上海阿姐のgooブログ

FC2ブログ「全民娯楽時代の到来~上海からアジア娯楽日記」の続きのブログです。

中国スマホ広告に参戦する新手のイケメン俳優たち~スマホ広告に登場する成功の象徴

2024年01月23日 | エンタメの日記
中国は恐らく世界で一番「国産スマホ」の競争が激しい国です。国産スマホとして、HUAWEI(ファーウェイ/華為/华为)、OPPO(オッポ)、Xiaomi(シャオミ/小米)、Vivo(ビボ)、honor(栄耀、※ファーウェイから分離)などのメーカーが激しいシェア争いをしており、どのメーカーもこぞって「売れてるイケメン俳優」をイメージキャラクターに起用しています。

中国のスマホはSIMカードと本体が分離しているため、通信会社は関係なくスマホメーカーが単独で広告を出しています。
iPhoneの中国シェアはここ数年約20%(約2.5億ユーザー)を維持しており依然として巨大市場ですが、iPhoneは特定の芸能人を使った派手な広告を出すことはありません。
サムスンの中国市場シェアは現在1%に満たず、中国市場から追い出された形になっています。
したがって、iPhoneを除外した約8割のシェアを中国スマホ各社が争う様相となり、「売れてる芸能人」を起用してブランドイメージの維持向上に務めています

HUAWEI(ファーウェイ) nova12シリーズ 若手俳優の易烊千玺 (イー・ヤンチェンシー/ジャクソン・イー)がイメージキャラクター。2018年からの長期広告提携。


易烊千玺 (イー・ヤンチェンシー)2000年11月28日生まれ。湖南省出身。アイドルグループ「TFBOYS」の最年少メンバーとして10代前半から芸能活動を開始。
2019年に公開された映画「少年の君」の演技が評価され主演俳優として多数の賞を受賞。以後「1950 鋼の第7中隊」(原題:長津湖)、「1950 水門橋決戦」(原題:長津湖の水門橋)、「満江紅」など立て続けに大作映画に主演。「長安二十四時」(2019年放送)に出演以降、ほとんどドラマには出ておらず、もっぱら映画俳優として活動している。
2022年7月に国家話劇院の入職資格試験の件で叩かれたことがあるが、それ以外にはスキャンダルやネガティブなニュースがほとんどない優秀なアイドル。

OPPO(オッポ)Reno11シリーズ 美形俳優の朱一龍(チュー・イーロン)がイメージキャラクター。


朱一龍(チュー・イーロン) 1988年4月16日生まれ、武漢出身。ブロマンスドラマ「鎮魂」の教授役でブレイク。
主演映画「星明かりを見上げれば(人生大事)」(2022年公開)、「ロスト・イン・ザ・スターズ/妻消えて(消失的她)」(2023年公開)が立て続けに大ヒット(Netflixで配信中)。これまでの温和で紳士的なイケメンのイメージを壊して演技の幅を広げた。

シャオミ(Xiaomi)Redmiシリーズ イメージキャラクター王一博(ワンイーボー) 2019年からXiaomiの商品ラインRedmi(レッドミー/紅米)の長期イメージキャラクターを務めている。


ドラマ「陳情令」のヒットで俳優活動がメインになっているが、元々はボーイズグループのメンバーで実力のあるダンサー。1997年8月5日生まれ、10代で中韓混合グループ「UNIQ」の一員としてデビュー。数多くの企業の広告に出ており、所属事務所YUEHUA(楽華)の稼ぎ頭。

honor(栄耀)栄耀100シリーズ 俳優・楊洋(ヤンヤン)


1991年9月9日生まれ、上海出身、名門の解放軍芸術学院で舞踊学校で舞踊を学ぶ。
オンラインゲームと古装ファンタジーを絡めた恋愛ドラマ「シンデレラはオンライン中!」(原題:微微一笑很傾城)(2016年配信)で大ブレイク。それ以前にも「左耳」「盗墓筆記」など多数のドラマに出演。2007年16歳のとき「紅楼夢」の主人公・賈寶玉の子ども時代役を演じてドラマデビュー。幼い頃から舞踊を学んでおり芸歴は長い。
楊洋(ヤンヤン)は比較的若い頃から売れた俳優で、中国ウェブドラマの発展を牽引したイケメン俳優。最近では「且試天下」などファンタジー時代劇にも出ている。
honor(栄耀)は元々ファーウェイ傘下のラインナップ。ファーウェイ本体のPシリーズ、Mateシリーズより低価格の商品ラインだった。米国制裁の影響もありファーウェイはhonorを2020年に分離。

honorのイメージキャラクターはこないだまで「山河令」でブレイクした俳優・龚俊(ゴンジュン)でしたが、新シリーズの発売に合わせて新たなイメージキャラクターを立てることも珍しくありません。

そして最近、中国スマホ広告戦線にまたニューフェイスが加わりました。

Vivoが新商品S18シリーズの広告に、若手イケメン俳優の張凌赫(チャン・リンホー)と張晚意(チャン・ワンイー)を起用したのです。
写真左:張晚意(チャン・ワンイー)  写真右:張凌赫(チャン・リンホー) 


張凌赫(チャン・リンホー) 1997年12月30日生まれ、江蘇省出身 ドラマ「蒼蘭訣」(2022年配信)に出演して一躍有名に。
公称身長190cmの長身。南京の難関大学「南京師範大学」卒業の秀才キャラでもある。最近では「寧安如夢」、「雲之羽」など立て続けに古装ドラマの主役を演じている。また、アニメ化された耽美小説「天官賜福」のドラマ版で主役の一人・花城役で出演すると言われており、他にも放送待ちのドラマが多数ある。

張晚意(チャン・ワンイー) 1994年4月22日生まれ、湖北省出身。ヤン・ズー主演のドラマ「長相思」(2023年放送)出演を機に大ブレイク。新人というわけではなく、10代の頃から俳優活動をしておりキャリアは長い。どちらかというと遅咲きだが、中国は若いときからキャリアを積み、30歳前後になってブレイクする俳優は少なくない。

張凌赫と張晚意はこの1、2年の間にメジャーになった俳優で、易烊千玺や王一博と比べると一般的な知名度はやや劣ります。
しかし、Vivoは相対的に低価格路線で若年ユーザーをターゲットとしており、上昇気流に乗っている新手のイケメンを投入するというのがVivoの戦略です。

なお、Vivo、OPPO、Xioamiなどの中国スマホは東南アジアで高いシェアを占めています。

スマホ各社は熾烈な競争をしているとはいえ、広告スタイルとしてはかなりの横並びといえます。
まず、各社揃ってイケメン俳優、つまり男性を広告に起用しています。過去にディリラバ(ウイグル出身の美人女優)がOPPOの広告に出ていたこともありましたが、基本的にスマホ広告はイケメン若手俳優に占拠されています。

いま中国スマホの広告に出ているタレントは、いずれも素晴らしい成果を収めてきた人たちです。
10代の頃から中国芸能界で活躍してきた易烊千玺や王一博、コロナ規制の中でも主演映画をヒットさせた朱一龍、新手のイケメン俳優として頭角を表す張凌赫らは中国芸能界の開拓者であり成功者です。
スマホは生活、仕事、娯楽の必需品であり、スマホ一台でビジネスを興すことも不可能ではなく、スマホ決済、オンラインバンク利用率が極めて高い中国ではスマホは金銭取引に直結し、あらゆることがスマホで処理されます。
スマホの広告に成功の象徴といえる「いま一番売れている芸能人」を起用するのは、ユーザーに成功のイメージを植え付けることが狙いの一つであると思われます。

なお、中国では広告にもセンサーシップ(検閲審査)があり、屋外広告物の掲出は関連当局に申請する必要があります。
広告に使用する単語、文言についてもNGキーワードが多数あり、センサーシップをスムーズに通過させるためにも、屋外広告物には文字自体があまり使用されず、メッセージ性のある広告はほとんどありません(政府広告は除く)。
結果的に、商品と芸能人を隣に並べただけの単純な構図の写真広告となり、広告として創意工夫があるとは言えません。
だからこそ、広告は芸能人自身の持つ知名度やイメージに大きく依存しており、起用する芸能人がどれだけインパクトを与え、商品認知に貢献できるかが重要となります。
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コロナを乗り越えて存続する上海SNH48~SNH48専用劇場オープンから10年

2024年01月16日 | エンタメの日記
いまから約10年前の2013年8月、SNH48グループの専用劇場「SNH48星夢劇院」(SNH48シアター)が上海虹口区嘉興路にオープンしました。
「SNH48」はAKBグループの上海版として2012年4月に発足したプロジェクトです。当時AKBグループはジャカルタ、バンコクなど海外展開を進めており、上海SNH48は中堅人気メンバーだった宮澤佐江らを中心に立ち上げる予定でした。
しかし、中国当局のレギュレーションは複雑で、日本人メンバーはほとんどまともに舞台に立つことができないまま、上海での活動を諦めざるを得ませんでした。一方、上海現地で行われたオーディションにはルックスレベルの高い中国人の女の子が多く集まり、中国人メンバーのみで公演をスタートさせていきます。

その後紆余曲折あり、2016年には諸事情により「SNH48」は日本側のAKB運営会社(AKS)と決別することになります。
これ以降、SNH48は中国の独自運営になり、中国運営会社が自前で用意した楽曲・振り付けによる「オリジナルセットリスト」で公演を行っています。

専用劇場での公演が始まってから10年、多くの出来事があり、SNH48は何度も浮き沈みを経験しています。
2024年現在、中国特有の様々な規制、3年間続いた厳しいコロナ感染対策を経てもなお、SNH48は生き残っています。

現在の「SNH48星夢劇院」。劇場の外観はオープン当初とあまり変わっていません。




AKBと決別して「オリジナルセットリスト」を導入したあたりから、本来のコンセプトであった元気さ、明るさ、親しみやすさといった要素は薄れ、どちらかというとクールなパフォーマンスが増えていきます。簡単にいうとKPOP化しています。
メンバー、観客(女性客)、作り手ともに普通にKPOPが好きなので、楽曲面でもビジュアル面でもKPOPの影響が強くみられます。

日本側のAKBと決別したとはいえ、「AKBモデル」である劇場公演、握手会、総選挙、リクエストアワーなどの活動メニューはほぼ踏襲しており、いまでも夏の「総選挙」がSNH48の最大のイベントとなっています。
中国では2021年に課金投票を伴うオーディション番組が当局の批判を受け実質的に禁止されたため、SNH48も「総選挙」という名称の使用をやめました。2022年以降は「SNH48グループ年度青春盛典」という名称に変えていますが、実質的には「総選挙」です。

2023年度の「総選挙」の結果
1位(金賞)袁一琦(ユエン・イーチー)SNH48チームH 7期生(2016年9月15デビュー) 2000年3月19日生まれ 身長170~172.5cm? 四川省出身
  

2位(銀賞)王奕(ワン・イー)SNH48チームH 8期生(2017年9月8日デビュー) 2001年6月6日生まれ 身長172~173cm?江蘇省出身
  

3位(銅賞)宋昕冉(ソン・シンラン)SNH48チームX 4期生(2015年1月31日デビュー) 1997年7月8日生まれ 身長166cm(公式) 山東省出身
  

4位 周詩雨(ジョウ・シーユー) SNH48チームN 9期生(2018年2月3日デビュー) 1998年4月11日生まれ 身長168cm? 江蘇省出身
  

直近の総選挙では上位7名のうち6名が165cm以上あり、すらりとしたスタイルのかっこいいタイプが人気上位を占めています。TOP16に入るメンバーの大半が在籍年数6年以上のベテランで完璧なチャイナメイクをマスターしています。

現在SNH48グループ全体で200名近くが在籍していますが、閉じられた固有のプラットフォーム上で活動しており、その中で注目を集め、ファンを定着させるのは容易なことではありません。
中国当局は芸能に対して様々な規制を課しており、資金的にもSNH48の中でやれることは限られています。
そんな中、現在SNH48を支えているのが「CP」という要素です。
「CP」はカップリングの略ですが「ペア」と理解した方がいいかもしれません。仲の良いメンバー同士が「CP」として振る舞い、デュエットパフォーマンスをすることで人気を伸ばすというものです。
SNH48オリジナルの企画として「最佳拍档」(「パートナー」)という、ペアを組んでパフォーマンスを競い合うイベントもあり、「CP」を成功させることは人気確立の鍵ともいえます。
近年のCPの成功例の一つが、直近の総選挙で2位になった王奕(ワン・イー)と4位周詩雨(ジョウ・シーユー)のCP「詩情画奕」です。現在最有力CPで、宝塚の男役と娘役のようなパフォーマンスを頻繁に披露しています。

2024年1月13日(土)成都で行われた第10回金曲賞(リクエストアワー)「双人舞」で第2位を獲得。


今回の金曲賞では卒業間近の劉姝賢とその盟友・胡暁慧が組むCP「奶包」に敗れましたが、昨年は「詩情画奕」が優勝しています。



優勝者の特典として制作されたMV「失憶」(Unaware)。ハンガリーのブダベストで撮影されました。


MVのストーリー:深い絆で結ばれている二人ですが、周詩雨は記憶を失い、自分がどういう記憶を失ったかも認識できていない。ブタベストの街中で2人は再び出会い、過去の二人と現在の二人の姿が交錯する。増えていく写真と折り鶴、無限にループする出会いと忘却、そして絵葉書に記されたメッセージ・・・という韓国映画のテイストが漂う耽美的なMVです。

2023年1月の第9回金曲省 1位「失憶」 左:周詩雨(ジョウ・シーユー)右:王奕(ワン・イー)


このMVはSNH48シアターで公演開始前によく放映されています。
中国ではBLドラマは禁止されてるのにこれはいいのか?と何ともいえない気持ちになります。SNH48は名前こそ有名ですが、閉じられた環境の中で活動しており、活動自体の露出度は高くないので咎められることもないようです。

王奕(ワン・イー)は恵まれたルックスの持ち主ですが、デビュー当初は人気がありませんでした。
最初は普通のかわいいアイドルで、公演にも真面目に取り組んでいましたが、微妙に愛想がなかったためデビューしてから3年くらいはほとんど人気が出ませんでした。
ところが、周詩雨とのCPで「男役」にキャラ変更したことで、爆発的に人気が上昇しました。
「CP」のパフォーマンスでは、メンバー二人の関係性を擬似恋愛的なものに設定することで、きわどいポーズや動作をすることが可能になります。それが「CP」の強みです。
中国は表現に対する規制が厳しいので、刺激的で目新しいものにファンは飢えており、その飢えを満たす一つの手段が「CP」なのです。
「男役」といっても本気で男性の役柄を演じるわけではなく、女の子がKPOPボーイズアイドルのコスプレをしているような雰囲気に近く、女性ファン受けがいいです。SNHの「男役」のヘアスタイルは概ねロングのストレートで茶、金、青、緑などのカラーが入っています。
SNHのファンにはLGBT指向を持つ人も少なくありませんが、それよりも腐女子が多く、SNHの「CP」パフォーマンスは腐女子がBLに求める耽美性を女性に転換して表現するようなかんじで、独特のジャンルのエンタメを作り上げていると思います。

もちろん固定の「CP」を持たないメンバーもたくさんおり、普通にアイドルをやっている子も多いですが、握手会がしょっちゅうあるわけではないので、可愛い正統派は差別化するのが難しいです。
「男役」に走りすぎると男性ファンが離れるのでリスクもありますが、すでにSNH48のファンの6割以上が女性なので、女性に好かれる属性を持っているのは有利です。

最新の総選挙の「神7」上位7名。EP「NUMBER ONE」のジャケット。7名のうち6名が身長165以上。KPOPのコスプレのような雰囲気。


SNH48が存続することができたもう一つ重要なポイントは、「口袋48」というメンバーとファンが直接交流できる専用アプリをかなり早い段階で導入していたことです。
「口袋48」は現在KPOP界で広く使われている「Weverse」に近い機能を持つアプリですが、「口袋48」がリリースされたのは2015年で、Weverseよりも遥かに早いです。
SNH48をみる限り、中国のIT、映像、ビジュアル制作力は相当高いレベルにあり、オリジナルセットリストの楽曲や衣装のセンスはかなり良いです。
メンバーの平均年齢が上がり、新人定着率が低いなど様々な問題はあるものの、どんな衣装も着こなすスタイルのよいメンバーがまだ現役で多数活動しています。
そして、SNHの「CP」パフォーマンスは、日本のアイドル界にもKPOPにも例のない独特のエンタメなのではと思います。
中国の現状を踏まえると、専用劇場で毎週公演ができているというだけで奇跡のようなもので、SNH専用劇場はエンタメの持つ魔法のような熱量と儚さが交差する場所です。
公演後、ミニバンで宿舎に帰るメンバーを見送るために待っているファン。ミニバンに乗り込むときに写真を撮れます。


虹口区の再開発が進んでおり、劇場以外の住居、店舗はほとんど封鎖され住民もほとんど退去しました。
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日・中・韓 3つのバージョンのミュージカル「スリル・ミー」~上海ミュージカルの出待ちの日常

2024年01月10日 | エンタメの日記
2023年9月下旬に池袋の東京芸術劇場シアターウエストでミュージカル「スリル・ミー」の日本人キャスト版を観ました。「スリル・ミー」はオフブロードウェイをオリジナルとする俳優2人とピアノ伴奏のみで演じられるミュージカルで、韓国、日本、中国でも上演されている人気の演目です。
これで、韓国語、中国語、日本語、3言語バージョンの「スリル・ミー」を観たことになります。

【スリル・ミー観劇歴】
韓国語版:2012年7月銀河劇場 チェ・ジェウン×キム・ムヨル版(韓国語+日本語字幕付き)

中国語版:2016年上海大劇院中劇場、2022~2023年:大世界、共舞台

日本語版:2023年9~10月 池袋 東京芸術劇場シアターウエスト


近年ソウルの小劇場で上演されている韓国版は見たことはなく、韓国版と日本版は1回(1ペア)しか観ていませんが、3バージョンの違いを挙げてみたいと思います。

【韓国版】 2012年7月銀河劇場 韓国初演キャスト チェ・ジェウン×キム・ムヨル 
10年以上前に観たものなので記憶がちょっとあやふやです。
韓国初演キャスト版の「彼」と「私」は根本的に恋愛関係というよりは支配欲が勝っており、犯罪と司法を利用して目的を果たす知能犯で、「私」は自分の行いについて後悔していません。最後まで周りを欺き、「彼」を手に入れる完全犯罪を成し遂げたことに恍惚します。愛だけでは説明できない破壊的な人格が観客をぞっとさせます。「彼」と「私」の関係性は複数の解釈が可能で、「彼」×「私」ではなく、「私」×「彼」と解釈するほうが自然だったかもしれません。
冒頭で「私」が出獄する際に手に荷物を抱えているという演出があったような気がしますが、記憶違いでしょうか。

【日本版】 2023年9月 東京芸術劇場シアターウエスト
会場が小さいせいもあり、マイクの音量が入っていないのではと思うほど生声に近い状態で演じていました。そのことに驚きました。
キスシーンがあります。「私」は「彼」に対して恋愛的な意味で執着しており、「彼」もある程度それに応えているという演出でした。
「彼」と「私」は人間的な若さ・未熟さがあり、韓国初演キャストと比べると常識的な人物にみえました。
中国版と比べると日本版はピアノと演者の息が合っており、ピアノの音量もちょうどいいです。
舞台セットや照明がとてもシンプルなので、場面展開での俳優の力量が試されると思いました。

【中国版】主に2023年1月~3月、上海共舞台の最終クール。中国語タイトル『危険遊戯』
日本版の演出は、国内の著名な舞台演出家(栗山民也)が務めていますが、中国版は韓国人演出家の指導を受けており、クレジットには韓国側監督・演出と中国側監督・演出の名前が併記されています。上演許諾自体、韓国側から受けているのかもしれません。
中国版「スリルミー」にはキスシーンがありません。
同性愛を直接連想させるような俳優同士の身体的な接触、性的な関係を匂わせる演出は抑制されています。そのため、二人がどういう関係性であるかは色々な解釈が可能で、キャストによっても解釈が異なります。
また、快楽犯罪、子どもを殺すといった反社会的パーソナリティはぼかされており、人格自体の問題ではなく、若く未熟だったために過ちを犯したが、そのことについてはある程度後悔しているという演出にされています。つまり、道徳的に説明がつくキャラクターに修正されています。



中国の「スリルミー」ファンは、中国版の歌詞やセリフ、演出が変えられていることに不満を抱いており、全体的に辛口の劇評をよくSNSに投稿しています。
しかしながら、私は日本版を観たことで、中国版「スリルミー」には良い点がたくさんあることに気づくことができました。

中国版は、まずなんといっても俳優のルックスレベルが高いです。若い、高身長、スタイル抜群、顔がいいです。
そして、基本的に声楽を専門に学んでいるので、ミュージカル歌唱ができています。うまい人ほど滑舌が良く歌詞が聞き取りやすいです。

「スリルミー」に関していうと、中国版の方が舞台セット、照明がきれいです。
中国版は照明効果に助けられている部分がかなり大きく、舞台セットがきれいに見えるのも照明のおかげだと思います。
照明の明暗がはっきりしており、ブルー系のライトはとくにきれいです。
舞台では照明の配色や当て方によって、役者の心情表現を補うことが可能です。
日本版の舞台が白黒の紙漫画だとすると、中国版はカラーのウェブトゥーンで、日本版は生身の演技への依存が強く、中国版は設備・技術の応用がうまいです。


中国版「スリルミー」は「彼」が「私」を殴るシーンが2回あります。2回目は「私」が吹っ飛ぶくらい激しく殴ります。
この殴るシーンは中国版「スリルミー」の重要な見どころの一つで、リピーターはこのシーンになるとオペラグラスをすっと構えます。
日本版にはこの殴るシーンがないので逆にびっくりしました。

もう一つ、「スリルミー」に限ったことではなありませんが、中国ミュージカルのすごく良い点があります。
それは、チケットが取りやすいという点です。基本的に満席にならない公演が多く、平日夜公演は3分の1くらいしか埋まっていないこともよくあります。
そのため、自分が行きたいときにふらっと観に行くことが可能です。
そして、終演後には「出待ち」(SD/ステージドア)があります。
観客が少ないときは必然的に出待ちをする人も少なく、そういうときは上海ならではの楽しいボーナスタイムとなります。
俳優さんは早ければ終演から15分くらいで出てきて、出待ちをしているファンに写真を撮らせてくれます。タダでイケメンを間近で見ることができます。
大抵の場合「出待ち」を仕切る古参ファンがおり、俳優に気の利いた質問を投げかけてくれたりして、それに俳優が乗ってくると、舞台裏の小ネタを語るような屋外ミニトークショーが始まります。

「スリルミー」が上演されていた上海共舞台での出待ち風景。


「スリルミー」で「彼」を好演していたミュージカル俳優・趙偉鋼(チャオ・ウェイガン)。1991年生まれ、南京芸術学院出身、身長は180弱だと思います。芝居がうまく四肢の動きが非常にきれいな俳優です。
韓国ミュージカル「ヴァニシング」(VANISHING)中国版『消失』(2023年9月15日~11月12日 上海共舞台)での出待ち風景。ファンが頼んだポーズをしてくれます。


中国版「スリルミー」で「私」を殴るときの趙偉鋼はものすごくかっこよかったです。
「I'm Afraid」でのたうち回る場面では動きを旋律に絡めるのがうまく、動きに色気があります。歌よりも演技で観客を納得させられる中国ミュージカル界には珍しいタイプ。中劇場主演、大劇場助演クラスの俳優ですが、6歳年上のミュージカル女優と結婚したことを公表しており、そのことも好感度アップにつながっています。

趙偉鋼クラスのキャリアのある中堅俳優は、誰にでもサインをしたり、ツーショット写真を撮らせてくれるわけではありません。
古参ファンの誕生日など特別なケースのみサインやツーショットに応じているようで、オタクと俳優の信頼関係が垣間見える瞬間です。


劇場のすぐ近くの路上パーキングにいつも車を停めています。車までファンはお見送り。本人が運転し、たまに奥さんや仲の良い共演者を乗せて帰ることもあります。


中国の舞台にも良くないところはあり、その筆頭は観劇マナーです。
上演中の会話や盗撮はさすがに少なくなってきましたが、観劇中にスマホをいじっているお客さんは多いです。
各列2、3人はスマホをいじっている人がいて、スマホの明かりが気になります。
ただし、中国のミュージカルは席種が細かく分かれており、前列席になればなるほど価格が高く設定されています。つまり、前の列の人のスマホの明かりが気になるのは、自分が安い後列席に座っていることが原因の一つでもあるのです。もっとお金を出して前列席を買えばこの問題はある程度回避できるので、安い席で観る以上、仕方のないことだと思っています。
それに、本当にお芝居に引き込まれていれば周りの環境は気にならなくなるはずです。後方列まで引き込まれるような舞台に巡り合えることを願って、大抵いつも2階席で観ています。
カーテンコールは常時撮影可能で自動シャッターの音が劇場に鳴り響きシュールです。
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