ではありません)。
また、少し待てば映画はネット配信されるので、家で見る方が安いし気楽、2時間以上一つのことに集中するのはハードルが高いので、よほど好きな要素がなければ映画館に足が向かないのかもしれません。
中国映画の映像は非常にゴージャスですが、ストーリーや価値観の表現においてはパターンが決まっているので、映画を見るという意欲をかき立てられなくなっている可能性もあります。

日本アニメは中華圏で高い人気を誇るとはいえど、相対的にいえば「ニッチな市場」です。
「ニッチな市場」はコアなファンが多い上に、日本アニメ映画はコロナ規制に苦しんだ3年間でもクオリティを維持し、作品を作り続けてきました。
そのことが、中国を含む海外市場での健闘につながっているのではと思います。

GW(労働節連休)に合わせて公開された空軍ハイテク映画『長空之王』。王一博(ワンイーボー)が最新型戦闘機のテストに挑む若き空軍パイロットに扮します。GWの本命映画でしたが興行収入は6.21億元(約120億円)にとどまっています。


中国映画の興行収入をリアルタイムでチェックできるアプリ「灯塔」の2023年の中国映画興行ランキング。「灯塔」はアリババ系のビッグデータをもとに統計しています。1位から5位はすべて春節に公開された中国映画です。3月以降に公開された映画で10億元を超える作品が出てきていません。6位は「すずめの戸締まり」(鈴芽之旅、3月公開)。7位『保你平安』は3月公開の中国コメディ映画。8位『人生路不熟』はGW公開の中国コメディ映画。予想よりも健闘しています。9位が「スラムダンク」(灌籃高手)。2023年5月7日時点の統計なので順位は変動します。
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